石井弘子の包容力

 クラス内でえっちな想像をしてしまう子が一人いる。


 石井さんと言う女の子で、賢く優しく、加えサバサバしている所がこれまたそそるのだ。


 何でも知ってる某委員長ほど物知りな訳では無いが、かなり的確に物事を捉えられる気質を持ったお姉さんタイプの女子。


 実はそもそも入学当初から石井さんの事は気になっていて、もっとお近づきになりたいとは思っていたのだが、俺とは全く違う人種に感じていたので積極的にはなれなかった。


 あのクリっとした瞳で見透かされている世界は一体どんな光景なのだろう。


 その石井さんは下ネタにも強く、あっさりとした口調で淡々と話すのが特徴。


 セミナーが終わって2週間ほどした後、俺はその石井さんに「こゆちゃんの事が好きなんだ」と伝えた。


 この時は好意を持っている女子に恋愛相談をお願いしていると言ったシチュエーションなので、何とも興奮できる自分がいた。


 もし仮に、仮にだが、石井さんが俺に好意を持っていたらどんな表情をするのだろう・・・。


 だが予想通りのポーカーフェイスで、仏壇の金を叩いたような音が心の中で響く訳だが、第一声に石井さんがとんでもない事を言い出す。


石井「強引にさ、手とか繋いだりじゃれて体に触ったりしてみなよ」


 え、い、石井さん?


 ダメでしょそんなの! 気持ち悪がられたら終わりじゃん!!


 と思ったのでその通りに伝えた所、


石井「それでこゆちゃんが気持ち悪いって思うって事は、付き合うなんて最初からダメじゃないの?」


 ・・・・・・。


 いや、まぁ、そうですね。


 でも既にこゆちゃんは彼氏がいる訳で、それ以前の問題・・・ん?


 石井さんはこゆちゃんに彼氏がいる事を知らないのか?


 そして聞いてみる。


石井「知ってるよ?」


 ・・・知ってた。


 て事は石井さんは俺にこゆちゃんを奪えと、略奪をしろと、そうおっしゃられるのか?


 複雑な表情をしていたであろう俺に、石井さんはこう言い放つ。


石井「結婚の約束してるわけじゃないだろうし、彼氏がいるとかいないとかは関係ないでしょ」


 貴方はどこまで凄みのある人なんですか? 鋼で出来ているんですか??


 こゆちゃんに触れたりとか・・・んー、いいのかなそんな事して。


 抵抗を感じて口にまで出てしまう俺に石井さんはこう告げる。


石井「女子のイメージを間違わない方がいいよ。 女の子だってうんちもすればエッチな事もみんな好きだよ」


 この言葉に関して、俺は何故急にそんな事を言い出したのかわからなかった。


 若い男子の夢見る女性像の事を石井さんは指しているのだと後になって分かったのだが、残念ながら俺はそんなピュアな心の持ち主ではない。


 何故なら我が家「三波家」は、女帝一家なのだ。


 女帝一家とは、大黒柱である亭主が権限を持っている訳では無く、女性優先主義で生活を強要される一族の事だ。


 俺は父親が幼少期に亡くなっており母親一人で育ててくれている訳だが、その母親は三姉妹の次女、つまり女の中で育った。


 しかもだ、母親姉妹の長女が産んだ子が3人女で、末っ子の三女が産んだ子が2人女と言う始末で・・・。


 俺はと言うと・・・前途の通り、姉が一人いる。


 本当に女しか生まれない家系で俺だけ男なのだ!


 なので女と言う生物のほとんどを知っているつもりであったし、何故石井さんがそんな事を言うのかサッパリだった。


 でも嫌われたくはないから「お、おぅ」くらいの返事はしていたと思う。


 但し、えっちな事となると話は別だ石井さん!


 女子はえっちな事も好きだと貴方は言った! んー確かに言ったね!!


 だからと言っていたいけな女子にえっちな事をしてもいいという解釈にはならないのではないですか!? 


 日本には強制わいせつ罪と言うものがあったはずですよぉ!


 と、いつからかどこからか、声に出していた俺に石井さんが一言。


石井「襲っちゃえなんて言ってない」


 そうですね、僕が悪かったですゴメンナサイ。


 少し冷静になった後、石井さんが俺に質問をしてきた。


石井「こゆちゃんが実はすっごいエッチな子だったとして、三波君誘われたらどうすんの?」


 う・・・ぐ!


 どうするよ?


石井「私が聞いてる」


 考えもしなかった。


 と言うか、そう、そこが問題なのだ。


 考えていなかったわけでなく、考えられないのだ。


 不感症だからとか、童貞だからとかではない。


 体験入学で出会った娘と一度だけ経験がある。


 そういえばあの子は入学してないな・・・どうしているのか。


 願わくば、もう一度あの腰回りを撫でながら匂いを嗅ぎたい・・・。


 と、ホラ、すーぐえっちな事考えられます私。


 標準です。


 石井さんには言えないけど、貴方をおかずにしてますワタシ!


 標準です!!


 でもこゆちゃんは無理だわ・・・こゆちゃんが裸になってても手を出すのは多分無理だわ。


 などと考えながら石井さんの胸元をじっと見つめていたことに気が付き、我を取り戻す。


 おーあぶないあぶない。


 ふと顔を上げると、石井さんと目が合った。


石井「何?」


 み ら れ て た 。


 何でもないですごちそうさまでした。


 ホント・・・あぁ、そんな目で見ないでオネガイ!


 貴方の体が目的じゃないの信じてオネガイ!!


 くっ、話を戻そう。


海人「まぁ、誘われたらおっぱいくらいは揉むかな///」


 ごまかせたろ! 俺天才かよ!!


 多分揉めないだろうけどそう言ってみる。


石井「私は誘ってないから揉んじゃダメだからね?」


 色 々 と 全 然 ダ メ だ っ た 。


 無かった事にしてください何でもしますから・・・。


 とその時、帰宅の合図が鳴ったのでこの会話はこの辺でお開きになった。




 帰りの電車で考える。


 例えば、今俺の前に座っている子とイチャイチャできるだろうか?


 恐らくできる。


 そして石井さんともできるだろう。


 そんなのごちそうだ。

 

 えっちな事ができない、手を出せないとはコレ。


 どう言う事なのか?


 尊さ。


 当時の俺は尊いという言葉を知らず、ただただ悩んでいた。


 しかも、付き合っている訳でも無い子に対して。


 純粋な愛おしさ。


 単純な話、好きな子とえっちな事をするという至福を求めていたのだと思うが、全く違う現実が大きな壁となった。


 よって俺は・・・





 この壁をぶち壊す事にした。

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