第4話 キャンプにて
空き地からキャンプまで、実の所は其れほどの距離は無かった。
この距離なら、無作為にうろついていても……いや、やはり運試しするなら、反対側へ行ってしまって無駄な時間が過ぎていたかもしれない。
巨人に連れられて来たキャンプは、私が切り開いた空き地と同程度の広さを持っていた。
見かけは地方の空港のような、小規模な管制塔と付随する建物に蒲鉾型のガレージがあり、そこから延びる滑走路は途中で途切れていた。
また、周囲には森の木を切り倒して作られたらしい、丸太の壁が築かれ、森の浸食を防いでいた。
建物や滑走路以外の地面部分には、大部分がコンクリートが敷かれており、一部は石を敷き詰めているようだ。
恐らく本来は、軍施設か空港だったのだろうが、今では背後も森に取り囲まれており、取り残されてしまったのだろう。
そんな事を観察している私は、現在拘束されており、私を連れてきた巨人はその姿を見眼麗しい女性に変えていた。
実際の所は「共生型拡張戦術装甲」という名の、生きたパワードアーマーとでも言うべき、着ぐるみを被っている状態が巨人だという事らしい。
実際に見ても未だに信じられないが、巨人の腹部辺りから分割・展開し、中から女性が現れ、あの巨体がその女性の背中に吸い込まれるように消えていった。
風船でもあるまいに、あの質量というか体積は、一体どこに行ったのか。
因みに、内部の女性は肌も露わな恰好をしており、非常に目のやり場に困る。
なんでも、生体装甲にカロリーの補充・円滑な動作命令の伝達の為、素肌の面積が必要だとか何とか。
「何やら心此処に在らずといった様子ですが。
わたくしの話をしっかりと聞いておられますか?」
そう言って、差し棒の先端で私の頭をぺしぺしする方は、銀髪のプリンセスカットも凛々しい知的なお嬢さん。
このキャンプに居る隊の医療・索敵担当のバックアップメンバーで、何を聞かれても暖簾に腕な私の相手を、根気よく続けてくれている。
先の知識も、このお嬢さんの教えだ。
因みに最初に私を巨人で捕まえてきた女性は、長身赤毛のボーイッシュなショートヘアで、活発短気な印象通りに隊の前衛を務めており、私のハッキリしない処か何も知らない状況に耐え兼ね、放り投げていきなさった。
最後に投げられた「飽きた」との言葉は、別の意味で傷付くから勘弁願いたい。
「大丈夫です。 ちゃんと聞いていますよ」
「それなら結構。 私も暇ではありませんので」
ピシャリと怜悧な声を投げられ、こんな女性が教師だったら、さぞ人気が出るだろうな等と愚にもつかない事が頭によぎる。
私は別にゾクゾクしたりする事は無かったが、そういうのが好きな人は堪らないだろうなとも思う。
「それでは、繰り返しになりますが、貴方の所属と姓名を」
「平 常生、日本人です」
もう何度も繰り返されたやり取りだが、私はこう答えるしか答えがない。
「はあ、判りました。 あー、ミスター・タイラー?」
「ああ、ツネオで構いませんよ」
その呼び方だと、某豪運のスチャラカ主人公みたいです。
「ではツネオと。
あなたは何故、あんな処で、しかも無事で居られましたか?」
「あそこに居たのは、知らない間にとしか。
無事だったのは、スキル? 能力のお陰ですね」
言ってて、自分でも詳細不明ですが……お値段以上ではありました。
「では、その能力とやらの詳細を」
「えー、一回1㎡内の植物に対して発動。
その範囲内の植物を消費し、体積に応じて食用可能な果実や野菜に変化します。
他には無意識の場合でも、危害が近寄った際等には、勝手に発動しているようですね」
「貴方は日本が開発した、特殊能力者という事ですか?」
「違います。 まあ、此処の日本に、私と同じスキルを持つ人間が、居ないとは限りませんが」
あの有無さん、何処に居ても不思議じゃない雰囲気がある。
「では、そのスキルは、どうやって身に着けたのですか」
「恐らく以上の推測はできませんが……。
人類以外の存在……正体は分かりませんが、何かしらの利益の為に、私に能力を付加して、此処に送ったと思います。
ただ、それも取得は自分に選択させていましたし、いきなり死んでいた可能性も考えると、他にも同じように送られて来ている人間が居るかもしれません。
まあ、利益と言っても、面白そうというだけかもですし、私だけという可能性もあります」
実は有無さんが人間じゃないだろうなという以外は、何も判らないという事が判った。
「まったく、可能性可能性の上に、出来の悪いファンタジーですね。
では、あなたの言う人類外の存在と、どうやってコンタクトしたのですか。
また、貴方の能力の代償やコスト、デメリットは」
「失業してハローワークに行ったら、相談窓口に居ました。
代償は貯金50万円ですね、コスト・デメリットは今の所なさそうです」
森の中では状況的に強制発動状態だったけど、任意のON・OFFは出来そうで、何でもかんでも消費という事はなさそうだ。
「……」
銀髪お嬢さんが、おーじーざすって感じに、頭抱えて座り込んでしまった。
「大丈夫ですか?」
恐る恐る話しかけてみると。
「大丈夫かですって? 良く言ったわ、ツネオ!!
とりあえず、その出来の悪いファンタジーを試させて貰います!!」
爪を嚙み、何かを振り切ったかのように、キーってなりながら立ち上がった銀髪さんが、唐突に上着を脱いで生体装甲を被ると、私を椅子と拘束ごと引っ掴んで、キャンプの宿舎から飛び出した。
宿舎というよりは改造したガレージだが、生体装甲を使うには天井高いのが便利なのだろう。
椅子の背もたれを巨人に捕まれている関係上、私の体はうつ伏せで、眼下に飛ぶ様な凄い速度で流れる地面が見える。
足元に向かう加速度に血が下がる為、気が遠くなりつつも、私にとっては生体装甲も十分ファンタジーですけどもねーと思ってるうち、キャンプの外縁に辿り着いた。
そして、椅子ごと森に向けて突き出される私と消える森の一部。
バラバラと大量に降り注ぐ、変換された野菜や果実。
アイテムボックスは空気を読んだのか、回収はしなかったようだ。
「きゃあーーー、出来の悪いファンタジー最高ー。
新鮮なサラダとフルーツよー」
狂喜して吠える巨人イン銀髪さん。
怪しい能力で湧いて出た野菜や果実に問題はないんですかね。
あと椅子を手放されて、顔面から地面に突っ伏してる私を、埋め殺さんとして降り積みあがる野菜達から救って頂けると有難いんですが。
拘束されてて、身動き取れないんですがががががが、スイカや瓜はやめろー。
頭の真横で、大玉のスイカが弾けて、視界が真っ赤に染まった。
「殺す気かーぐふぁ」
堅くはないが、水気の多い重たい感触が後頭部にぶちあたって、折れたのが感じられ、そのまま気が遠くなっていく。
砕けた物はどうやら大根だったように思えた。
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