閑話、謝らない女王の話。

『ウイレードのバカバカばかばか!!!』


執務室と飛び出して、わざとらしく足を踏み鳴らして歩いている。

追いかけてくれると思っていたが、振り向いても誰もいない。


私を追いかけてきたのは仕事でそばにいる騎士たちだった。


自分の言い方が悪いのはわかっている。

だけど私はそういう風に育ってきたのだ。



私こと、スーニィは生まれた時から後継として教育をされてきた。

国の頂点となるべく、誰にも頭を下げることはならないと教えられてきた。

父や母にさえも頭を下げることはない。

自分がすることは絶対正しいのだ。

私がこの国の頂点になるのだから……。


ウイレードに恋をしたのは今から4年前だ。

スーニィの16歳の誕生日、初めてのお披露目会を盛大にすることになり、アステートからの招待客として彼は招かれた。


トゥエンティの女王として舐められないよう、縦に長い被り物をつけ、招待客の間を顎を突き出し、ふんぞり返りながら歩いていた。

その後ろからすごく嫌な顔した弟がついてくる。

まるで私が恥ずかしいもののような目で見ているのが気に入らない。


自分の晴れやかなデビューの日に、何でコイツはこんな顔をしているのかと叱りつけてやろうと振り向いた時。

あまりにふんぞり返りすぎてバランスを崩した。


「ンギャッ」


何とも言えない叫び声と共に、弟に向かって倒れ込むところだった。

間一髪、誰かの腕に支えられ、弟を潰さずに済んだ。

後で聞いたらあの時弟は『これは絶対俺は死んだ』と思ったらしい。


支えられた腕にしがみつく。

招待客はみんなホッとした顔をしていた。

トゥエンティ時期女王のデビューの日に、無様な姿を目撃せずに済んだからだろう。


ゆっくりと見上げると、そこには理想の筋肉と熱い胸板、そして自分と対照的な髪の色をした、私の王子様がいたのだった。


「スーニィ王女、お怪我はありませんか?」


なに声までイケメンなんですけど?

脳内の私が勝手にしゃべっている。


思わずパッと口を押さえるが、声には出してないようなので安心した。

その時の私は彼に恋に落ちたのだった。

確実に。


そこから父と母を説得して、アステートに猛攻撃(手紙の)を開始した。

王位継承なんて弟にくれてやる。

父の力を使い、アステートに圧力をかけてもらう(手紙で)。

その甲斐あって、あっという間にウイレードと婚約に漕ぎ着けた。


自分の性格はわかっている。

思ったこと全てが口から出る。

そして行動に出る。


でもそれは生まれた時からの教育だから仕方ない。

それでも自分は彼に愛されていると自負していたのだった。


ウイレードは私と違って、とても物静かな人だった。

体の筋肉には似合わず、頭を使うことの方を好み、花を愛でるのが好きだったりする。

口調も柔らかで、私がどんな我儘を言おうがそれを受け入れてくれていた。

何か悪いことをしても、優しく諭してくれる。

そんな彼が好きで好きで仕方なかったのだ。


私は婚約してからというもの、既にもう妻のような気持ちで頻繁にトゥエンティからアステートまで通っていた(もちろんゲートはフル活用で)。


突然の訪問でも他に約束があっても、必ず自分を迎え入れてくれる心地よさ。

ウイレードも絶対自分を好きだと、自信満々な日々。


だけどこの間ウイレードを訪ねた時に、スーニィの天敵に会ってしまった。


ウイレードの妹、アンルースという女。

この女はとにかく男が好きだった。


身の回りにいる異性全てに手当たり次第で色目を使い、虜にさせる。

そして飽きたら捨てるという、とんでもない悪女だった。


自分の兄の婚約式だというのに、うちの国の男性を誘惑しようとしていたのだった。

流石にそれを見つけた時は警告は(拳で脅し)しておいたのだが……。


こないだの婚約式から弟の様子がおかしい。

ボーッとして話を聞いてるのか聞いてないのかわからない顔で1日を過ごしている。


ボーッとしているのはいつもだが、今回ばかりは何かあると思い、弟に監視をつけることにした。


そしたら案の定、あの悪女に弄ばれていたのだった。

本人は弄ばれたことを気がついていないので、恋焦がれてボーッとしているのだ。

本当に馬鹿な弟。

私が悪女と話をつけてやろうと、ウイレードを訪ねる前にアンルースの部屋へと行く。

だが部屋にはおらず、来客と庭園にいるということだった。

庭園に行くとアンルースは綺麗な顔の男性と一緒だった。


その男性をえらく気に入っているのか、いつもの悪女とは思えないぶりっ子だった。

『うふふあはは、捕まえてごらんなさーい。』

いったい私はなにを見せられているのだ……何だか戦意喪失したので、ウイレードに癒してもらいに行った。


散々ウイレードとイチャイチャして帰ろうとしているとこにアンルースに会う。

私を見ると舌打ちをして、腕を組んだ。


「目障りだから、さっさと帰りなさいよ。」


挨拶もなしに第一声がそれだ。


「……あんたに話があるんだけど?」


私も負けずに睨みつけると、顎で部屋を指定してきやがった。

部屋に入り向かい合って仁王立ち。

私の言いたいことはただ一つ。


「アンタさ、ジェイグレンに手を出したらその赤毛を根こそぎ引っこ抜くわよ。」


私の言葉に顔を歪ませて笑う。


「はぁ?やれるもんならやってみな。

お前みたいに脳筋じゃないからこっちは頭使うっての!」


アンルースの言葉に私の怒りに火がついた。


「誰に向かって言ってんだこのクソ女!」


怒りに身を任せ、指をかざすと、一瞬で部屋の中を凍らせる。

流石にビビるアンルースの髪の毛の先に、じわじわと氷をぶら下げてやった。


「ほらすぐそうやって力でねじ伏せる!

だからお前は脳筋なんだよ!」


アンルースがそういうと大きな声で悲鳴をあげる。

その悲鳴でウイレードがやってきたのだった。


「……なにをやってるんだ?」


状況を見てこちらの分が悪いことは明らかだったが、そうも言ってられない。

アンルースは目に涙を溜め、ウイレードによりかかった。


「お兄様、あの女なんとかしてください!

すぐ思い通りにいかないからって、魔法で脅すような女、さっさと婚約破棄して!」


さらにカーッと頭に血が昇るのがわかる。

だが出した手は止められない。

キッとアンルースを睨むと、この女、私に向かって舌を出した。


「……このっ!」


髪の毛につかみかかろうとして、ウイレードに制される。


「スーニィやめなさい。」


低く冷たい声。

いつも私に話している声ではないことに気がつき、思わず体が固まる。

そしてアンルースを庇うように私を睨みつけた。


何なの!?私が悪いっていうの?

幕してたようと口を開いたが、あまりの腹の立ちように声が出ない。


泣きそうになる。


するとウイレードは今度はアンルースを自分から引き離し、怖い顔をする。


「アンルース、どうせお前が何か挑発するようなことを言ったんだろう?」


その言葉にアンルースがいつもの醜い顔に戻る。


「あのさぁ、私お兄様の妹なんだけど?

普通身内を庇うでしょ。

あーなんか冷めちゃった。」


冷えた目でウイレードを睨み、近くにいた騎士の1人の腕を掴むと、スタスタと部屋から出ていった。


残されたウイレードと私。

ぎゅっと拳を握りしめ俯く私にウイレードが近づいてきた。


「スーニィ、何かあったとしても暴力や魔法で解決することはいけないことだ。

怒って魔法を使う前に、深呼吸してほしい。

そしたらやってはいけないことに気づけるはずだよ?」


私を叱るウイレードもイケメンだった。

いや、ホント惚れ直した。


ゆっくり頷く私。

そのままウイレードに飛びついて、ちょっと泣いた。


廊下を腕を組んで歩いてる時ふと思う。

ウイレードにはアンルースが私の弟にちょっかいかけていることは言わない方がいいかしら。

実の妹の正体なんて、きっと知ったらショックだろうし。

その件は私がカタをつけるつもりだったから。



その前に会った時、アンルースが大事にしていた彼がいた。

名前はそうだ、ルーゼンとか言ったかな。


ついアンルースの元婚約者だということで、大事にしていた婚約者に振られたんだと歓喜した。

そのせいでちょっとテンションが上がって失礼なことを言ってしまったようだけど。


というか。

まだ私は怒っているのよ、ウイレード。


アンルースの呪いの犯人で疑われたこと。

私の弟も疑っていること。


それなのに、私よりあの綺麗な顔の方を庇った。


許せない!浮気よ!!


でも、あんなに怒られたのは初めてだった。


怒る前に深呼吸すればよかったのかな。

謝るのは苦手だけど、魔法で執務室凍らしたことは謝ろうと思う。


少しだけ反省して落ち込んでいたら、弟が城を抜け出しいなくなったと知らせが来た。

国中で探し回り、追跡魔法などで見つかった手がかりは、泥だらけの身分証と破れた鞄のみ。


どうやら身分を隠し乗り合いの馬車で移動中に、何者かに騙され襲われたという報告。

生きているか死んでるかも分からず、絶望的な毎日が続いた。



ところがあの日。

ジェイグレンが見つかったかもしれないということで、アステートへと急ぐ。


執務室で待機しているとそこに魔法で変装までした弟、ジェイグレンが入ってきた。


女にうつつを抜かし、城から逃走して行方不明になっていた弟。

父や母は心配して夜も眠れない日々を過ごしていたというのに、と思うと怒りが湧いてくる。


「……見つけた。」


逃がしてなるものかと、部屋中を氷で包んで密封する。


「ジェイグレン・トゥエンティ!!お前は今までなにをしていた!」


私の姿を見て、怯える弟。


だが私や両親がどれほど心配したのか、こいつが知るわけもないだろう。

生きているなら連絡ぐらいできたはずだ。

なのに今までじっと何をしていたというのか。


座り込む弟の上着をジリジリと踏む。


「ジェイグレン、さあ答えなさい!」


パチンと指を弾き、変装魔法を無効にする。

怯えた弟は体を震わせ、祈るようなポーズで私を見上げていた。


「……姉さん……。」


やっと振り絞って出した言葉がそれか。

思わず弟の髪の毛を掴むと、頬を殴った。

『パーン』と氷に包まれた部屋に音が響く。


心配かけさせやがって……!


『痛い』と叫ぶ弟に、父と母、そしてペットのポポの分、ジェイグレンを心配してくれた乳母やメイドの分までも頬を叩き続けた。


正直我を忘れていたと思う。


バシバシ叩き続けていたら、目の前には弟を庇うウイレードの浮気相手と遊びに来ている王子がいた。


「スーニィ王女、これ以上はジグが死んでしまいます!」


その言葉に少しやりすぎたことは気がついたけど、心配かけた弟が悪いのだ。

私は『フンッ』とそっぽを向くと、シクシクと泣き出す弟を見つめる。


王子と愛人に優しくされ、嬉しそうな弟に、また腹が立った。



椅子に座り、弟を床に正座させる。

そして脅すように指先を弟の顎に擦り付けた。


「さぁジェイグレン、全てを話しなさい。」


『僕はアンルースとは関係ありません。呪いなんかかけていません』


弟の口からそう語られることを期待していた。

だが甘やかされているのか、ぶるぶると震えるだけで何もいいやしない。


それどころか震える弟を遊び人の王子と2人で庇いだしたのだ。


「いなくなってさそ心配なさったことでしょう、ですが彼も怖い思いをして思い出したくないこともあるかもしれません。どうかもう少し優しく……そして彼が話し出すまで待ってあげてくれませんか?」


事もあろうかウイレードの愛人の分際で私に意見をしてきたのだった。


弟の肩を抱き、『僕になら話せる?』なんて甘いことを言っている。

この愛人はアンルース並みに周りを魅了する魔性か。


悪女と違い、善意が溢れ裏がなく無自覚なことがまたタチが悪い。

そしてまたムカつくのが、髪の毛鷲掴んで脅せばしゃべるだろう弟を甘やかしに時間をとっていることだ。

やっと落ち着いた弟がグズグズ話終わるまでんぜ私が待たなければならなかったのか。

なぜこの愛人が仕切っているのか。


私の抑えられない苛立ちに気づき、魔性の愛人がウイレードに目で合図した。

そしたらウイレードが。

この私に。


『いい加減にしないか』と言ったのだ。


はぁ?何で私が出ていかなければならない!?

これはうちの家の問題だろう。

こいつは引きずってでも連れて帰り、父や母、ポポやメイドたちに謝罪させるべきじゃないか。


ウイレードは私よりこの魔性の愛人に心を奪われてしまったのか。


苛立ちがショックと悲しみに変わり、私は立ち上がる。


「……ではこのままジェイグレンは国に連れて帰ります。」


といった。


泣かない。

こんな顔の綺麗なだけの愛人なんかに負けない。


そう思いウイレードを睨みつける。

だがウイレードは今まで見たことがない目で私を見ていた。


「……彼を連れて帰るなら、我々の婚約も見直さないといけないことになる。」


「なんですって?」


ウイレードがまさかこんなことを言うなんて。

私を好きだったんじゃないの?

愛してくれていたはずでしょう?


なのに何故婚約を見直すなんて……!


体がワナワナと震えてきた。


まさか、本気なの?


驚いてもう一度ウイレードを見るが、彼は頭を抱えたままで、私を見ようとしていなかった。


ここから先はあまり覚えていない。

あまりのショックに、『ばかああああ!!』と叫んで飛び出した。


下を向きながら歩いていると、目から何かこぼれ落ちてくる。

視界がぼやけてうまく歩けず、思わず自分の靴のつま先に引っかかり、派手に転んでしまった。


しばらくそのままでいると、追いかけてきた騎士が抱き起しに手を差し出した。


それをじっと見ていると、なんだか本当に悲しいと言う気持ちが溢れて止められなくなった。


「うわああああん!!」


今まで私は泣いたことがあるのだろうか。

いや、なかったな。

悲しいと思うことさえ、初めてな気がする。


頭のどこかでそんな事を冷静に思いながら、私は廊下の真ん中で倒れ込んだまま、子供のように泣いたのだった。


気がつくと馬車の中にいた。

誰かが抱きかかえ、運んでくれたらしい。


泣き疲れて気絶でもしたのだろう、瞼がとても重かった。


目を擦り体を起こし前を見ると、自分の前の席にウイレードが座っていた。

いると思っていなかったから、すごくビックリして固まっていまう。


「……目を覚ましたのか?」


ウイレードはまだ怒っていた。

怒っている顔をしている。


私はそれがまた悲しくて、泣きそうになった。

それを我慢するのに、唇に力が入る。


「何よ、婚約見直すんでしょ。」


あれ、私はこんなことが言いたいわけじゃないのに。

思わず意図しない言葉が口から溢れた事に、驚いて手で覆った。


私の返事にウイレードがますます眉を寄せた。

「……まだ分からないのか?私が言った事が。」


ぎゅっと寄った眉とジロリと見つめる目。

ますます機嫌を損ねさせたのはわかるけど、私の口は止まらなかった。


「はいはい、わかってますわ。

私の態度が気に入らないんでしょ?」


押さえた口がまた毒を吐く。

こんなこと言いたいわけじゃないのに、どうしてなの……。


言葉とは裏腹に、目から涙が溢れ止まらない。

何を言ってもきっと私はウイレードには理解してもらえないだろう。

そう思って意地になっていた。


睨んだままのウイレードは大きく息を吐いた。

……そして。


ウイレードが私を抱きしめた。


まさか抱きしめてもらえると思わなかったから、びっくりして目を見開いた。


「ちょ、何するのよ……!」


理解が追いつかず、抱きしめられたウイレードの胸を手で押し返す。

それでも彼は私を強く抱きしめた。


「……う。」


悲しいと言う感情、溢れて止まらない涙と、あとはそうね、止まらない暴言。


ウイレードに思っていることをぶつけまくった。

泣きながら。

その間ずっと、ただずっと、ウイレードは私の頭を撫で続けてくれたんだ。


しばらく泣いた後、喉が痛くなり、やっと言葉と涙が止まった頃。


「落ち着いた?」


「……うん」


ため息交じりにウイレードが続ける。


「反論したいとこはさせてもらっていいか?」


その言葉に私は大きく頷いた。


私を抱きしめながら、もう一度ため息。


「……まず、愛人ってなんだ。

ルーゼンは本当に弟だと思っているし、俺にそう言う趣味はない。

というか、まさかそんなことでヤキモチを焼かれていると思っていなかった……。」


ウイレードの一人称が『俺』になっているのに気がついた。

しかも『ヤキモチ』と言う言葉に顔が赤くなる。


「……え、私嫉妬してたの?」


「それも自分で気がついてなかったのか。」


呆れたように顔を歪めるウイレードに愛おしさが込み上げてくる。

そっと頬にキスをすると、ウイレードが焦ったように私を叱り出した。


「今はそんなことしている場合じゃないだろ!

だからいつも時と場合と人の目を考えろとあれ程……!」


ウイレードの顔も真っ赤になり、キスした頬に手を当てている。


「……考えているわよ。

最後のキスぐらいいいでしょ!」


「……何が最後なんだ?」


「婚約見直すんでしょ!」


口を尖らせる私に、ウイレードが壮絶なため息をつく。


「君が、変わらないと!!と言っているんだ。

少しは気が付けただろ?人には感情がたくさんある。

君はいつも怒りだけをあらわにしているから、それに気がつけないんだ……。」


そう言うとウイレードは私の頬に触れた。


「悲しかったら涙も出るし、嫉妬だってできる。

成長できるんだよ、人は。」


「……私が変われば、見直さないの?」


私の言葉にウイレードが少し微笑んだ。


「俺の妻になったら君は女王ではなくなるんだよ。

今までみたいになんでも1人で解決しようと思わないで、ちゃんと相談し合おう?

君は俺と一緒にアステートの国民の鏡となり、僕の横で笑ったり悲しんだり、そう言うのを共有して生きていくんだ。」


「……共有。」


私の呟きに頷きながら、ウイレードが私の髪を撫でる。


「そうだ。君が怒りに任せ怒鳴り散らすような妻だったら、俺も国を背負う身として婚約は見直さないといけない。

でも君が『女王』を辞め、間違ったことを正す立場で、謝ることや人の痛みがわかる人になってくれるなら、俺は君を愛しているからこのまま結婚したいと思っているよ……。」


頬にあるウイレードの手の暖かさをじわりと感じる。


「今、愛してるって言った。」


「うん?……うん。」


照れているのか、ちょっと言葉を誤魔化そうとする。

でも目線はちゃんと私を見ていた。


「言った?」


聞き返す私に、指先で鼻を触りながら頷く。


「言った。」


「……初めて言ってくれた。」


愛されている自身はあった。

でも言葉で言われたのは、初めてだ。


また涙が出てくる。

今度は嬉しくて……。


そっか、もう私は女王じゃないんだ。

彼の妻になるんだから、変わらないといけない。


誰かに謝ってもいいんだ。


人に意地悪をしたことがないが、わざとじゃなくても目の前の人が傷ついた顔をすることがある。

でも『申し訳ない』と言う気持ちがあっても、言葉にすることはダメだと教えられた。

だけど、もう私は『女王』じゃない。


「ウイレード、ごめんなさい……。」


「……スーニィ。」


『初めてのごめんなさいは、あなたにあげる。』


そんなこと言うとまた横柄だと思われるかもだから、言葉には出さないけど。

愛してくれるなら、私は頑張って変わる。

あなたの側にいたいもの。

これからもずっと、絶対。


私は恥ずかしそうに微笑むと、ぎゅっと抱きしめてくれるウイレードの頬にまたキスをした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る