第29話 危篤の姫を救う方法。

アンルースの護衛はかなり強化されていた。

ウイレードに付いていた護衛騎士が責任を取ってアンルースの警備の指揮をとる事になる。


代わってきたばっかりで容態の変化が起こり、護衛もメイドもとても戸惑っている。


「アンルースの容態は?」


医師がアンルースの脈を取ったり、呼吸数を確認する中でウイレードを見て険しい顔をした。


「呪いに蝕まれて命の火が消えかかっております……。」


呪いの進行状況がわかりにくいため、意味があるかわからない魔法検知する機械なども運び込まれる。


「ジグを呼んでもらえませんか?」


焦るルーゼンがウイレードに縋り付く。

何としてもアンルースを助けたい。

ただそれだけだった。


ジグが呪いを解くことができるかはわからない。

でも何か手立てや、この状況を打破できる鍵になればと神にも祈る気持ちだった。


「……だがしかし、ジェイがまだ犯人ではないという確証もない……」


渋るウイレードにルーゼンは言った。


「ボクの感でしかないのですが、ジグは犯人ではないと思います。

そしてこの呪いの進行上場がわかるのも、ジグしかいないのも事実です。

どうかジグならもしかして、呪いが解けるかもしれない……!

こんなわけわからない機械より、彼ならなんとかしてくれるかもしれない。

すべての責任はボクが負いますから……!」


何故これほど自分がジグを信じているのかわからないが、アンルースの話をする彼の姿は偽りがなかった。

偽物のアンルースの姿を見て悲痛な顔をしたのも、呪いをかけたものではないと信じている。


ルーゼンの言葉に覚悟を決めたウイレードの指示で、ジグが呼ばれた。

ジグは今の状況を把握できないでいたが、横たわり今にも死にそうなアンルースを見てひどく驚いた顔をした。


そしてどうにかジグを落ち着かせ、状況を説明するのだった。


やっと全てを話すことができたルーゼンは心のどこかでホッとしていた。

彼にいつも隠しながら話すことが苦痛だったからだ。

そんなルーゼンの表情にジグはゆっくりと頷いて、ルーゼンの肩に手を添える。


「……この話を俺にしてくれるのは、信じてくれたってことでいいのでしょうか?」


ウイレードを見上げるジグの視線は真っ直ぐだった。


頷くウイレードに、少しだけ恥ずかしそうに微笑む。

そしてまっすぐアンルースを見つめた。


「俺に出来ることをやってみます。」


静かに手をかざし、何かを唱え始める。

ジグの手からオレンジ色のモヤと一緒に、アンルースから見慣れない文字が浮かび始めた。


ウイレードは思わずアンルースに駆け寄ろうとしたが、それをルーゼンとエルヴァンに止められる。


しばらく文字とモヤがジグの掌に吸い込まれていくのを見つめていると、突然アンルースが大きく息を吸う。


『けホッ』と大きく揺れる体に、ジグは手をかざすのをやめた。


「少しだけ緩和できましたが、呪いを解くことは出来ませんでした。

ですが呼吸は落ち着いたと思います。」


そういうと、ジグは悲しそうに微笑んだ。


咳き込むアンルースの意識は戻った様子がない。

慌てて医師がかけよって診察を始めた。


「……ジェイ……すまない、ありがとう……。」


ウイレードの目に涙が浮かんでいた。

表情から見れるように、少し安堵している様子。

そしてジグに抱きついた。


ジグはそんなウイレードの背中をポンポンと叩くと、ルーゼンの方に視線を向ける。


ルーゼンもひどい顔をしていたのかもしれない。

ジグはルーゼンにも微笑んで、頷いた。


「ジグ、ありがとう……。」


そう言いながらルーゼンもジグに抱きついた。


実際はジグのいう通り緩和されただけだったが、命の火は消えずに済んだ。

だがもう後がないのだけはわかった。


緊張感に包まれ、じっとアンルースを見つめるルーゼン。


『何としてでも犯人を見つけないと……。

もう少しだけ待ってて、ルース』


心の中でそう呟くと、ぎゅっと胸を押さえた。

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