汐入る駅の下でいつも立っている君を弄びたい

三波海人

始まりは三波海人の片思い


 どもどもー、三波海人です。


 俺が人生で初めて女性にに告白した時、その前後で起きた出来事を書き記して行こうと思う。


 物語、そう思って読んでもらいたい。


 加え、フィクションである、とも書いておきたい。


 と言うのも、この内容は本当にえげつない心情を正直に書いているので、真実であったとしても「体験談である」とは書き辛い。


 内容を知って怒る人もいるだろうし、私自身が良くない視線を浴びる事にもなりかねない。


 もちろん三波海人と言う名も偽名であるし、登場人物の名前も仮名である。


 と言った前置きをし、さてさて本筋に移りたい。




 俺、三波海人が中学校で推薦を貰い高校へ流れ込んだのはこの物語の3か月前。

 

 小学校の時、母親に連れて行ってもらった原宿で初めて食べたクレープの味が脳裏に焼き付き、洋菓子屋の夢に目覚めた俺はこの調理師学校付属高校に入学した。


 母親が料理に関係する仕事をしていた事も影響していた可能性がある。

 

 中学校では全くと言っていい程勉強をせず、自分の成績がどの程度なのかも知らなかった。


 そんな俺がなぜ推薦を受けられたかと言うと、中学3年で担任になった教師が音楽の先生であったから。


 俺には姉がいて、その姉がロック好きだった事が影響し、俺は小さい時から歌や楽曲と言ったものに興味があった。


 音楽の授業でほとんどの生徒が恥ずかしがりながら歌ったり演奏したりする中、俺は恥ずかしげもなく大声で歌い、盛大に音を外してリコーダーを噴いていた。


 その堂々たる姿勢を担任に評価され、本命1本に絞っている志望校への推薦状を貰えた。


 余談だが、実はその推薦状をこっそり開けて読んでしまった。


 特筆する技能と書かれた項目に「音楽的センスに優れる」と書かれていたのを見た俺は赤面しながら吹き出し「調理に関係ないじゃん!」と1人ツッコミを入れたのはいい思い出である。


 中学校の同級生もこういった内容を目の当たりにしていた訳で、高校に入ってすぐ、中学の同級生だった友達に音楽への世界に誘われ、ロックバンドのボーカルを担当する事となった。


 だが今回のお話は、天才的歌唱力を身につけるとか音楽で登り詰めるとかそんなきらびやかな青春の物語ではない。




 人に話せば引かれてしまいそうな、サイケデリックな「下ネタ」である。




 時は1990年代半ば、世間ではポケベルが大流行し学生間でのコミュニケーションツールとして欠かせないものになっていた。


 俺はポケベルを買っていなかったのだが、何故かクラスの女子が貸してくれて2台もポケベルを所持していた。


 もしかしたら俺はモテていたのかもしれないが、当時は女子達に感謝する程度で、他人の色恋事情には全くの無関心だった。


 だが、自身のときめきには抑えが利かなく、やりたいと思ったら行動せずにはいられなかった。


 更には音楽をやりライブなどを始めたおかげで無駄な自信がつき、やってやれない事はないという性格が出来上がりつつあった。


 そんな俺が学校に行くと、男子達はとにかく自分の凄さアピールに必死で、女子達はファッションに時間を費やしていた。


 それが本当にくだらなく感じた。


 俺には誰かと一体になれる音楽と言う武器があるし、着飾らなくても自分を理解してくれる世界がある事を知っていた。


 だがこの幸せが危険な物語の撃鉄を起こす事となる。


 一体感の興味が別の物に移ったのは、自分に好きな子が出来た時だった。


 その子は違う学部で、自分達の教室からも離れている場所で授業を受けていた為接触もあまりなかった。


 入学してしばらくは存在すら知らなかった。




 その女子との出会いはホテルステイセミナーと題された研修が行われた際に泊まった研修会場となるホテルでの晩の事、俺の寝る部屋へ続いている廊下を歩いている彼女を見た時だった。


 俺が仲間と二人で自販機を探しホテル内を散策していた時、奥からこちらへと歩いてくる彼女。


 彼女も友達と二人で自販機を探しており、偶然出逢う形になった。


 偶然の出会いとは言えよくよく考えれば同じ学校の生徒であって、いつかは高確率で出会っていたに違いないが、兎に角その時の「浴衣姿の彼女」を見た俺は偶然骨抜きになった。


 しかも隣にいる俺の友達はその子を知っているようで、親しげに挨拶をしているではないか。


 そして「お互いの部屋を見比べしないか?」と、その子に提案している。


 部屋の見比べとは一体何ですか?


 趣旨が解らないのですが・・・是非僕も参加させてください。


 その子は背がちっちゃくかわいらしい女の子で、歳は同じなのだが年下に見えるような愛らしさがあった。


 話すその顔もキラキラしており、声に至っては声優か何かが発している「うさぎさんの声」の様にキュートな質なのだ。


 この子とお付き合いしたいと考えるようになるまでに時間はかからなかった。


 浴衣姿の彼女は「こゆちゃん」と言い、後で知った話なのだが、既にクラスでは密かな話題の子だったらしい。


 俺はそんな事も知らずに部屋の仲間へ自慢しようと考えていた。


 何を自慢するのかと聞かれればこう答えるしかない。


 「こゆちゃんの部屋にお招きされた」と。


 無論招かれてなど全然なく、こゆちゃんも提案に対し「いいよー」と言っただけであって、しかも俺はそのイベントにただ同席していたにすぎないのだが、俺の中での出来事としては過大評価するに値するビックイベントであった。


 こゆちゃんの部屋の前につく。


 こゆちゃんが部屋の鍵を開ける。


こゆ「どうぞー」


 こゆちゃんが部屋に入れてくれる!!!


 女子の部屋ババーン!!(研修をしに来たホテルの一室です)


 俺は本当に感動した。


 何故なら俺が寝る予定の部屋より内装が豪華だったから。


 当時レベルのボキャブラリーで内装を例えるなら「小公女セーラに出てきそうな部屋」と言った所だろうか。


 我々がきんちょ学生が宿泊するには余りにももったいない装飾が施されており、見ていた俺はポカンと口を開けていたに違いない。


 しかし、この部屋がまたこゆちゃんを引き立たせている訳で・・・。


 好きになっちゃいました。


 と同時に、男子3名で1部屋のどこにでもありそうな内装である俺の寝室より、こゆちゃんが寝る女性2人1部屋であるこの部屋が何故こんなにも豪華なのかと言う素直な疑問が沸き起こり「腑に落ちない」と言う言葉の意味を知ったのだった。


 室内を堪能した俺の連れは「じゃぁ次、俺の部屋に来る?」とか言っているが、俺はお前の部屋には興味が無いので行かない事にする。


 こゆちゃんとの別れは悲しいが、自室に戻る事にした。


 すると俺の寝る予定の部屋には、どういう訳か十数名の男女がひしめき合っていた。


 俺のベットに乗っている掛け布団が盛り上がっており、中で誰かがモゾモゾと動いている。


 枕側から布団をめくると、中で男子と女子がが抱き合っていた。


 研修の宿泊部屋がアダルトコミックに出てくるような俗に言う「ヤり部屋」と化していたのだ。


 トイレに行きたかった俺は風呂場の扉を開けると、便座裏にある貯水タンクの上に中身のないコンドームの入れ物が置いてある。


 こいつらは一体、俺の寝床を何だと思っているのか・・・ヤレヤレ。


 とまぁお判りの通り、当時の俺達は飯の次に趣味と異性の事しか考えていなかった。


 


 ホテルステイセミナーと言う濃厚なイベント後、俺はこゆちゃんの事で頭がいっぱいになった。


 どうやって遊びに誘おうかとか、どんな風に告白したらいいかとか、ほぼ毎日考える。


 そんなある日、クラスの一人がこゆちゃんとお付き合いを始めたというではないか。



 はあ!?(悲)



 そうかー、行動が遅かったかー。


 自分のものでもないのに、取られたという感覚で胸がいっぱいになる。


 あー、アイツはこゆちゃんと抱き合ったり・・・



 ん?


 ちょっと待てよ??



 こゆちゃんは経験があるのだろうか?


 あんなにかわいらしい子が、えっちぃ事するのだろうか?


 そんな事を考えていた時、ある事に気がついた。





 自分とこゆちゃんがイチャイチャしている図を想像できない・・・。





 どう言う事だ?


 年頃の男子、えっちな妄想くらいはお手の物のはず。


 しかし、浮かんでこない・・・。


 こゆちゃんとえっちなコト?


 彼女の服を脱がし、ベッドへ横たわらせ、ちゅっちゅ・・・。


 んー、違くない?


 違うってなんだ??


 ほっぺにちゅーとかしてもらえたらキュンキュンだけど。


 え、いや、えっちな事ってそう言うんじゃない。


 なんだ、俺はいつから甲斐性無しになったのだ。


 甲斐性の問題ではない、これはもっと別の何かのせいだ・・・。




 これじゃもし付き合えても、こゆちゃんとイチャイチャできない・・・!? 





 こうしてアブノーマルな思想のトリガーが引かれ、俺の興味は危険な領域へと突入する。

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