狙われたのは桑藤理世

 次の日、学校へ行った俺はホームルーム前に早速良からぬ事を考え始めた。


 全く性的な目で見てない女子とイチャイチャ出来たら、それはこゆちゃんともイチャイチャできるって事にはならないのか?


 と、俺は教室で結論を急いでいた。


 自分が病気にでも悩まされているかの様な取り憑かれ具合だ。


 そこで一つの案が浮かぶ。


海人「実際に恋愛対象でない子に手を出してみるか・・・」


 この計画が、このお話の主軸となる「とんでも話」である。


 俺にとって「こゆちゃんとイチャイチャできないかもしれない」と言うのはとても重大な問題なのだ。


 そりゃそうですよ、思春期真っただ中ですもん。


 まだまだ子供とは言え恋愛と言う物を知ってしまったからには、好きな相手と好きな事ができないというのは由々しき問題である。


 お付き合いする以前の問題だと実感していた。


 ならば訓練だ。


 実際に体験してみれば、答えは出るはず。


 という訳で、イチャイチャ女子捕獲作戦を考える。


 さて、まず下準備として、女の子の選定をしなくてはならない。


 計画は、計画的に。(?)


 俺はやる気マンマン。


 と言っても俺の周りにいる女性陣なんてクラスの子達くらいしか見当が無く、中学校時代の知り合いに電話して誘うなんてそんな発想は持ち合わせていない。


 この学校の生徒でチャレンジするか・・・そうしよう。


 となった時、ほとんど会話しない子がいいだろう。


 どんどん悪事への思考が発展していく。


 楽しい、何だこの充実した興味の膨張は!


 たまらん!


 その時の俺は、悪い方へ事が進み学校生活が危うくなる可能性など1ミリも考えはしなかった。


 恐らくこれが世間で言う若さゆえの過ちと言うものですよね。


 認めたくないものだな。


 さてさて、誰にするか。


 あたりを見回すや否や、すぐ目に入った子がいた。


海人「・・・桑藤さん」


 桑藤理世。


 この時の俺は、彼女の下の名もまだ知らない。


 彼女とは全く話をしない訳では無いが、用事が無ければお互い声すらかけない。


 しかし、通学は同じ駅で乗り降りするので、そこで目が合う際は必ず毎回挨拶をしていた。


 それもほぼ毎日、手を振るだけだが。


 それ以外は接触もないし、自宅の駅もロンパっている。


 俺は彼女の事を何となく暗いイメージで趣味とかなさそうな感じの女子に思えていた為少し壁を感じており、会話をする事は本当にまれであった。


 彼女に声をかけたのはいつだったか?


 意外とハッキリ返答する子で少々驚かされたのを覚えてる。


 ただ、見た目での判断だが、きっとキミは圧しに弱い子なんじゃないか?


 土下座されて頼みこまれたら、ちょっと無理なお願いでも聞いてしまうのではないか?


 周りが右に流れたら、君も右に流れるタイプなんじゃないのか?


 もし俺と1対1で個室に居て、俺に強く誘惑されたら君はどうなってしまうのか。


 ・・・なるほど、コレはいい。


 そうだ、面識が全くないような女子に手を出すより、お互い認識がある方が色々と楽じゃないか。


 キミだよ桑藤さん、君がベストだ。


 君の持っているであろうそのやさしさに付け込ませてもらう事にする。


 これから俺は君にとてもひどい事をするのかもしれない。


 謝っておくよ、心の中で。


 きっと拒否権も与えずに君の体を弄んだりするのだろう。


 ゴメンネ桑藤さん・・・下の名前、何だっけ?


 まぁ・・・いいか。





 気が付くと、本日最後の授業が終わっていた。


 ヤバイ、衛生法規超苦手なのに、今日の内容全く頭に入ってこなかった。


 ・・・ふふ。




 

 ここまで読んでいる人は「お前はどんだけ自信過剰なんだ」とか「変態かよ」と思うかもしれない。


 だが、申し訳ないが、俺はできてしまう。


 中学校時代の歌の授業の様に、リコーダーのテストの様に。


 やった結果、音が外れていようが歌詞を間違えていようが、それは文字通りただの「結果」でしかない。


 解ってほしい、事を起こさなければ結果はないという事を。


 やり始める事に意味があるし、そのやり始める力が俺にはある。


 俺の持っている自信、身につけた自信とは、成功をさせる為の技術や知識ではなく「始める勇気」と言う名の活力だ。


 そして本来この1歩と言うものは、とても大きくとても高い壁である。


 だが、俺はやりますよ石井さん。(何故石井さん?)


 ライヴのステージに立つ時の緊張感と比べたら、こんなもの屁でも無いですよ。


 ロックは俺に冒険を始める為の盾と剣をくれたのだと思う。


 とか、そんなカッコいいこと言っても、なんか心の片隅では石井さんの声が聞こえていましたよ。


 「そんな事やれなんて言ってない」ってね。


 心の中だけで責任転換する分には、罪にならないでしょ。


 すんませんケド、石井さん、心の中の石井さん、半分重荷を背負ってくださいお願いします。


 こうやって、軽く逃げながら前進するのがコツです。




 では参りましょう、観察の旅へいざ。


 おやおや桑藤さん、もう教室にいないのかい?


 俺の視界からいなくなるなんて、イケナイ子だね。


 追跡開始だ、行けストーカー海人!




 当時一番仲が良かった佐藤コンビと呼ばれている佐藤誠君と佐藤孝明君へ手短に挨拶をして学校を出る。


海人「おっす、おさきー」


佐藤コンビ「おっつー」


 桑藤さんは駅前の公衆電話に並んで友達を待ってることが多いんだよな。


 そこへ俺が通りがかり、いつもバイバイするのだ。


 あ、いや、友達を待っているのかバイトまでの時間潰しをしてるのかは分からないな。


 でもバイトまでの時間潰しだったら普通そんな所で待たないよなぁ。


 ちょっと歩けばショッピングセンターのダイエーがあるし、そこのフードコートで座って本でも読んでいればいい。


 ・・・そう考えると、桑藤さんの事を何から何まで知らないな。


 下の名前なんだっけ?


 とか考えていたら、いた、駅前にいた、公衆電話の横に居た!!


 おーよしよし、思った通りだが、何しに来たんだっけ。


 おや・・・何しに来たんだっけか!?


 おーやばいやばい!


 これ以上近づいたら目が合っちまうよー!


 そしたらいつも通り手で「ばいばーい」して駅に入るのが流れだよー!!


 何が計画は計画的にだアホ!!


 あーもうダメだ、あーもう遅い。


海人「おっすー、何してんの桑藤さん」


桑藤「あ、ん-ん、なにもしてない」


 何声かけてんのおおおおおおおおお!!!!


 バカなの?


 ねぇ、バカなの??


 桑藤さんは俺に返事をした後、俺の靴あたりに視線を落としてしまった。


 おおおおおおおおおお、おいおい、どうすんのこの後・・・。


海人「誰かと待ち合わせ?」


 聞いてどうする。


桑藤「んーん、違う」


 じゃあ何でここにいんだよ!


 今日1の難関来たよコレ・・・。


 待ち合わせじゃないのにたたずんでる女子へかける言葉なんて知りませんけどワタシ!


海人「え、今暇なの?」


 だから聞いてどうするのよ。


桑藤「んー・・・そうだね、暇だと思う」


 は・・・暇だと思う?


 だと、思う?


 ドユコト?????????


海人「そうなの? 俺今からダイエー行こうかと思ってたんだけど、来る?」


 おいおいおい待て待て待て!


 アンタどこのナンパ師ですか?


 よくそういうセリフ出ますね。


 ダイエーになんか行きませんけどワタシ用事無いですから!


桑藤「あ、うん行く」


 来るんかーい。


 急遽、下の名前も知らない子とデートする事になった。 

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