第27話 楽しい?お茶会へようこそ3

次に目星をつけたのはシモン・ワーカー。


シモンはワーカー男爵の長男で、父親が護衛騎士をしている。

アステートの騎士は護衛、警備、警護といろいろ分かれて存在しており、それぞれに役割が任されていた。


ワーカー男爵は結構いい歳しているが、パッとした話を聞かないのでそんなに裕福な感じではないのかもしれない。

領地も少なからずあるが、どっかの伯爵に従事ているだろうから、その辺の派閥もありそうだ。


ルーゼン自体絡んだ事ないので、暫く近くで話を振るきっかけを見ていた。


するとシモンは別の対象のショーン・レクサの元に挨拶に行き、何か話し出した。


ショーンはレクサ侯爵の次男で、ルーゼンとは顔見知りだ。

確かショーンの母親がウイレードの母と姉妹だったかなんかだった気がする。

なのでルースとは従兄になるはずだ。


『チャンス』とばかりに、レクサに話しかけに行った。


「ショーン、久しぶり!」


ショーンはルーゼンより一つ下で、同じ並びの爵位のため、小さい頃はよく城で顔を合わすことが多かった。

だがルーゼンもショーンも物静かなタイプだったため、同じ空間にいても話をすることは少なかった思い出。


たまに読んでいる本が被ったときに、感想を言い合うぐらいだった。


ルーゼンが声をかけると人懐っこい笑顔で手を振ってきた。


「ルーゼン君、久しぶりだね。

いつ頃こっちに戻ってきてたの?」


彼も自分とはう感じで人に頼られるタイプだった。

面倒見も良く、後輩などに良く相談を持ちかけられ頼られていた。


ショーンの問いにルーゼンはホッとしたような笑顔で答えた。


「先週ぐらいだったかな?

無事卒業できたから、その足で友達を連れて帰ってきたんだ。」


ルーゼンはそういうと簡潔にエルヴァンを紹介する。

ショーンはエルヴァンに丁寧にお辞儀をすると、シングレストで今流行っている本や食べ物の話を聞き出した。

ショーンはとても丁寧な言葉でエルヴァンに話しかけている。

それでいて控えめで、聞き上手な印象を持った。


その間にシモンに話しかけた。

流石にルーゼンから話しかけてきたことに緊張している様子だったが、こちらも何事もなく世間話へと移行した。


きっかけはショーンからだった。


「そういえばルーゼン君、3年前に婚約破棄していたんだね。

僕知らなくて、噂で聞いた時は嘘かと思ってたよ。

……昔から知ってる2人だから、お似合いだったのに……。」


デリケートな質問だが、本当に心配してくれてたような反応にルーゼンも普通に答える。


「……実はそうなんだ。シングレストの学園に入学する時に決まってたんだけど、王命で公表できなかったからね。

だから発表が遅くなってしまって……。」


この受け答えには慣れてきた。

打ち合わせ通りの回答だが、婚約破棄を残念に思ってくれる人に言うのは心が痛む。


「……そうなんだね。なんかこうやってルーゼン君と話せたら、ホッとしてしまったよ。

ずっと後ろめたいと思ってて、言い出せなかったから。」


ショーンの言葉にルーゼンが首を傾げる。


「ん?何かあった?」


ルーゼンの反応に、ショーンはシモンと顔を見合わせる。

なんだか言いにくそうな表情をしていたが、思い切った様子で口を開いた。


「実は、その……。

シモンからさっき相談されて……僕もシモンもアンルース王女と……、その……。」


『ああ、そう言うことか。』


彼らはルーゼンという婚約者がいるのに王女であるアンルースの誘いを断ることができなかったと。

でもルーゼンに対しても後ろめたい気持ちでいっぱいで、懺悔したかった。

だがもう婚約者ではないと聞いて、ホッとした……と言うところなんだろう。


まぁこれが『普通の反応』だと思う。

アダムみたいな反応が先に来たので、なんか複雑の表情を浮かべてしまった。


そんなルーゼンの表情に気がついてか、今度はシモンが口を開いた。


「レクサさんにも相談したんですが、王女からアプローチされて、一時的に付き合った時期があって……。僕もレクサさんもお眼鏡に叶わなかったのかすぐフラれてしまったんですけど、その……ルーゼンさんは噂の話を聞いてますか?」


「……噂、か。」


おおかた妊娠の話だろう。

すぐピンときたがルーゼンはエルヴァンと顔を見合わせてとぼけることにした。


「ボクとルースの婚約破棄の噂以外に何かあった?

実は帰ってきてまもなくて、ルースと挨拶で顔を合わせたぐらいしか会ってないんだ。」


「……では王女は元気なのですか?」


シモンの質問にルーゼンがにっこりと微笑んだ。


「うん、さっきもチラッとだけど元気な姿を見たよ。

……何かご機嫌損ねて帰っちゃったみたいだけどね。」


ルーゼンの言葉に、エルヴァンも乗っかる。


「そういえば今日の話はなんだったんだろうなぁ。」


そう言ってとぼけて見せた。


ルーゼンとエルヴァンの反応に、シモンの顔が暗くなる。

俯いて、口元を押さえる手が、少し震えていた。


「……シモン、大丈夫?」


ショーンがシモンに問いかけた。

震えるシモンの手をそっと両手で包み込み、心配そうに顔を見る。

そんなショーンにシモンはギュッと唇を噛むと、すぐさま目を逸らした。


「……大丈夫です、なんだかちょっとワインに酔ったみたいなので、あっちで休んできます。」


そう言うとシモンはショーンの手を抜け、足早に去っていった。

シモンが去ってショーンがため息混じりに喋り出す。


「……噂ってアンルースが妊娠しているって噂なんだ。」


ショーンは言葉を吐き出すように、下を向いた。


「え……?それは、本当なの?」


知らないそぶりのルーゼンにショーンは俯いたまま続けた。


「僕にはわからないけど……。だから今日その父親を発表するんじゃないかって噂があったんだよ。だからみんなここにきたんじゃないかな。

思った以上に関係者がいて、驚愕しているけど……。」


そう言うと困ったように笑うショーン。


「シモンがもしかして自分なんじゃないかって相談してきてね。

それで自分以外にアンルース王女の恋人がいるって気が付いたんだけど……。

遊ばれているとわかっていたけど、ショックだったよ。」


そう言うとショーンはがっくりと肩を落とす。

そんなショーンを慰めるようにルーゼンは背中に手を置いた。


「ショーンも可能性があると思ってる?」


ルーゼンの問いにショーンが口を曲げて、目線を落とす。

そして少し小声で、ルーゼンの方に顔を寄せた。


「……いや、実はさ。

僕とアンルースと付き合いが終わったのは4ヶ月前なんだよね。

従兄妹だし、親戚の集まりなんかで先月まで会っていたんだけど、フラれてからは何もなかったから、僕はお腹の子の父親ではないんだ。

しかも先週まで領地の鉱山で事故が起きて兄と一緒に対応していたから、こっちにはいなかったんだよ……。」


リストと違う事実の打ち明けに、ルーゼンは目を見開いた。


「……そうなのか?領地で事故とか大変じゃないか……。領民は大丈夫なのか?」


「鉱山の爆破場所がずれて、何人か生き埋めになってしまったようで……。

でも思ったほど損害もなかったし、数人の怪我だけで済んだのは幸いだった。」


「そっか、大事に至らなくてよかった……。」


これが本当ならリストの日付とショーンの証言にずれがあるという事。

ウイレードに報告して、ショーンが領地に先週までいたことが証明されれば、ショーン・レクサは『呪い』に関しても『父親』に関しても除外対象になる。


なんとなくルーゼンはホッとした。

昔から知っているショーンが呪いなんてかけるはずが無いと思っていたからだ。


アンルースに傷付けられても、そんな相手の幸せを祈り身を引くようなタイプだと思っていたkらだった。


ルーゼンの安堵の顔に、ショーンが微笑んだ。

そして『領民の無事を心配してくれて、ありがとう……』と潤んだ瞳で見つめられた。


そんな2人を見てエルヴァンが『この国の侯爵子息はみんな聖人君主的な思考なのか?』と聞いてきてため、軽く睨んでおいた。


エルヴァンをじっと睨んでいると、ショーンがまた言いにくそうに口籠る。


「そういえば、シモンが言ってたけど……デミー・ノリスを知ってる?」


ルーゼンに取っては知らない名前だった。


「誰だい?それは」


聞き返すとショーンがチラリと受付の方を見ながら小声で話した。


「……どうやら最近アンルースのお気に入りだった護衛騎士だよ。

一番新しいお気に入りで、婚約者候補だとか、お腹の父親の候補濃厚だとか自分で言いふらしてるって。さっきシモンに聞いたばっかだから本当かまだ分かんないけど……。」


『リストにはなかった名前。』に胸がドキッとした。


「デミーノリス……知らないな、どんな人?」


頭の中の49人分のリストを探す。

だが全く覚えがない。


あれだけ何度も見たリストだ、見た名前だったら記憶している筈……。

ルーゼンの問いにショーンが小さく指をさした。


「ほら入り口の護衛している子だよ。」


ショーンが指さした先にはオレンジ色の髪の毛をした1人の騎士が立っていた。

まだ新人なのか、着ている騎士の制服が真新しい。


小麦色の健康そうな肌に笑うと見える白い歯。

今までの49人の恋人とタイプが少し違う雰囲気の男性。


「……じゃあ彼がルースの新しい婚約者かな。

後で挨拶してこよう。」


平常心を保ちつつ、小さな動揺を悟られないようにルーゼンは微笑んだ。


「うん、気をつけてね。僕もどんな子か知らないからさ……。」


心配そうにルーゼンを見つめるショーンに別れを告げ、とりあえず受付の方へと移動した。


残るはハレス・ミーノン、マークス・カルトンだが、思いのほかショーンに重要な情報をもらったので、そっちを先に責めることにする。



***


もうお茶会は終盤に差し掛かっていたため、受付にいる騎士も少なかった。

いつも護衛してくれている顔見知りの騎士に話しかけ、デミーを紹介してもらう事にした。


ルーゼンから挨拶する前に、デミーが名乗りをあげる。


「俺がデミーですが……ああ、ルーゼン侯爵子息ですね?」


『はいそうです』とは言わず、自己紹介。


「……ルーゼン・サイマンと言います。」


ルーゼンはそう言うと手を出した。

ルーゼンの片手に両手で握手を返しながら、待ってましたとばかりに微笑んだ。


「よく俺にたどり着けましたね。あなたが言いたいことはわかっています。

俺がアンルース王女の恋人で、お腹の父親です。」


自信満々に語る自己紹介に、ルーゼンたちは唖然としてしまった。

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