第14話 不思議な子 キュイ

「キュイー!!!」


 と、子竜のキュイが私の作った果物を嬉しそうに食べながら鳴いた。

 ……どうしてこうなったのかな。

 あの長い黒髪の男の人と会ってから三日後。

 あれからあの男の人と会う事はなかったけれど、なぜかあの時の竜のキュイが私の家に住み着いてしまった。

 お家にかえったほうがいいよって紙に書いても「きゅいー♪」って私にくっつくだけで全然帰ろうとしないの。


(君は不思議な子だね)


 って心の中で話しかけると嬉しそうに「キュイー♪」って鳴いてくれる。

 ひょっとして竜だから心の声もわかるのかな?

 

(キュイ、レイゼルさんはいつ帰ってくるかな?)


 私がキュイに聞くと、キュイが不思議そうな顔をして「キュイー」って私の周りをパタパタ飛んで、私の服をひっぱりはじめた。


(どうしたのキュイ?)


 キュイにくっついて外に行くと私の大事な畑にこの前の黒髪の男の人が立っている。


「あー!!」


 なんで、なんであの人が?

 この畑はレイゼルさんの魔法で普通の人は入れないはずなのに。


 私が慌てて駆け寄ると


「ああ、うちのキュイが世話になったな」


 と、男の人が私に言うの。


「あー」


 やっぱりこの子は男の人のペットだったんだ。

 それより勝手にここにはいっちゃだめ。

 ここはレイゼルさんと私の畑なの!


「あーあーあー」


 私が手振り身振りで説明すると、男の人はふむと頷いて


「悪かった。そなたにこれを返しにきただけだ」


 と、私の書いたノートを差し出すの。

 これはレイゼルさんと作物を組み合わせて出来た結果を書いた私の研究ノート。

 えっ!? いつ落としたの!??


 私は慌てて男の人から受け取ると、背中に隠す。


「キュイが勝手に私の所に持ち出したようだ。謝ろう」


 そう言って男の人が、キュイの頭を撫でる。

 キュイは悪い子! 人の物を持ちだしたらだめ!


 どうしよう。この研究がばれたら、神殿に研究成果をとりあげられて閉じ込められちゃうかもってレイゼルさんが言っていた。

 レイゼルさんが帰って来る前にこんなところで研究を終わらせるなんて絶対嫌。

 私がどうしようか迷っていたら


「安心しろ。その研究を神殿のものに告げ口するつもりはない」


 て、男の人が言うの。


(……え?)


 私が慌てて男の人を見る。

 告げ口って……この人は神殿の人じゃないの?

 そういえば恰好が神官服じゃなくてどちらかというと、王宮の人たちの服装に似てる。


「申し訳ありませんが、貴方の研究ノートをみせていただきました。

 私達がここに来たのは貴方の研究に興味があるからです」


 今度は別の場所から銀髪の男の人が現れた。

 怖くなって私が飛んでいたキュイの後ろに隠れると、キュイが大丈夫だよっていうかのように、私の肩にとまってほっぺをペロペロ舐める。


『研究に興味?』


 私がしゃがんで地面に文字を書いて聞くと


「ああ、そなたの【聖気】の必要としてない作物の研究だ。我々はその研究に出資する準備がある。そなたが我らに力を貸してくれるなら、私も全力をもって君を守ると誓おう」


 そう言って黒髪の男の人が微笑んだ。


(守る?)


 私が小首をかしげていると、遠くから声が聞こえた。

 神殿の神官さんたちが何かを叫んでるみたい。


「どうやらこちらを探しているようですね」


 銀髪の人がそう言って立ち上がると、黒髪の人も立ち上がった。


「ここがばれるのはまずいな。また会おう。ソフィア。必ず迎えに来る」


 え?迎えにくるってどういうこと?


 私が聞くよりもはやく、男の人達は魔方陣を開くとその中に入って消えてしまう。


 ……なんだったんだろう。一体。


 キュイを見ると、キュイは「キュイー!」って笑ってくれた。


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