第5話 捜索開始
なんとか
というわけで俺たちは女子の体育で使用したテニスコートを捜索しようとしたのだが。
「ナイボー!」
「ドンマイドンマイ!次あるよー!」
「声出してーー!」
テニス部は体育会系の空気で圧迫されていた。その迫力にビビるビビる。ここでも青春を
ソフトテニス部と硬式テニス部がどちらも活動している。男女ともに。やや硬式テニス部の方が人が多いように見受けられる。
こんな白熱した雰囲気に「すんませーん探し物あるんでお邪魔していいっすか?」なんて言おうものなら顔面にスマッシュを受けることになるだろう。あれ年末の笑ってはいけないビンタぐらい痛いと思うんだよね。目が開けられないもん。
「どうするんですか?」
「もちろん探しに行くに決まってるでしょ。やっぱり
「遠回しに雑用になれってか。いいぞ。頭を使わない仕事なら大歓迎だ」
「何言ってるか分からないからとりあえず行くわ」
「待て待て。正気か?この熱血感溢れるこの情熱の塊みたいな場所に飛び込む度胸ある?」
「疑うの?分かった。今から証明してあげるから」
「テニス部の人が休憩してる時に行けば……」
「そこ邪魔!!危ないよ!」
「何するのよ!私は依頼者の望みを叶えるために……」
「言いたいことはよく分かったから一回作戦を
「す、すみません。決して、決して怪しい者ではないんです……。本当に、ちょっと……じゃ、邪魔しようとしてただけなので」
「言い方!誤解が誤解じゃなくなるから!」
俺と
なんなら俺は体を
よく見ると中代はブンブン振り回されている。どうやら力が弱すぎて意にも
「明日!明日出直そう!朝は空いてるだろうから」
「そ、そうしましょう!ヘアピンは逃げたりしませんから!」
「私は……。一刻も早く見つけ出さないと……いけないというのに!」
「その使命感はどっから出てきてんだ」
何故探して欲しい側が探すのを止めさせようとしてるのだろう。
依頼人の意思を放置している探偵。探究心のバケモノと化していた。恐ろしや恐ろしや。てかこれって明日も続くの?
ギャアギャアと
***
翌日の早朝。ホームルームが始まるおよそ一時間前からテニスコートでヘアピンを探している。桜の
一方成宮はというと、
その証拠に彼女の横には大量の雑草の山。塵も積もれば山となるを体現している。先を見据えすぎではなかろうか。
もうすぐ始業のベルが鳴る。テニスコートは十分の一も探せていない。このままでは、テニスコートを探すだけで一週間はくだらないだろう。それは困る。何が悲しくて朝から探し物を必死にしなくてはならないのかさっぱりわからん。
ただ闇雲に探しても
「中代。成宮。もうここらで引き上げよう」
「そ、そうですね……」
「雑草抜いて本当に見つかるの?」
「知らん。お前が盲信してやってたんだろ」
テニスコートでの探し物を毎朝の日課にされても困る。ここは攻め方を変える。
「ヘアピンがどこで無くしたのか分からないってことは中代が何処かへ持ち出したってことだよな」
「何言ってるの。当たり前じゃない。そんなことも分からなかったの?」
「確認してるだけなんですが」
「まぁ聞け。例えば、誰かがヘアピンを持ち出しているところを見てるかもしれない」
「え……?」
「それって、まるで誰かに盗まれたみたいな言い方……」
あ、やべ。
「か、可能性の話だから……。基本的にはこのテニスコートにあると思う。でも放課後は探せないからもしテニスコートに無かった時のケアのつもりで提案したんだが……」
「そ、そうですか。……そうですよね。わざわざ私のものなんか盗む人なんていませんよね」
中代が胸に手を当てて動揺を抑える。地雷を踏み抜きかけたが、首の皮一枚繋がったらしい。危ねぇ。なんとかなった。毎朝の日課はできてしまったが。
「本当にデリカシーの欠片……
「そこまで言うんだったら、むしろ全くないって言ってくれ」
ついでに探偵からのジト目も頂きました。キツい。主に精神的に。女心どころか心すらよく分からないんだ。やっぱり俺には女子と青空の下で春を過ごすなんてできそうも無い。
俺たちはその場で解散することになった。これが毎日続くのかよ。
青春なんてものは妄想と空想で成り立つ幻想だ。幻想を殺せる右手が欲しい。現実を見ろ現実を。
***
放課後。俺は
代わりに自分と同じクラスの友達に話はつけておいてくれたらしい。一人ストッパーが抜けたのは大きい。昨日のように成宮が暴走しなければいいが。
成宮は呼んでくると言って教室に突撃したが、大丈夫だろうか。俺は自分のクラス以外の教室に入るなんて、戦争している中に丸腰で突っ込むようなものなので遠慮した。自分の身は自分で守らないとな。
「連れてきたよ。この子が中代さんの友達の
「あ、どうも……」
「
心の準備が全然できてないんだけど。あれ?お前が聞いてくるんじゃなかったのか?俺に紹介っている?焦って陰キャみたいな反応しちまったじゃんか。だが俺も女子と共に活動することで不本意ながら耐性も付いてきている。俺の陽キャムーブをお見舞いしてしんぜよう。
「どこかで話したことあったっけ?」
「……?い、いや無いと思うけど」
テンパってんじゃねえか俺。なんか榊も動揺してるし、発言を間違えたのは間違いない。間違えろよ。逆に間違っててくれよ。いや間違ったらダメだろ。あかん。もうギブ。
榊は黒髪ショートで身長は成宮よりも少し高く、スタイルも良い。出るとこは出ている。成宮とは比べるまでもない。
だが、そんな正統派美少女の容姿に見惚れそうだが、どこか既視感があるように思える。
「何か下卑た視線を感じるんだけど」
「それは思い込みだ。大丈夫。まだまだ未来に希望は持てる」
「よく分からないけどぶん殴りたい……」
「二人とも仲良いんだね」
「「それは無い」」
成宮と話していると落ち着く。なんか遠慮するって考えが無いからかもしれない。何言ってもいっか的な。多分友情とか親愛とは違った何かだと思われる。よって友達ではない。
生暖かい保護者のような視線を感じる。本当にやめてくれ。体を掻きむしりたくなるこのもどかしさ。ほら、成宮も心なしか不機嫌になりつつある。ガルルルルと唸り声が聞こえる気がする。
閑話休題。時を戻そう。
***
「……ということがあって、
「そういうことなんだ。すごいね。人助けを率先して行うなんて」
そこ、私たちな。俺の存在忘れてない?もしかして俺は要らない子?
要らない子視点だと、正直見つかる気がしないからどこかで落とし所を見つけたいと思い始めているんだが。
「でも
「そっか……。どんなに小さなことでもいいの。何か覚えてない?」
流石に無理だろう。一々友達の行動を覚えてるなんて、執着心に
「えっとね……。確か美術の教室に行く時に急いでポケットに入れてた気がする!」
「え、まじ?」
吉報だ。心なしか世界が明るく見える。これで毎朝の日課からおさらばできる。まだ一日しかしてなかったけど。
だが一人、肩をがっくりと落として悲痛な呟きを溢す者もそこにはいた。
「私の朝六時からの草むしりは一体……」
「運動部の朝練より早かったのかよ」
野球部が朝の六時半から練習していたらしいが、まさかどの生徒よりも早く来ていたとは。だからあんな山ができるくらいまで草が抜けてたってことなのね。なんたる時間の無駄。
もしかしてポンコツの気質があるのだろうか。やっぱり迷探偵の名はあながち間違ってないのかもしれない。
「でも美術教室には無かったぞ?じゃあどこで落としたんだ」
「あと、午後の授業はどっちも教室だったよ」
「そ、そっか」
俺の独り言めいた発言に反応してくれた。その優しさに脳が震えるが、小声で
それはさておき、榊の話が本当なら、無くした場所は限られていそうなものだ。他に移動する場所なんてあるのか?
「あ、ちなみにお昼はどこで食べたの?」
「ん?食堂だよ」
「げ……」
食堂の広さは教室の比ではない。テニスコートよりは狭いが、教室何個分あるのかすら分からない。
俺と成宮は顔を見合わせる。どうやら朝の日課はもう少し続くらしい。
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