第6話 呪われし姫の現状3
「……呪いを解く方法とかわかったのですか?」
ウイレードを見上げるルーゼンの顔が引きつっているのがわかる。
酷な事を話している自覚もある。
だがそれでもウイレードは王女の『事実』を話すしかないのだ。
少し間を開け、言葉を紡ぐ。
「アンルースが本当に愛している男にキスしてもらうと目覚めると言うことだ。」
その言葉にルーゼンの顔色がまた青ざめた。
しがみついたままのエルヴァンがハッとした顔でルーゼンを見る。
「だったらルーゼン、君がキスをすれば目覚めるのではないか?」
エルヴァンの言葉に、ルーゼンは大きく首を振った。
「……いや、今となってはそれもわからない。
ボクじゃないかもしれない……。」
愛されている自信がない。
今はむしろ嫌われていたのではと思っているぐらいだ。
そんな2人の様子にウイレードも深く息を吐いた。
「闇雲にチャレンジできるわけじゃない。……呪いを解くにはチャンスが3回しかない。」
「……」
ごくりと喉が鳴る。
唾液さえ干上がっている喉が、渇きに逆らい水分を求めるように……。
そんなルーゼンの横でエルヴァンが口を開いた。
「呪いの種類が特定されていると言うことは、誰にかけられたかわかったのですか?」
エルヴァンの問いにウイレードは首を横に振った。
「いや、まだ捜索中だ。」
「じゃあなぜ特定を?」
「ご丁寧に呪いをかけたやつから手紙が来たのだ。」
そういうとウイレードは机から一枚の封筒を取り出す。
「「……手紙!?」」
思わずエルヴァンとルーゼンの声が揃った。
驚く2人の顔を見つめながらウイレードが封筒を差し出した。
「そうだ。
手紙というか、告発状の様なもので……
惜しくもそこでアンルースがやっていることが露見したと、言うわけだ。」
肩をすくめるウイレードから封筒を受け取ると、中に入っていた手紙に視線を落した。
『私はアンルース王女に弄ばれ捨てられました。
弄ばれた挙句ひどく傷つけられ、私がこの件を外にバラそうとしたら殺されかけたので、呪いをかけることにした。
アンルースが本当に愛した、たった1人の真実の愛だけが呪いを解くことができる。
我こそはと思うたくさんの恋人たちよ、チャンスは3回……
手をあげ順番に試してもいいけど、失敗したら彼女は永遠に目覚めることはないよ』
と書いてあった。
「……やっぱりその1人は君じゃないのか?」
エルヴァンの言葉に再びルーゼンは強く首を振った。
自分以外に49人もいたのだ。
もう自分が愛されていたなんて自信はない。
「チャンスが3回しかないのに、その一回をボクがしてしまって……もし間違いだったらと思うと、怖い。」
『アンルースの気持ちを知ることも怖い。』
ルーゼンはそう思い、下を向いた。
「ルーゼンを一番に愛していたのは事実。
だからこそ、ルーゼンに試してほしいのだ。
……申し訳ないが、これは国王からの『お願い』でもある。」
『お願い……』
これは暗にキスをしろ、と言うことなのだろう……。
国王の命令に逆らえるはずもなく、恐怖も不安もどこかに置き去りになっている自分の気持ちも、すべて口から出てしまいそうでグッと飲み込んだ。
それと、体調もすぐれない。
吐き気も頭痛もあり、なんだか本当に自分の体ではない感覚に襲われている。
こんな状態で、キス……。
「……ルーゼン、大丈夫か?」
エルヴァンがルーゼンに触れようとして、ハッと手を引っ込める。
ルーゼンもそれに気がついて、彼の引っ込めた手首を掴んだ。
彼はきっとボクに嫌われたと、そう思っているから触れられないのだろう。
エルヴァンだって被害者なのだ。
それもボクのせいでこうなっている。
だからこそ、『嫌っていない』ということを分かってもらうように、掴んだ手を強く握る。
「……君もひどい顔だよ。だけど、ありがとう。
少しだけ、手を貸してくれ……」
1人で歩ける気がしない……。
ルーゼンは気力だけで意識を保っていた。
衝動だけで動くとしたら、このまま側にいる騎士から剣を奪い、引き抜いてそれを自分の胸に刺すことが出来るとしたらどんなに楽だろうかと思っていた。
こんな状態から今すぐ逃げることができる。
そしたらアンルースにキスしないで済むのに……。
俯くルーゼンにウイレードが問いかけた。
「……すまない、ルーゼン。
もう時間があまりないのだ。
一刻を争うため、アンルースの部屋へと向かってくれ。」
ウイレードの言葉にゆっくりと頷き、重くふらつく体を引きずるように、部屋から出た。
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