第2話 白い部屋とスキル

 ふと気付くと、どこもかしこも白かった。


「あれ? ここは」


 さっきまで、ハローワークのカウンターに居た筈なのに。

 私は自分が、立っているのか座っているのか判別できない程に、自身の状態が感じられなかった。


「まさか、死んだとか」

「死後の世界ではないですよ」


 応えはどこかで聞いた声。

 いや、恐らくさっき迄、ハローワークで聞いていた声に違いない。


「有無さん、私に一体何をしたんです。 元の場所に返して下さい」

「いや、既に契約はされているからね、それはできないよ。

 これから一仕事して貰う迄、帰る事はできないからね」

「そんな勝手な。

 一仕事って、私に何をさせようと言うんです」


 私はこれが尋常の出来事ではないと感じていた。

 一体何をさせられるのか、体が恐怖に震えている。

 それで初めて、自分がこの白い世界に立っていると、自身の体を認識した。


「そろそろ、この場所に順応できたかな?

 先ずは報酬の先払いとして、この世界をあげよう」

「世界? ここは何なんです?」

「平 常生、君に付随する何処でも無い場所だよ。

 最近の流行で言うと、自分も入れるアイテムボックスさ。

 此処に、これから行く先で手に入れた物を入れておけば、帰って来た時に元の世界で取り出せるのさ」


 その言葉が、耳に引っかかり、その意味に怖気が走った。


「これから行く先? 元の世界?

 なんだか、違う世界に行くように聞こえますが」

「正解、良い分析力だよ。

 これから君にはとある世界に行って貰う。

 そして、そこで君が死ぬか、条件を達するまで過ごして貰う。

 まあ死んだとしても、君に害はないけど、

 悲しい思いはするだろうから、全力で頑張ると良いよ」


 無慈悲に正解を押し付けられて、自分を誤魔化す事も出来ず、気が遠くなる。

 その様子を有無さんはケタケタと笑う。


「一体……貴女は一体」

「私? 私はただの案内人……人間より、ちょっぴり他にも案内できるだけさ。

さて、そろそろ行くよ」


 有無さんの声が無慈悲に告げる。


「いや、行き先はどんな世界なんですか!!」

「お、覚悟は出来たみたいだね。 でも、前情報はあげないよ。

 ただ、少し手助けはしてあげよう」


 声がそういうと、私の目の前に文字が現れた。

 この白い世界に入って、目が見えているのか見えていないのか判らなかったが、初めて視覚が働いていることを認識した。


スキル(各50万円)

・徳用カリカリ(右手から無限に徳用カリカリが出る。

お肉とお魚風味がたっぷり。

人が食べてもソコソコ美味しい)

・猫用ミルク(左手から無限に猫用ミルクが出る。 幼獣にも安心。 薄くて味気ない)

・採集(一回当たり1平方メートル内の範囲に存在する植物を消費。 範囲内で消費した体積分の果実や野菜が出現する)


「今回に、お勧めのスキルを選んでおいたよ。

 出来れば全部持って行くと良いよ」


 私の貯金額を見透かしたような値段だった。

 やはり、言葉に嘘は感じないが……行き先は食べ物に困っているような世界なのだろうか。

 考えている時間もなさそうなので、思い切って全部購入?した。

 考えるだけで選択され、そのスキルについての知識も身について、口座から引き落とされたのが理解できた。

 貯金は無くなったが、驚く事に元の世界でもスキルは使えるらしい。

 だが、喰い詰めてカリカリを齧るのは少し遠慮したい。

 採集は枯葉を集めた時でも使えたりするのだろうか。


「やはり僕の見込んだ通り、適応が早い」

「諦めが良いだけですよ!! クソが!!」


 さて、時間のようだ。

 周囲が暗くなって行く。

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