第3話 探偵部員(仮)
「話があるから一緒に来てもらっていいですよね?」
「なんで敬語。任意じゃなくて強制だろその言い方。ヤダ怖い怖い怖い」
頭をブンブンと横に振った後、
任意なんて権力を持っている人間が言ったらあら不思議。強制に早変わり。職質を断ろうとした時の警察官の目の色の変わりようは
「下の自販機まで来てもらおうか」
「今日はちょっとあれだ。あれがこれでそれなんだ」
「日本語の悪い部分が全面的に出てきてるぞ」
動揺しているのか、情報量と文字数が反比例している。やりらふぃー並の
「部活のことで話がある」
「俺は
俺がそう言った瞬間、一条は顔を
「君が
「言っとくけどやりたくてやった訳じゃないからな!そこだけは勘違いするなよ」
口が軽い。軽すぎるが、誰に命令されて実行したかまでは言うつもりは無いらしい。焦っていた様子はどこかへ消え去り、本来の
「自白してんじゃんか……。え、待て。やりたくてやった訳じゃないって?」
「とりあえず頑張れとだけ言っとく。じゃあ俺は部活行くから」
実行犯は分かっても計画犯の動機が不明だと、俺が一条に
変なところで
絶対に不合格、もしくはバックれてやるからな!面接は大の苦手なんだ。
***
放課後。掃除を終えて地歴準備室のドアの前で立ち
ノックをしようかどうか迷うが、ノックをしてしまったらもう引き返すことはできない。というわけで、俺にはまだ心の準備もお腹の準備もまだ整っていないのでこれからトイレに二時間ほど力を貯めてから挑んで……。
などと現実逃避百パーセントの考えを実行すべくトイレに
「あ、ごめん」
「ううん。こっちこそごめんね黒咲君」
あれ?今俺の名前を言ったのか?この学校にちゃんと覚えてる奴なんて片手で数える程しかいないと思ってたのに。これは俺に時代が追いついてきたというべきですね。
俺のことを知ってる物好きの顔を見ようと彼女の声がした方向を向いたが、既に彼女はドアの近くから離れ、俺の行く方向とは反対の方向へ歩いていく姿が視界には映っていた。距離が空きつつ、振り返る様子もない。黒髪で髪は短め、身長は女子にしては高い方だと思う。それ以外の特徴は目で追いきれなかった。
ぶつかった時に何かが落ちたような気がしたが、ドアの近くには何もない。気のせいだったようだ。
何故か彼女の雰囲気にどこか懐かしいものを感じる気がする。おそらく気のせいだろうが。てか名前覚えられてるだけで印象に残るって中学生かよ。
「もう来てたの。意外と早いのね」
いつの間にか腹痛は消え去り、少しばかり平静を取り戻したところに昨日ぶりの女子生徒が一人。
「第一印象は良くした方が後でバックれる時もダメージ少なそうだからな」
「心配しなくても大丈夫よ。昨日の時点で内定はそこそこ絶望的だから」
「覚えてたのかよ……てか厳しすぎる」
「君って教室じゃ存在感が
「前から二番目の席なんだけどな……」
不毛なやり取りだ。俺にしかダメージがこない。
これからどうなってしまうのだろう。なるべく
地歴準備室の中はきちんと整理整頓されていて、軽く見渡しても
教室の中心部に四組ほどくっつけられた机の一番窓際の席に成宮は座った。動作が
成宮が目線で早く座れと
カースト上位であればたとえ顔がどんなに可愛いとしても自分から近付きたくはない。人間の裏の顔というものは
だとしても入部テストとは何をさせるつもりだろうか。
どっちにしろ解ける気はしない。俺は普通の高校生だからな。東西どちらの高校生探偵でもない。名は
ちなみに教室内も静まりかえっている。何この空気。だが俺は沈黙に耐えかねて喋るなんてことできない。沈黙は金。そこいらの
女子に話しかけるというのがまず無理。吃るように話しかけて、「え、何?なんて言ったの?」と嫌そうにされた時点でトラウマ行きだ。何でみんな人見知りとコミュ障に厳しいの……。
「ねえ」
沈黙に耐えかねたのか、
「ねぇ。聞こえてる?」
「あ、はい。聞こえてる」
だが出直す
「何でそんなに暗いの?」
グサリ。こいつ、言ってはいけないことを言ってしまった。呆れた顔でこちらを見つめる成宮。どうやらこの人は道徳の授業を受けてこなかったらしい。相手を傷つけるようなことは言ってはダメと義務教育で習わなかったのかこの
「そんなことないだろ」
「いいえ、世界の誰が見ても暗いって言うわ。もう
流石に
「自分のことは分かってるからいいよ。ご忠告どうも」
「いるのよね。自分で理解してるからほっといてくれっていう人。変わろうともしない
「それは俺のことを言ってるのか?」
「自意識過剰も
どうやらとんでもない
「お前性格終わってるぞ」
「はぁ?私は表情と姿勢を正して少しでもいいイメージに見えるように、ってアドバイスをしてあげようとしただけなのに、どうしてそこまで言われなくてはならないの」
「ならアドバイスだけすればいいだろ。下げて上げようとするな。絶対に教職系に就くなよ。学生の将来を
お互いに立ち上がって睨み合う構図が続く。何故こんなことになってしまったのか。早く帰りたすぎる。入部テストはどこにいったんだよ。早くしてくれ。不合格でいいから。
「で、入部テストはいつやるんだよ」
「今からするわ。はいこれ。制限時間内に全部答えて」
目の前に出されたのは一枚のプリント。訳の分からない数字が並んでいる。謎解きか?そこは「
「今年のとある旧帝大学の入試問題よ。この部活に入るからにはそれなりの知能が」
「分かった帰る」
「ちょちょちょっと待ちなさい!待って!本当に待って!」
そこそこの普通校の高二が偏差値レベチな大学の問題をほいそれと解けるか。付き合ってられん。時間の無駄だったようだ。
帰ろうとする俺の目の前に手を広げた成宮が立ち
「そもそも俺は入部したいわけじゃ……」
受かる気のない入部テストから逃れようと言い訳を重ねようとしたが、そこへ無機質なノックの音がコンコンと響く。
こんなところに何の用事だろうかと思ったが、ここは探偵部。用事がある人間も少なからずいるかもしれない。そしてドアの向こう側にいた。
「どうぞ!遠慮なく入って!今すぐに!」
「逆に入りづらいのでは……?」
やいやい騒いでいた俺たちもノックに気を取られるが、成宮の迅速な対応が俺の逃げ道を塞ぐ。
冷静に突っ込んでいる場合じゃなかった。俺は今のところ部外者だ。多分。逃げるなら今しかない。
「あの……。ここが探偵部……で合ってますか?」
「ええ。合ってるわ。二人で活動しているの」
「二人?お前の他にも部員がいるのか?」
「私の目の前にいるじゃない。節穴?」
この教室には現在三人の生徒がいる。依頼人、探偵部員、入部希望者。いや俺自身が希望したわけじゃないけどな。
しかしこの状況。節穴なのは俺じゃなくて貴女の方では…… ?
「正気か?入部テストを受けてすらないんだが」
「仮入部を認めるわ。光栄に思いなさい」
「有り難き迷惑だ……」
こうして俺は探偵部員(仮)となったのである。何故。
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