第13話 他視点


「テオ」

 


 招かれたリザイア教の神殿で散策中、聖獣のキュイが連れて来た全身包帯姿の不思議な少女を見送ったあと、ルヴァイスは部下を呼んだ。


「はっ」


 茂みに隠れていた竜王国宮廷魔術師テオはルヴァイスの後ろに現れる。


「あの包帯の子を調べてくれ」


「かしこまりました。……ですがあの子が何か?」


 確かに全身に包帯を巻いているという不思議な子であるが、そもそも竜神官達への牽制のためリザイア家から話を聞きくふりのためだけにこの神殿に訪れた。

 魔獣討伐は引き受ける気もない。

 今とて、竜神官達のあてつけにリザイア家の神殿に滞在しているにすぎない。

 リザイア家とはこれ以後あまり関わる事もないのにわざわざ調べるほどのものだろうかとテオが問う。


「……あの子から地上から去ったはずのエルフの力が感じられた」


 そう言って、少女が消えた木々に竜王ルヴァイスは視線を移すのだった。




◆◆◆ 


「あれが竜王ルヴァイス・デル・ランバード」


 聖都のリザイア教の神殿に訪れたルヴァイスの姿にデイジアは感嘆の声をあげた。

 ルヴァイスたちは、神殿の神官に案内をされ、神殿の様子を見て回っている。

 その様子をデイジアはこっそり見にきたのだ。

 そこにいたのはおとぎ話にでてきてもおかしくないほどのすらりとした長身で長髪の黒髪の美しい男性。

 アルベルトも美形ではあるが所詮人間の中で美形であるにすぎない。

 容姿のととのった竜人達に比べるとどうしてもかすんでしまう。


「そうよ、あの方がルヴァイス様。

 あの方とあなたが結ばれればよりリザイア家は繁栄するでしょう」


 隣にいた母のグラシアがデイジアの肩に手を置いた。


 デイジアとルヴァイスがもし結ばれる事ができたななら、本来なら不仲な竜人と人間とを橋渡しした聖女として永遠に歴史で語り継がれるだろう。

 美しい金髪のデイジアなら竜王国にの伝承にある【金色の聖女】とほめたたえられるかもしれない。

 そして長寿の竜王の血筋をとりこめば聖女の力はさらにまし、リザイア家に繁栄をもたらすだろう。


 それこそ神に選ばれた聖女デイジアに相応しい。


 デイジアは目を輝かせた。


「たかが人間の国の皇帝候補のアルベルトなんていらない。

 必ず竜人の王ルヴァイスの妃になってみせるっ!!」


 バルコニーからリザイア神殿を視察している竜王の姿を見つめてデイジアは心に誓うのだった。



◆◆◆


「で、どうだった」


 リザイア神殿に用意された豪華な客室で、ルヴァイスはワイングラスを持ちながら部下のテオに問う。


「はい。あの子の名前はソフィア。

 リザイア家、グレシアが妾との間に儲けた二女で間違いありません」


 テオは竜王国の密偵がもってきた資料を読み上げた。


「そのような子がなぜあのような姿であのような場所に?」


 リザイア家の女児ならば、本来なら聖女と祀られる存在のはず。

 それなのにソフィアの着ていた衣服はみすぼらしく、包帯もすす汚れていた。

 とてもではないがリザイア家の血筋への扱いとは思えない。


「それがあの子はグラシアの妹、先代聖女カチュアに似ていることから虐待されているらしいです。表向きはあの傷はあの子の不注意で火傷をしたことになっていますが、実際は火の中に入れられ、大やけどを負ったとのこと。

 こちらについては、少々気になる情報がありますのでもう少し調査の時間をいただけると」


 そう言ってテオが眉をひそめた。


「わかった。それは構わぬが、我が子を火の中にとは随分酷いことをするものだな」


「グラシアが妹である先代聖女カチュアを憎んでいたのは確かです。

 姉より先に聖女となったことを恨んでいたのは有名でした。

 グラシアがカチュアを毒殺したのではないかと噂がたつほど姉妹仲が悪かったと」


 テオが書類をルヴァイスに渡しながら言う。


「……なるほど」


「それと、彼女の住む離れで調査しましたが、ルヴァイス様の言うお通りでした。

 彼女は既にこの地上から去ったといわれる【古代の子】エルフの力を使っています。

 これを見てください」


「これは」


「彼女の住む離れの小屋の近くに、魔法で隠された畑がありました。

 人間には森が広がっているようにしか見えぬよう偽装されています。

 竜人でもかなりの魔力の高いものでなければ気づかぬほど上手く魔法で隠されていました。その畑から実をひとつもってきました」


 そう言ってテオはルヴァイスに実をわたす。


「見た事のないない実だ。かすかにエルフの力が感じられる」


「はい、その通りです。これはおそらくあの子が作りだした新種でしょう。

 種と種を組み合わせて、別の植物を作り出しています。

 これはその作物の一つです」


「そんな事が可能なのか?」


 種と種を組み合わせてほかの種を作りだすなど、人間より多能なはずの竜人でもそのような力は持ち合わせていない。


「古代の文献にエルフの王族は【錬成】という二つ以上の物質を分解し、お互いの性質を合成して再構築する力があったと記述がありました」


「……つまり、あの子はエルフの王族の血筋ということか?」


「おそらくは」


 テオが頷いたその時。


 カタン。


 物音が聞こえ、二人が剣を構える。

 そこに居たのは小さなノートを大事そうにもってきた。キュイだった。

 いつの間にかルヴァイスとテオから離れ勝手に別行動をしていた子竜がノートを加え部屋の中に入ってきたのだ。


「これは?」


 ルヴァイスがノートを受け取るとキュイが嬉しそうに「キュイー」とルヴァイスの肩に飛び乗った。


「見ろという事か?」


 ルヴァイスが聞くと、キュイが「キュイ!」と頷いた。


 ルヴァイスは受け取り目を通し、そのまま動きを止める。


「ルヴァイス様?」


 テオが動きを止めたのを不審に思い、同じくページに視線を落した。

 そこに書いてあった文字は


『目標

 聖気のいらない作物をつくる事。聖女の力がなくても立派に実る作物をつくって聖女としての役目をはたす事!』


 と、元気のいい子供の字で書いてあったのだ。


「なかなかどうして」


 普通ならあのような境遇にした神殿や聖女職を恨みそうなものを、あのような不遇な環境でも聖女としての役目を果たそうとしていることにルヴァイスは興味を覚えた。


「面白い。気が変わった。魔獣討伐引き受けてやろうではないか」


 そういって嬉しそうに笑うのだった。

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