第14話 50→18→?

すぐさま母の作った予想リストを抱え、ウイレードへと謁見を希望する。

執務室の前で少し待ったが、すぐに謁見が叶った。


「ウイレード殿下、これを見てください。」


前置きに『母が立てた予想』だということを置きながら、母が得意げに話した内容を伝える。

そしてエルヴァンの潔白を証明するかのように、熱弁を振るった。


静かに聞いていたウイレードもリストを見て唸った。


「さすがクララ殿だ。なんというか……実はまだ他の問題に対応してて、リスト化までは進んでなかったんだよ。

すごく参考になる。」


すぐ様アンルースのお付きのメイドが呼ばれ、ルースの月のものの時期と照らし合わせ、母のリストが正確なものだったことに一同で驚いた。


「アンルースと最後に親しくしていた人物から、お腹の子の父親リストはこれで間違い無いだろう。

いや、本当に頭が上がらないな……助かったと伝えてくれ。」


ウイレードは若干思考が追いついてないのか、頭を抱えたまま小さく唸った。


「この18人とは別に、アンルースに恨みを持ってそうなものを先にリスト化していたのだが、その中で最近になって関係を一方的にアンルースから切られた者が10人いる。

あ、もちろんエルヴァン殿下は除外してあるから安心してくれ。

そしてその10人を父親候補の18人と合わせてみると……8人が怪しいというわけか。」


疲れた顔のウイレードが引き出しから数枚の紙を出してきた。

母が出したリストと、ウイレードが渡してきたリストを見比べ、線を引く。

引き終わった後の紙を見て、ルーゼンは顔を引き攣らせた。


「他国の王子が数名見られますが……」


その言葉にエルヴァンがびくりと硬らせた。


「あ、違う。エルヴァン以外に、ってこと。」


ルーゼンの言葉にエルヴァンが険しい顔のまま固まっていた。

エルヴァンの様子を心配しつつも、ルーゼンは紙に何か書き始めた。


『ラント・グレア

 アーノルド・シャーク

そしてジェイグレン・トゥエンティ……』


この3人は他国の王族に属す人物だ。


ラントは北の方にある、獣人のゼドナ国の王子。

アーノルドはずっと南の方にある、武道が盛んな国の王子だと聞いたことがある。

オリンピアの先祖は海に住んでいたと言われ、いわゆる魚人種なのだ。


ジェイグレンにしては魔法が盛んな国で……ウイレードの婚約者の弟だった。


思わずウイレードを見つめる。

その視線に気が付いてか、ウイレードは苦笑いした。


「ジェイのことかな?」


視線の意味に気がついていたようで、心配そうに見つめるルーゼンに微笑む。


「正直婚約者と弟は全く別だと切り離して考えることが出来ている。

ジェイが犯人であろうとなかろうと、我々の婚約には関係ない。

その件に関しては国王も一任してくれている」


ウイレードの言葉が終わると同時に、タイミングよく執務室の扉がノックされる音が響いた。

入室の許可が出ると、ゆっくりと扉が開いた。


「あら?お客さまがいらっしゃったの?」


薄水色の腰まである長いウエーブにハッキリとした水色の瞳。

とても華奢な愛らしい少女。

まるで妖精のような軽やかな足取りで、執務室の中に入ってきた。

通り過ぎる時に横目でチラリとルーゼンの方を見て微笑んだ。


そのまま通り過ぎる姿を見惚れていると、視線を気にせずウイレードに抱きついた。


「……スーニィすまないな、わざわざ来てもらって。」


抱きついて甘える少女を困ったようにそっと抱き留める。

少女は抱きついたまま、ウイレードの頬にキスをした。


「そんなことはいいのよ。緊急なんでしょ?」


スーニィはやっとウイレードから離れると、そのまま流れるようにウイレードの膝に座りこんだ。


ウイレードはどちらかといと、背が高くガタイのいい体をしている。

剣術が得意で、アステートでも上位に行く腕を持っていた。

その為王太子にしては体の傷も多く、赤い髪がその迫力を増していた。

体格も良く男らしい顔をしているので、スーニィと並ぶとまるで『美女と野獣』のようにも見えた。


突然目の前でイチャつく2人に驚いていると、ウイレードが視線に気がつき、思わず額に手を当てた。


「スーニィ、とりあえずキスも膝に座るのも、出来れば2人きりの時にしてくれ……」


目のやり場に困ったように視線を泳がす2人を見て、ウイレードの頬が少し赤くなっているのがわかる。

それでもスーニィは気にせず、『どうして?』と首を傾げたのだった。


「とりあえず、君を彼らに紹介をさせてくれ。」


咳払いをしながらウイレードは膝のスーニィを片手に抱き抱え、立ち上がった。

そのままスーニィ抱えたままルーゼンとエルヴァンの前に連れていく。


ウイレードは長身なので、例えは悪いが『木に腰掛ける妖精』そのものに見えて仕方ない。

そんなルーゼンの思いを気がつくはずもなく、ウイレードはスーニィを下ろした。


「こちらは我が婚約者、トゥエンティ国第一王女、スーニィだ。」


甘えるようにウイレードの腕に手を絡めながらスーニィは一歩前に出た。

そして片手でドレスの裾を掴み、綺麗な自国のお辞儀を見せた。


「スーニィ・トゥエンティよ。」


そしてルーゼンとエルヴァンに向けて片手を出す。


エルヴァンがそれを受け、手の甲に口づけをする。

ルーゼンもそれに習い、手の甲に顔を寄せた。


「こっちがシングレスト国の王子と、私の……弟のように思っているサイマン侯爵のルーゼンだ。」

ウイレードの一瞬の間は、もうアンルースの婚約者ではなくなったんだ、と理解した。


「ああ、あなたがシングレストの王子様ね。

噂に聞くより素敵。とてもかっこいい方ね!」


スーニィはエルヴァンを観察するように、近づいた。

それをウイレードが適切な距離感へと戻す。


今度はルーゼンの方に寄って行くと、これまたとても至近距離で顔を眺めてきた。


「ウイレードがいつもあなたの事を話しているわ!

お会いできて嬉しい。

本当に綺麗な顔ね。アンルースがわがまま言うのが分かる気がするわ。」


しばらくジロジロ見られたのだが、やはりウイレードによって引き戻された。


「スーニィ、ルーゼンはもうアンルースの婚約者ではないんだ。」


その言葉にスーニィの顎がピンッと上がる。

そして嬉しそうに微笑むと、自分の顔の前で小さく拍手をした。


「あらよく逃げ出せたのね、おめでとう!!」


この言葉にルーゼンはムッとした。

だが表情には出さず、微笑んだままでいる。


『……逃げられた?どう言う意味だ。』


スーニィの歯に着せぬ言葉にウイレードは頭を抱えたが、敢えては何も言い返さなかった為、ルーゼンも何も言わなかった。

ウイレードのため息にスーニィは少し眉を寄せた。


「……それで、話ってなぁに?まどろっこしいのは嫌いなの。」


頭を抱えている手の隙間から、ウイレードがスーニィの方を見る。

スーニィは横目でチラリとウイレードを見たが、ニヤリと笑った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る