変位㏍およずれ
ジブラルタル冬休み
「ふれいめん」
得をしたばっちいやつ。
得るもののないこってり野郎。
店で蜜を吸って、5、9人を養う必要があった。ガリガリに痩せ細ってしまっている。適当に味方を比べて損をしている、穴だらけの巫女。
古文書に書かれた、その穴だらけの巫女。
トコケという。
トコケは凄い。
「なんなんなんなん」(聞き取りづらいお経みたいなやつ)とか言えば、「ふれいめん」もあっという間に泡沫夢幻。
「ふれいめん」は億劫だ。億劫すぎて、殆ど邪だ。「ふれいめん」の心臓を食べ続けないと、巫女は墓石に佇んでしまう。
だから、トコケは利息がない。
「カーオカオ」今日も祭りのように石陣が鳴る。トコケ、参る!
「みちゅみちゅ」
いかがわしいクリスマスイブみたいな擬音で今日もハート貪る、トコケ。そのボーイフレンドのボーイスカウト、デライが、チラチラと彼女の襟を見ながら、無賃乗車に電車内での電話を重ね、ケンタッキーを食べている。
「私が今式神に乗って移動してるからって電車でついてこないでよ」
トコケ、嫌がった。
「マナーもひどいし」
トコケは善良だ。ルールはよく守る。デライ、誤った。そして、謝った。そして立派な紳士となった。
「これで済んだら警察いらないなあ」
と一言、トコケの式神。モサモサの毛むくじゃら獣。でっけえ犬のようでもあるが前足が三本。
「どこ向かうんだいや」
デライが訊く。夕陽は遠くにあるから、どれだけ早く走っても同じ場所で沈み続けている。
「立川のすき家だよ」
トコケは顔を赤くして言う。ショートカットの茶髪は、愈々昏くなろうという空のノスタルジー光線でキラキラの魔装状態。
「ンァ、あれ呪いでねえか」
「動かないで!!」
扣制されてあわてるデライ。
「だけんど、電車は動きっぱなしだっぺよ、んだば、どうすんだ」
凡ゆる方言を混ぜて喋るデライにちょっと呆れる。
「そのイモくさい喋り方やめてくれたら教えてあげてもいいんだけど」
「…で、どうしたらいいんだ?あんなとこに呪いが居座っちゃ、家に帰れないんだ」
式神、一言。
「やっぱ警察はいらないなあ」
通りすがりのanarchistがそれを聞いて「全くだ!!!!」と叫び、「警察は無能!!」と近隣住民を捲し立てる事件が発生した。決してトコケ一行のせいではない。そいつがやばいだけの話。
すってろ、ころっ、とコミカルな擬音立て、キノコの笠の部分がとれたので、主治医も驚いていた。きっとこいつもユーズフルなレザーなのである。悔しそうにする自分を思い浮かべただけで、トコケは少し悔しかった。気を取り直して続ける。
「じゃ教えてあげる」
「はい」
「今、Google使える?」
デライは髪の毛をつまんで、
「うん」
と答えた。トコケは、
「それ意味ある?」
と聞き返す。デライは首を横に振る。横に振ったので「取り消す -入力」ボタンが出てきてしまった。一回取り消したら質問が繰り返された。
「今、Google使える?」
デライは髪の毛をつまんで、
「うん」
と答えた。トコケは、
「それ意味ある?」
「ないかな」
意味はなかったようだ。
トリトリュトリトリュというスマホの操作音にしては川べりみたいな音を立てる。
「単刀直入に叫ぶわ」
そういうとトコケは息を吸い込み、
「実は立川のすき家という存在そのものが呪いなのッッッッッッッッッ!!!!!!」
「なんだってっ…」
デライは声量の平均を保つためあえて小さな声でリアクションする。
「Googleで立川のすき家って調べてご…えっ!デライ、これよく見たらBingじゃん!!」
「どっちでも良くね」
「たしかに」
検索してみる。一件もヒットしない。ストライク、ボール。ボール。ストライク。ボール。ストライク。三振。
「な、なんだと!立川にはすき家がない!!」
「でしょ?でも私たちはいま『立川のすき家に向かっている』これって変だと思わない?」
「つまり『立川のすき家がある』ことそのものが呪いだったってことか!」
「ふれいめん」の呪いの片鱗が理解できた喜びからか知らないが、彼はボックスステップを踏んだ。踏み外して捻挫した。さようなら、デライ。
「式神夅氏 猫會冭」
トコケの身体が光に包まれる。彼女の式神が光の粒になり身体に巻きついて、一つの服となる。魔法少女のお約束である。一回全裸になるシステムに疑問を感じたマホーショ・ウージョ博士が開発した、新しい感じの、霊衣。
「『ふれいめん』、悪いけどこっちも本気なの」
決め台詞を吐く。「ふれいめん」となっている「立川のすき家」は急な正義の味方の夅氏に、
「チェッ、もう来たんかえ」
と(木曜日に燃えるゴミで出そうと思っていた)捨て台詞を不法投棄して逃げた。
「待ちなっ!!」
みなさん、驚かないでください。
トコケは、すごい太さのレーザービームを放って瞬で「立川のすき家」を消し去りました。
こんなものなのです。
これが現実です。
プリキュ
敵を倒すのに苦労してるでしょう。(え?
現実は違うのです。
大体悪の力は突発して巻き起こるから被害が大きく見えるだけで、それなりにコンディションさえ揃えば瞬殺できるものです。
あれらはみんな、作者がいるのです。
彼らがドラマを持たせているだけなのです。
先生に言われたので上限は400円までですが、いっぱいいっぱい持たせているだけなのです。
リアルは違います。
「…デライ、もう終わったよ」
「え…」
彼もまた、リアルとフィクションの差が区別できず焦っているのか、母音一文字呟きますです。しかし、様子が変です。目の焦点がずれている。というか、トコケの方を見ていないのだ。
「おかしい…」
そう思っていると、後ろで爆発音がした。
「っく…」
爆発で吹き飛ばされないよう堪えると、後ろから真の「ふれいめん」が現れた。
「…ヒヒ」
不気味に笑う「ふれいめん」。
「あのレベルのデカさの『ふれいめん』を産み出すだけの力…流石に私も瞬では祓いきれないかも」
「逃げよ、あれは使いたくない」
不安な言葉を聞いたデライは焦り、慌てて立ち去ろうとした。しかし、足が動かない。一切動かないのである。
「っな…に、これっ…ぇ」
「そこに、仕掛けておいたんだよ、呪いのちっさいの」
「…あなた、しゃべれるのね」
「まあな」
まともに人語を話しコミュニケーションができるレベルの「ふれいめん」は200年は生き延び続けているでかいタイプの呪いです。
「ここで切腹した3人の町奉行の呪い…」
デライが適当なことを言います。
「ちがう」
普通に「ふれいめん」も否定しました。
「5人だ」
結構合っていた。
「…相当重厚な呪いね、これは手こずりそう」
冷静に分析していると、デライが懐からおもむろにカプセル薬を取り出した。
「疲れるんだけどな、しゃあないか、使う?」
「このままじゃまずいし、こっちもあれを使うしかないね」
「わかった」
そういうとデライはカプセルを飲み込んだ。
「式神夅氏 他刄」
デライの身体が、カルメ焼のようにボコボコと破綻の一路を辿りかけた時、デライは気の魔神となって再び凝固した。
「なるほど、夅氏術を更に変換させて人間を式神として更なる神経の硬化を図ったのか」
思わず「ふれいめん」も納得。
トコケの式神も変わり果てたデライを見て恐れ入り、身体を震わせた。というかトコケの式神はいまトコケの霊衣となっているので、普通にシックスパッドみたいな効果があって、トコケは健康になった。
「デライ、お願い」
普通にデライのパンチとトコケのビーム30発ずつで「ふれいめん」を強制成仏できた。
だから、リアルはこんなものです。
で、さっきのやつは一発だったから、いかにこいつが強いか、わかりましたよね。
そういうことです。
リアルって、こういうもの。
変位㏍およずれ ジブラルタル冬休み @gib_fuyu
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