第2話 予期せぬ再会
季節は春。入学式から一週間ほど経過し、新入生も高校生活に慣れだした頃。高校生活のど真ん中で
一体いつからーーーーー俺がボッチであると錯覚していた?
とはいえ、俺から「一緒にお昼食べよう?」「うんいいよー」「やったーわーいありがとー!(これで昼ボッチ回避)」という
そもそも陽キャに話しかけるとかハードル高すぎる。神のみぞ知る程には高い。
俺が昼食を取っているテーブルに、こいつが勝手に相席いいよね?と言わんばかりに俺が許可を出す
他人よりパーソナルスペースが広いと自負する俺に取っては対象外からぶっ込まれる距離感は苦手だが、こいつはそんな事はお構いなしに
陽キャってまじで距離近い。ソーシャルディスタンスってご存知?
「
何だその質問。
そもそも昼食を取っている時にする会話にしては場違いというものだ。せっかくの塩ラーメンが
しかし、名前のあっさり感とカロリーは比例しないので要注意。
「友達は量じゃない。質だ」
「いないのか……」
勝手に決めつけんな。俺の持論からどういう経緯でその結論に至ったのか説明していただきたいものだが、説明されたらされたで俺の精神力がごっそり削られる気がするので今回は聞き流すとしよう。
無駄な争いは起こすべきではない。誰も幸せにはならないのは自明の
そろそろ説明すべきだろう。目の前の男の名は
顔は良く、身長も百七十は余裕で越えている。高校に入り、風の吹くまま気の向くままにチャラつき始め、髪は茶髪。
だが、無駄に
何だお前は。そこら辺のモブ陽キャを
「神様は人の上に人を積み上げるよなぁ。ピラミッドの
「何?病んでんの?元気出せって。カラオケでも行くか?」
「誰がお前と行くか。一対一ならともかく、お前らは多人数がスタンダードだろ」
「普通、一対一は女の子と行くぐらいしか無くない?」
「普通って何ですか……?」
それは俺の知らない世界のお話ですねぇ。そもそも一人カラオケ以外で行くことがないからな。今じゃスマホのアプリでカラオケができる時代だぞ。わざわざ金払って、三時間で数曲ぐらいしか歌えないなんてコスパ悪すぎ。
男は黙って独りで自分という壁を乗り越える為に立ち向かうのだ。黙ってちゃ壁どころか独りという状況に対する
好きでもない
一人で俺得アニソンメドレーを熱唱する方が断然楽しいよなぁ……店員さんが入ってきて気まずい空気に引き
「じゃあ部活は?この高校、部活の種類多いから入ればいいのに」
「なんで急にそんな話になるんだ」
「いやだって
「日本の社会で生き抜く為に耐性を付けてるだけだ。……どうせ社会人になったら残業と休日出勤がもれなくついてくるからな……」
「
日本は本当に労働時間が長すぎる。休日出勤も夜勤も普通に存在する。ぴえぇぇんお先がブラックホールだよぉ。吸い込まれて分子レベルで精神が砕け散る未来が見える。やっぱユーチューバー最強だな。今からでも遅くない。始めてみようか。取り
でも人前で話すのは苦手だし、一度動画をアップすれば半永久にネットの海に
一条は自分がサッカー部に所属しているのもあってか、やたら部活を薦めてくる。
部活に入って青春を
会話の中身を俺が徐々に無くしているから会話のテンポが途切れる。一条も束の間の沈黙の後に同じ話題を繰り返すことはない。
「なぁ一条。聞きたいことがある」
「改まって何。気になる子でもできた?」
ニヤニヤとして、
でも俺はあと一年で成人だし、実際、気になる子がいたのは事実なので、表情は顔に出さないで質問を続けることにする。
「探偵部って知ってるか?」
「そんなに知らない。ていうか結構な
「知ってんじゃん」
「名前と部員だけはな。」
どうやら探偵部はあまりメジャーな部活ではないようだ。まあ何となくそうだろうとは思っていたけど。
擬人化したらどんな美少女になるのかしら。はたまた「漢の子」という新たな世界が開けてしまうのか。これはプロデュースし
「お前でも知らないことがあるんだな……陽キャの分際で」
「偏見がすごい」
最高のプロデューサーランクを目指すのはさておき、ラーメンをさっさと食すとしよう。麺は硬めに限る。名残惜しいが、別れを惜しみながらいただく。
だが、「
「その探偵部?に入部するつもり?」
「いやしないけど?」
「一回入部すれば?周りの景色が変わって見えるかもよ」
「探偵だもんな……。より鮮明に
「恋愛しないという結論に至る未来しか見えないんだよな……」
だが、下を見てみれば、少なくとも自尊心は保たれる。
何もできない自分を追い詰めるよりも、誰かよりはできる自分を肯定する方が楽に呼吸はできる。救えるのも殺すのも結局は自分自身だ。なら自分ぐらいは自分の味方でいたい。
一条は俺との会話をいつもの事と判断し、話半ばで聞いていた。俺の話に
「
「俺は割と今の平穏な日々に不満はないぞ」
正直な
「話は変わるけど、放課後に地歴準備室に行くことってあるか?」
「世界史の先生に用事がある時ぐらいじゃない?」
生徒が
先生に用事がある以外の理由で地歴準備室に出入りする理由があるとするならば、やはり地歴準備室のドアの前の張り紙だろう。
つまり「探偵部」。彼女は何かしら「探偵部」に関わっているということだろう。
予想はあくまで予想だ。事実ではない。社会科の先生に提出物を届けただけかもしれない。決定的証拠が無い以上、断言することはできない。
「宿題でも忘れた?」
「まぁそんなところ。さっき
いつの間にか一条は完食してスマホを弄っていた。一瞬見えてしまった画面には複数人の学生がカラオケで歌っている映像だった。はいはい楽しそうですねー。アオハルアオハル。
誰も傷つかない嘘はついても罪悪感に見舞われることもない。あと、面倒臭いことから逃げるための嘘も罪悪感を感じることは少ない。だって面倒だもんね!
***
昼食を食べ終え、
五時限目の授業は英語。話し方と授業のテンポがスローリーな先生なので時間が過ぎるのが倍に感じる先生だ。、朝だろうが昼だろうが眠くなる授業ということである。生徒の敵。
俺の教室の席は前から二番目。もし睡魔に敗北してぐっすりとおやすみしてしまった場合、起こされてクラスの注目を集めるのは目に見えている。また隣の女子生徒に起こしてもらう訳にもいくまい。
昼休みが終わるまでの十数分。今日中に提出しなければならない宿題も無い。片時の昼寝と
開いたままのドアから一人の美少女が教室の外から誰かを探しているのかキョロキョロと視線を忙しく動かしていた。
俺には関係ないだろう。大体女子から話しかけられる時は「宿題見せて」もしくは「アメちょーだい」のどちらかだ。
断れない自分が憎い。もっと……俺に嫌われる勇気があれば……。
「なぁあれって……」
「誰かに用事かな?それにしても……」
「いつ見ても可愛いよなぁ……」
発言が教室内を
***
夢を見ていた。遠い遠いもう鮮明には思い出せない過去の夢。
小学生の低学年ぐらいだろうか。もっと小さかったかもしれない。二人の子どもが一緒に遊んでいる夢。目を活き活きとさせて、毎日を冒険していた日々。そこにはいつもあの子が側にいて、あどけない笑顔を向けていて。
けれど、いつの間にか隣には居なくなってしまっていた。確かその子の名前は___
「ねぇ君」
話し声が囁きに変化していく。教室の背後では男子高校生が話に花を咲かせて盛り上がっていて、話し声は何となく聞こえてくるが、教室の前側では静寂が訪れていた。
トントンと肩を叩かれる。え、もう授業始まってます?またオレ何かやっちゃいました?
なら誰が俺を起こしたのだろうか。その答えは火を見るよりもファイヤーで、俺の真正面にその答えは用意されていた。つまるところ、俺を起こしたのは目の前の美少女。先日、地歴準備室で偶然にも
「起きてる?死んでる?」
「生死は
「どちらかと言えば私に用があるんじゃない?君が」
「はい?何で?」
全くもって彼女の言動に対して身に覚えがない。あの時何か言ったっけ?
「君、入部希望者でしょ。今日の放課後、入部テストするから」
「そんなこと昨日言ったっけ?全く記憶にないんだけど」
「……昨日会ったかな?てか君がこの入部届出したんでしょ?」
グサリ。ですよね覚えられてないですよね知ってましたええ知っていましたとも。べ、別に期待してた訳じゃないんだからね!流石に顔ぐらい覚えてるかなとか淡い希望を持ったわけじゃないですから。ダメだ。全身から水分が溢れ出そうだ。
成宮は至極真面目な顔で首を傾げ、俺の目の前にその入部届を見せてくれた。全く何を言ってるのか分からないという表情をしている。どんな表情をしていてもその優れた容姿が
ただ成宮が俺に見せた入部届には確かに
「い、いや俺の勘違いかも……」
「そう。とりあえず放課後。地歴準備室に来てくれる?」
「えぇ?あぁ……。分かった」
「それじゃまた放課後に」
言いたいことを言い終え、成宮は踵を返して
だが、入部希望者という俺が一生なることはないであろう肩書きを手に入れてしまった。強制的に持たされたと言った方が正確だけど。
部活なんて自主的に参加することに意義があって、強制的に参加させられるものではない。一体誰が仕向けたんだ?心当たりが少なすぎて逆に簡単ではある。九割九分九厘あいつに決まってる。あの可燃物覚えてろよ……。
やはりリア充は一度爆発した方がいい。俺にとって敵であり、相容れない存在であり、理解できない
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