第25話 楽しい?お茶会へようこそ。
城の庭園で開催されることとなり、警備に参加する騎士や護衛の量もすごかった。
この10日間で、この規模の準備できたのが奇跡のようだ。
庭園に並ぶ料理の数。
それをせっせと運ぶメイドや給仕たち。
急遽集められた使用人たちの身元もバッチリである。
「……このお茶会だけでの給料ってめちゃくちゃ良いらしいね。」
招待状を握りしめたジグがルーゼンの肩越しに目の前の庭園を見ながら口をへの字に曲げた。
「だろうね。その分守秘料金も加算されてそうだけど……。」
ルーゼンがそういうと肩をすくめた。
ただいま招待状の確認をするために列に並び待機中。
ドレスコードに身を包み、いつもよりがっちりと固め、後ろに流している髪の毛がなんだが居心地悪い。
しかし急な集まりだったのに、参加者は欠席が1人もいない状態の参加率100%のようだ。
目で追っただけでも、人数きっちりいるのがわかる。
さすがのルーゼンも緊張感が走る。
口から心臓が出てきそうなぐらい、ドキドキしていた。
ルーゼンもエルヴァンもジグも、無事参加者のフリして会場に入った。
ジグも色々吹っ切れたのか、この10日で魔力が少し回復していた。
『ジグ・エイブ』の身分はやはり使えなかったそうで、『ジェイグレン・トゥエンティ』として、身分証を作ったようだ。
順番が来て一人一人が招待状を提示する。
受付の騎士がリストを見て、顔と名前をチェックをする。
そこに署名をして、やっと入れるという徹底ぶり。
厳重すぎてお茶会は妙な緊張感に包まれているが、ある程度時間も経つと各自で談笑する姿も見えてきた。
一見楽しそうなお茶会だったが、それぞれみんなよく見ると面白いぐらいに楽しそうな顔をしていなかった。
みんなの目的はたった一つ。
アンルースを待っていた。
彼女が今日のお茶会で姿を表し、招待客に何をいうのかを待っているのだった。
口々に呟かれるアンルースに関しての噂の数々。
正直聞くに堪えない内容もあった。
阿呆がルーゼンに婚約破棄について聞いてくる。
ルーゼンは笑って極まっていることを話して聞かせた。
それについて潔く引く奴もいれば、揶揄って下世話なことを言ってくる奴もいた。
そいつらに関しては『あ、ウイレード殿下があそこに!』と匂わせて撃退をした。
そんなことをしていたら時間が来て、開催を知らせる鐘が鳴らされる。
城から庭園につながる道から、ウイレードが歩いてくる姿が見える。
そしてその横に、女性の姿。
ここからだとウイレードと同じ赤毛の、派手なドレスの女性という認識しかできないが、会場の男性陣は騒ついていた。
何やらその女性は道の途中で立ち止まると、ウイレードに向かって大きく手を掲げ、足を踏み鳴らす。
そして突然踵を返し、扇子を投げ捨て城へと入っていった。
「……アンルース王女?」
ジグが呟くと、会場の全員が固唾を飲んでいた。
全員が面白いぐらいに入り口を見つめていた。
実を言うと、影武者を立てることは事前に聞いていた。
だがルーゼンはわかる奴にはバレるのではないかとヒヤヒヤしていたのだった。
結果は『バレなかった』。
遠目だとルーゼン自身もアンルースかと思ったぐらい似ていた。
庭園で立食パーティなら遠くから歩いて来る事になるので、この距離なら本物かなんてわかる筈もない。
庭園まで歩いてきたウイレードは、わざとらしく困ったように壇上にあがった。
「……今日は遠いところからよくお越しくださいました。
本日この会を主催した我が妹アンルースですが……少し準備に手間取っておりまして、後ほど挨拶に参ることでしょう。
それまでどうか、楽しいひと時をお過ごしください。」
ウイレードの挨拶に、それぞれが持つグラスの音が重なった。
さぁ、『お仕事の時間』である。
***
ルーゼンはすでに8名の姿を目で捉えていた。
そして一番最初に気をつけて見ていたのは『動揺』だった。
遠目からでも『アンルース王女』の姿を見た時。
そして機嫌を損ねて引っ込んでしまったため、彼女が何を言おうとしていたかがわからないまま始まった時。
それぞれの反応を目で追っていた。
一番動揺が少なかったのは、ラント、ショーン、ハレスの3名。
そして一番動揺してたのはアダムとシモンだった。
点数をつけるとしたら、アダムの動揺が10点中7で、シモンは8だった。
……2人ともめちゃくちゃ驚いていたのだった。
ジグも一瞬驚いていたのだが、『諦めた』という言葉を証明するように、渋い顔をして目を逸らしていた。
そして元婚約者だったルーゼンを気遣う素振りを見せていた。
ジグがルーゼンから離れ、ウイレードと会話をしている隙に、ルーゼンはエルヴァンに話かけた。
「アダムはボクの前にアンルースと婚約が決まっていた公爵の息子で、アレね。」
と、こっそり指をさし、エルヴァンに伝える。
「怪しいなぁ……。
だけど、シモンっていう男爵の息子のが驚いていただろ?」
「……そうなんだよねえ。」
こそこそと2人が話していると、アダムの方からニヤニヤしながら寄ってきた。
「……飛んで火に入るなんとかが来た。」
エルヴァンの呟きに、ルーゼンは壮大に吹き出した。
「……おい、何を笑っている。」
公爵子息という立場を使って即席で作り出した取り巻きと一緒に仁王立ちをしていた。
ジロリとエルヴァンを睨みつけるが、エルヴァンは持っていたグラスを揺らしながら、明後日の方向を見ていた。
「やぁ、アダム。久しぶりだね。」
ルーゼンは何事もなかったかのように微笑んだ。
ルーゼンの笑みにアダムはますます不機嫌な顔をしてルーゼンを睨みつけた。
その態度にイラッとしたエルヴァンがルーゼンの前に出ようとするが、それをルーゼンが首を振って止める。
「おいお前、何故婚約破棄したことを俺に黙っていた?」
仁王立ちに指差し。
ああなんか何処ぞの王女様を思い出す。
脳内で立ち姿が比較され、思わずまた吹きそうになるのを堪える。
ルーゼンは頑張って微笑みを崩さなかった。
「……ああ、王命だったからね。卒業するまで誰にも言えなかったんだよ。」
ルーゼンの言葉に頗る巨大な鼻息を一つ。
「ハンッ、本当に婚約破棄したんだろうな。
まぁ元々アンルース王女はお前なんかには相応しくなかったからな。
取り柄のない侯爵の長男なんて、あんな可憐な王女の夫なんか務まるわけがない。」
「……そうだね。アダムの言う通りだね。」
うんうんと頷くルーゼン。
「侯爵に嫁いだところで、アンルース王女に相応しい暮らしなどさせられなかっただろうしな!」
「……そうだね、その通りかもだね。」
またもうんうんと頷くと、アダムは怪訝そうに顔を歪める。
「お前!俺がハイハイ言っとけば満足すると思ってるんじゃないだろうな!?」
アダムの言葉にルーゼンがひどく驚いた顔をした。
「……アダム、3年会わないうちに賢くなったんだね!」
「ルーゼン・サイマン!!!!
貴様俺を侮辱する気か!!!」
アダムの言葉が会場中に響き渡る。
相変わらずの単細胞。
昔からこうやってルーゼンに絡んできては、適当にあしらわれて怒って帰っていく。
いい加減このパターンを自分でもわかっているだろうに、なぜかいつも自分を見つける度にちゃんとやってくるのだ。
流石に今日の自分の態度は少しやりすぎた自覚はあるのだが、彼に少し餌になって貰うために利用したのだった。
「……そんな大声で僕の自己紹介してくれなくていいよ……?」
飄々とするルーゼンに、如何に自分の爵位が上なのかをルーゼンに語る。
毎回これがお決まりなのだが、今日はちょっと部が悪い事をアダムは気が付いていなかった。
まぁ、これを待っていたのだ。
「わかったか!!侯爵風情のくせに!ルーゼン・サイマン!!!」
興奮気味のアダムが気が付いた時、ルーゼンはすでに耳に人差し指を突っ込んでいた。
「お、お前……!何処まで俺を馬鹿にする気だ……!!」
「馬鹿になんかしてないって……。」
人差し指を耳から抜きながら、困ったように微笑むルーゼンに影が落ちる。
「公爵風情ってこの国だとめちゃくちゃ偉いんだ?」
ルーゼンの後ろから声が聞こえた。
それと同時にルーゼンの肩に腕の重みが感じられた。
「……は!?」
真っ赤な顔のアダムがルーゼンの背後、声のする方を見あげた。
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