第3話 親友の婚約者。
本来なら自国まで馬車で10日はかかる。
この世界には国と国をつなげる『ゲート』というものが存在しているのだが、それは王族のみ使用できるという魔法でできた門のことだ。
それを使うと短時間で移動ができるのだが……。
エルヴァンの国シングレストからルーゼンの住む国アステート王都までは、ゲートを使っても丸々1日。
そこから城までは半日かかるので、実質今からどれだけ急いでも到着するのは次の日の夜になる。
気持ちだけが逸るが時間は追いついてくれずで、馬車の中で不安な時間を持て余していた。
そんな状態をじっと黙って見つめているエルヴァン。
心中はこちらも複雑だった。
エルヴァンは女性に関してとにかくルーズで、『来るもの拒まず』だった。
自分の容姿が女性に好かれる事も分かっていたし、女性が欲しいと思う言葉や仕草も自然に熟知していた。
昨日の手紙に書かれていた、親友の婚約者の名前に見覚えがあった。
自分が2ヶ月くらい前まで週末こっそりゲートを使い、足しげに通っていた女性の名前と一致したからだ。
出会いは1年前。
自国で遊びまわっていたのが父である国王にバレかけたのだ。
王太子が女性関係派手だと国が滅ぶと忠告されたばかりで、自国がダメなら隣国で遊べばいいやと都合よく思い直したのがきっかけだった。
流石に父の言うことも分かっている。
自分だって馬鹿じゃない。
あちこちで王家の血を引く子を作ったら、将来の継承権で揉めるということ。
しかも自分は第一王子だということ。
だがまぁ子供が出来るようなヘマしない自信もあったので、分かってても辞められない気持ちを優先してしまったのだった。
ちょっと悪い方面の昔馴染みに誘われ、アステート国境付近で開催された仮面舞踏会にホイホイ行ったことで知り合った。
本人は仮面で自分を隠すこともせず、自分の本名を名乗っていて、王女だということも堂々と告げていた。
派手な格好。
隠せていない胸元に、視線が集まることも分かっているのだろう。
目線が合う男性に、誘うように微笑んでいた。
だが相手は王女。
まともな男性ならば自国の王女と火遊びなんてできる訳がない。
良識な男なら、視線は送っても近寄っておらず、野心丸出しの馬鹿か単純に王女の豊満な体に興味があるような悪い輩しか寄って行ってなかった。
エルヴァンは正直遊べればなんでも良かったし、仮面をつけてる上、自分が隣国の王子だということをバラす気もなかったので、堂々と男遊びをする『王女』に興味を抱いた。
そこから頻繁ではないものの、2ヶ月前あたりまでポツポツと関係が続いていたのだった。
なぜ2ヶ月前に終わったのかというと……。
アステートの王女と遊んでいることが国王にバレたからだ。
コンコンと説教をされ、王女に婚約者がいて『近々結婚する予定』だという事もその時聞いた。
なのでその婚約や向こうの親族にバレて揉める前に、『キッパリ絶て』と言われたのだった。
事後のベッドの中で『もう会えない』というと『そう、そろそろ潮時かもしれないわね』とそそくさと服を着ながら言われ、自分的には後腐れもなく円満に別れられたと思っていた。
だが、今更ながら自分の愚かさを悔いても、もう遅い。
この事実を今一番大事な友に告げるか、隠すかを悩んで死にそうになっているのだった。
国王もその婚約者がまさかルーゼンだとは知らなかっただろう。
『父が知っていたら、あの時に俺は殺されていたはず……。』
国王は息子のエルヴァンよりルーゼンを高く評価していた。
王太子としてダメすぎた自分をここまで立ち直らせてくれた事。
そして最高難関の学園で常に上位の成績を収めていた事などを一目置いていた。
正直ルーゼンが女だったら今頃国を挙げ圧力をかけまくった挙句、捕獲監禁したのち『俺の嫁』になっていただろう位の好感度である。
なんなら性別関係なく文官や騎士などの美味しそうな餌をぶら下げ、『どうか我が国に来ませんか』と両手広げている状態だ。
そんなルーゼンの婚約者を何も知らなかったとはいえ、寝取っていたとなると……。
ダラダラと考えを巡らせるエルヴァンの体温はどんどん落ちていっていた。
バレる前に言ってしまいたい。
だが今言うのは酷な話。
婚約者の危篤の知らせだけでも、ルーゼンは今にも倒れてしまいそうだ。
それを今自分の都合だけでこの事実を告げてしまうと、命を経ってしまいかねない。
なんならショック死してしまうかもしれない。
とりあえず王女の状態を見て、いや折を見て、話すしかないのだが……。
『話せるのか……?俺……』
向かいで俯いているルーゼンの姿をチラリと見ながら、魂が口から出そうなほどの深いため息を吐き出した。
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