第15話 ウイレードの婚約者。
2人のやりとりを目の前で見せられ、ルーゼンとエルヴァンはあっけに取られていた。
「……なんというかはっきりした性格の王女だな。」
こそっとエルヴァンがルーゼンに耳打ちをする。
「ボクも初めて会ったけど、驚いてる……」
婚約者といえど他国の王子相手に向かって、これほど対等で話せるのは信頼関係がないとできないことだろう。
ウイレードから婚約者の話は一度も出たことがなかったが、すごく大切にしていることは知っていた。
ますます気後れしている2人を他所に、ウイレードの顔が険しくなった。
「……アンルースが意識不明だ。」
ウイレードの言葉にスーニィの顔色は変わらない。
「……何があったの?」
スーニィの返事にウイレードは俯いたが、すごく淡々と話が進んでいった。
「誰かに呪いをかけられ眠らされたらしい。」
「あら……それは大変じゃない。呪いの原因はわかったの?」
「……アンルースが色んな子息に手を出し、傷つけた挙句、恨まれた。
その誰かの仕業だ。」
「……。」
まるで本当はこの内容を知っているかのような淡々とした会話。
そしてそれを知ってるのを分かっていて話しているウイレードの様子にも、違和感を感じていた。
スーニィはそのまま考え込み、黙ってしまった。
しばらくそうした後、閃いたように顔を上げると、ルーゼンの方へと近寄ってくる。
「……なるほどね。
あなた本当に良かったわね、『傷』がつく前に逃げられて。」
そう言い終わるとスーニィはゆっくりと人差し指を下げていき、ルーゼンの胸を指先で『トンッ』と押した。
「スーニィ!!」
流石のルーゼンもムッとした表情を露わにした。
可愛らしい妖精のような見た目とは裏腹に、思ったことをズケズケと人の心に入り込む。
だがルーゼンの立場では言い返すことができない。
相手は自国の王太子の婚約者。
そして他国の王女だ。
自分が何か発すると、不敬に当たる。
だが自分のことを言われているのに、なんだか侯爵自体を酷くバカにされている気がした。
「……逃げた、わけでは。」
本当は『お言葉ですが』と言いたかった。
だが自分がここで彼女と同じように話すのは、ウイレードの顔にも泥を塗ることだろう。
彼女はルーゼンの態度を気にしないかもしれない。
だが同じでありたくなかった。
振り絞ったルーゼンの言葉にウイレードも声を荒げた。
「スーニィ、いい加減にしろ!!
あんなでも私のたった1人の妹だ。
そしてルーゼンも、私の家族のように思っている。
言葉が過ぎるぞ。」
ウイレードの言葉にスーニィは肩をすくめた。
「いいふうに言ったつもりだったのよ。」
そういうとルーゼンの前の椅子に腰掛け、スカートの裾を気にしながら大きく足を組んだ。
「ウイレードの先の言葉がわかっているからちょっと八つ当たりになっちゃった。
だってウイレードの言いたい言葉もわかっているもの。
まぁ、その答えは『NO』だけど。」
肩をすくめるスーニィに少し怪訝そうに見つめるウイレード。
「……私はまだ何も言ってない。」
自分の婚約者の態度にイライラをぶつけるように足を組み替える。
「わかるわよ。アンルースがうちのジェイを弄んで捨てた事も、それを恨んでジェイが姿を消していることも、あなたが私もジェイを疑っていることもね。」
そう言い終わると勢いよく立ち上がった。
そして目の前のテーブルを思いっきりひっくり返す。
「うわっ!」
ルーゼンとエルヴァンめがけて紙の束が襲ってきた。
そして紅茶の入ったカップや高そうなお皿も、すごい音を立てて床に叩きつけられた。
「スーニィ!!」
父と一緒に丸をつけた書類も、自分が先ほど書き込んだリストも全て、紅茶の色にじわじわと染まっていく。
スーニィはそんな状態を満足したように見つめ、ニヤリと笑った。
「ウイレード!よく聞きなさい。
私たちを疑うなら覚悟するのね。トゥエンティは国を挙げて相手になるわ!」
ウイレードを指差すと怒り狂いながら、執務室を出ていった。
最後まで呆然と立ちすくんでいたルーゼンとエルヴァンだったが、扉の閉まる音に我にかえり、落ちた書類や割れた食器を片付け始めた。
「……ああ、君たちは触らなくていい。
すぐに片付けさせるから、座っていてくれ。」
ウイレードに咎められ、渋々とソファーに座った。
そんなウイレードも疲れが全面に見え、自分の椅子に深く座り込んだ。
「……怪我はなかったか?」
大きなため息を一つ。
……いや2つ3つ吐き出して、机に俯した。
「ええ、大丈夫です。多分王女も人がいないとこを狙ったと思います。」
実際カップが宙を舞った時、テーブルは斜めに倒されていた。
怒っている中でも冷静だったのだろう、さすが王女だ。
というか、怒っているアピールのパフォーマンスな気もする。
ついでに証拠となる書類もぐちゃぐちゃにして、嫌がらせをしたかったのかもしれない。
……さすが王女様だ。
ルーゼンはひとり、そんなことを考えていた。
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