第2話

次の日、俺は会社を休み、ユリがでかけそうなところに聞いて回るが、誰も知らない。

 

ユリは携帯と財布ごといなくなっていた。

娘のアオイの同級生の母親の連絡先がわからなかったため、学校に相談する。


そして聞いてみても誰もユリの行く先を知らない。  


当然、母親の失踪が知れ渡り、アオイが不安定になった。

夜、眠れないのだ。そのため、授業中に居眠りしたり、ゆびしゃぶりをするようになった。  


俺たち夫婦の親はすでになく、兄弟も近隣にいない。  


俺はまずいと思って、学校や同級生の親に何度も相談した。

特に母親らから、助けられた。アオイに声掛けして気遣ってくれた。  


ユリの仕事先にも連絡したが、ちょうど仕事の切れ目だったらしく、迷惑をかけることはなかった。  


俺は会社に相談し、定時に帰るようにした。そして、在宅での副業をする。


会社と在宅の仕事を死ぬほど頑張り、食事とアオイの世話。


俺は時間に追われた。


携帯画面で笑うユリの笑顔を支えに、アオイが健やかに育つよう、とにかく俺は弱音を吐かず、余裕ぶって娘の前では振る舞った。


教えを請いて、同級生の母親らから、女の子のおしゃれのこととか、髪型のこととか、聞いたりもした。


1年くらいたったころ、俺は大事な日を迎えるのに、どうしようか、と悩んでいた。


アオイの誕生日だ。


去年までは、ユリがご馳走を作って、アオイの友人を招いていたのだ。


 いまの俺にはそんな余裕はない。

 

 会社は俺が定時に帰ることに理解はあるが、そのぶん利益をあげなければならないし、在宅仕事は勉強することが多く、目が疲れ頭痛もする。


 一日一日を過ごすのに必死だった。


 俺は思い切って、今年はゴメン、とアオイに謝ることにした。


 休みで在宅仕事が一息ついた時、娘に話しかけてみる。


「アオイ、お前の今度の誕生日だけど……」

「あ、友達んちでやってくれるって!ええと、同じ誕生月の子がほかにもいるから、みんなでやろう、ていう話になったんだ」

「そ、そうか……」


 俺はほっとした。

 じゃ、友達へのプレゼントを買わなきゃな、と今度一緒に買いに行こうか、と誘うと、駅近くにできた商業施設でみんなで買うからいいよ、お金だけちょうだい、と言ってきた。


 俺はこんなときも子供に気をつかわせてるのかな、と自分が情けなくなった。  


 ある日、学童の迎えに行った時、別の児童の父親に話しかけられた。


「失礼ですが、そちらも男手一人で?」

「ええ、まあ……」


 聞けば、彼は妻を病気で亡くしたらしい。俺の妻が失踪中ということは有名らしく、知っていた。


 事情は違うが、同病相憐れむと言うか、なんとなくぽつぽつと、話をする。名前を佐藤と言った。


 彼の子供は小学4年生で、アオイの1つ下だ。俺はその子を指さされるままに見る。

 

 髪はショートカットで、白のトレーナーに、ジーンズだ。名前を望優(みゆ)というらしい。


 ……まるで男の子みたいだな。


 アオイは最近は元気になり、「こんなダサいのヤダ」と、量販店の洋服を嫌がり、おしゃれな子供服や、アクセサリーを欲しがるようになっていた。


 髪も伸ばし、編み込みにしたいと言うから、俺は四苦八苦して、練習した。


 それでも、ユリがいなくなった当初はわがままを言うのを遠慮していた、と思う。


 俺が忙しさに負けて、くたくたになっているから。


 俺は慎重に、聞いてみる。


「佐藤さん、その、聞きづらいんですが、望優ちゃんの格好が男の子っぽいのは、彼女の好みですか?」


「格好?え?」  


 佐藤は自分の娘を遠目で見る。周りの少女はスカートだったり、可愛らしいキャラクターのプリントされたトレーナーを着ている。  


「あ……」


 言われて初めて気づいたようで、表情が凍る。    


 そのあと、佐藤は周りの母親にもアドバイスをもらって、帰りに娘におしゃれなスカートや、ショートカットでもつけられるカチューシャを買ってやったと、後日、報告してきた。  


「いやあ、本当にあの時、指摘してもらってよかったです。自分はそういうことに疎くて、娘の髪も近所の理容店につれていけばいいと思いこんでいたんですから……」


 聞けば、やはり娘は遠慮して髪も伸ばさず、洋服も父親と同じような格好で我慢していたらしい。


 男親だと生理の時もどうするの?と、おせっかいな上級生の母親から聞かれ、俺と佐藤はうなだれて傾聴した。 

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