第15話 他視点
「グラシア様、竜王ルヴァイスが、魔獣退治を条件次第では引き受けると」
神官達が竜王との会議を終え、息を切らせて神官の一人が、聖なる間で会議結果を待っていたグラシアとデイジアに報告した。
すでに竜王が視察とリザイア家の神殿に滞在してから7日目。
やっと竜王ルヴァイスが会議らしい会議に応じてくれたのである。
「本当ですか!?」
歓喜したデイジアが身を乗り出す。
「はい。ただし、魔獣を倒したあかつきにはリザイア家の女性を一人ルヴァイス竜王陛下の嫁に差し出すようにと」
「計算通りだわ」
神官の報告にグラシアが笑みを浮かべる。
ルヴァイスは20年前に戦った魔獣の呪いで聖気が必要である。
竜神官達に嫌がらせをされるより、リザイア家の女性を娶ることに決めたのだろう。
竜王が必要なのはリザイア家の女児がもつ【聖気】
デイジアたちが必要なのは、竜と交わり高い魔力と強靭な肉体、そして年を取りにくいその長寿の竜人の血。
リザイア家に竜人の血が入れば、より一層、リザイア家の威光は増すだろう。
「お母さま、今日ルヴァイス様に神殿ですれ違いざまお話していただきました。
わたくしのことを美しいと……もしかしたら、わたくしの事を気に入って会議に応じてくれたのかしら」
「そうね、貴方の美貌にひかれたのだわ」
そういって頬を染めるデイジアをグラシアが抱きしめた。
この子こそリザイア家の聖女にふさわしい選ばれた子。
人間領の聖女はまた別のリザイア家の女児を数人代役にたてればいい。
娘のデイジアが歴史に名を刻む。
貴方より私の方が上よカチュア。
◆◆◆
「聖女デイジアが婚約を解消してきた!?」
帝国の王宮の一室でアルベルトが悲鳴に近い声をあげた。
婚約したはずのデイジアが一方的に婚約を解消してきたのだ。
そして街中では竜王と聖女デイジアが婚約するとうわさでもちきりなのである。
くそっ!!
アルベルトは手近にあった燭台を投げつけた。
デイジアがソフィアに対抗心があることを利用して、ソフィアに近づき、うまくデイジアの婚約者までのぼりつめた。そして身分の低い母から生まれたにもかかわらず王位継承権第一位にまでなった。だが聖女デイジアの庇護がなくなってしまえば、その地位すら怪しくなる。
こうなったら、もう一度妹のソフィアに取り入るしかない。
いくら虐げられていて【聖気】をもたないとはいえ、聖女、リザイア家の血筋だ。
妻に迎え入れれば、王族連中とてそう無碍にはできないだろう。
だがアルベルトはデイジアにとってよほど邪魔者らしい。
神殿に入るのを制限されてしまっている。
ソフィアに接触するとしたら竜王が魔獣退治を終えて開かれる晩餐会くらいなのだ。
(くそっ、こんな事ならデイジアとともにソフィアを虐めたりしなかったのに)
ギリッとアルベルトは唇をかみしめた。
◆◆◆
竜王に魔獣退治を依頼して2ヶ月後。
竜王ルヴァイスは約束通り魔獣を退治してきた。
人間の帝国や聖王国などが総力をあげても倒せなかった魔獣を竜王は簡単に討伐してきたのである。
そして魔獣の死骸を持ち帰り、聖都に凱旋してきたのだ。
いくつもの街を廃墟にした魔獣を倒したことによりリザイア教の首都聖都は活気にみちあふれていた。
誰もが竜人達の凱旋を歓迎し、聖王都では聖女デイジアを竜王ルヴァイスが妻に迎え入れるという噂でもちきりなのだ。
強大な魔力と圧倒的戦力を保持する竜人の王と、世界に【聖気】の恵みをもたらす聖家リザイア家の娘との結婚。
これが成立したならば、リザイア家に長寿で強靭な肉体と強大な魔力をもつ竜人の血が入ることになる。
聖女がより力を得ることはすなわち人間の繁栄に直結すると、みな歓喜した。
そして今日神殿でルヴァイスを迎え入れ、ルヴァイスの手によって妻として嫁ぐリザイア家の血筋の娘が選ばれる。
魔獣を倒す前に『女神アルテナの誓』としてルヴァイスとグラシアによってそう契約されたからだ。
この誓は魔法の拘束がある誓で破ることは許されない。
この誓を破れば、竜人達はたとえ自らの王国が滅んでも、聖王国の人間達を死に追いやるだろう。
竜人達にとって女神アルテナの元にたてた誓はそれだけ重要なのだ。
それが故、竜人側も聖女リザイア家も決して破る事はない。
「どうかしら、お母様」
綺麗に着飾ったデイジアがグラシアにドレス姿を披露した。
「美しいわ、デイジア。
ルヴァイスが必要としているのは彼の呪いを中和できる【聖気】を操れる聖女。
【聖気】の強い貴方ならきっと選ばれる。
ルヴァイスと結んだ契約では子をなしたら最初の子はリザイア家に還す事になっています。
あなたが子をなすまでは、わたくしが聖女代行を収めるから心配しないで。
それよりも竜人の血をリザイア家に取り入れる事ができればリザイア家はさらに繁栄するわ。
あなたは歴代聖女の中でもさらに歴史に名が強く刻まれることでしょう」
「頑張ります、お母さま。
それよりも、神殿でソフィアにすれ違いましたけど、まさかあの子も出席させるつもりですか?」
と、デイジアは口を尖らせた。
魔獣の脅威から神殿も避難する避難しないであわただしくなり、ソフィアの存在自体をすっかり忘れていた。
「仕方ないでしょう、そういう契約ですから。
リザイア家の血筋の未婚の女子は全て候補にあげること。
まぁあの包帯まみれの子を選ぶことはないから安心しなさい」
「そうですわね。ああ、楽しみだわ」
「あの聖女様……」
わくわくする様子のデイジアに神官がおずおずと声をかけた。
「どうしたの?」
「アルベルト様が一度だけでもいいから会いたいとお手紙が」
そう言って手紙を差し出す神官にデイジアは意地の悪い笑みをうかべる。
(今更人間の帝国の皇子なんて興味ないわ。所詮配偶者なんてわたくしにとってはアクセサリーですもの)
「もうあれは用なしよ。適当にあしらってちょうだい」
デイジアはそう言うとアルベルトからきた皇室の印の刻まれた封筒を破り捨てるのだった。
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