第5話 【錬成】の魔法


 レイゼルさんとひっそりと離れで暮らしていた時間はとても幸せだった。


 レイゼルさんが献身的に私を見てくれて、レイゼルさんの調合した薬を塗ってくれたり、魔法をかけてくれたおかげで、だいぶ外見も治って包帯をとれば顔は火傷の後が残らない程回復したの。

 まだ体の火傷はちょっと残っているけれど。


 普段は治ったのがばれないように、火傷が酷くただれたように見える幻術をかけてもらって、よく離れのお庭を車いすでレイゼルさんとお散歩をしていた。


 お母様もデイジアも私に興味をなくしたみたいで、あれ以来会うこともない。


 離れは本当に神殿で見捨てられた場所。

 私にとってはレイゼルさんとの二人だけの楽園。


 神殿の人に、醜い子、デイジア様と比べてソフィア様は……って悪口を言われる事もない。

 私の事を大事にしてくれる人がいる。


 熱を出しても、嫌そうに看病するのじゃなくて、ちゃんと心配してくれる。


 ご飯も一人じゃなくて、二人なの。

 ちゃんと話しかけてくれる人がいて、私の話を聞いてくれる人がいる。


 レイゼルさんはとっても優しくて、いろいろな知識を教えてくれた。

 私がレイゼルさんのお手伝いをすれば「ありがとう」って言ってくれるの。

 神殿の人たちは私が手伝うととても嫌そうな顔をしたのに。


 それが嬉しくて毎日お手伝いをした。

 まだ火は見るだけで怖いから火を使うお仕事はできないけれど、お水汲みとかは手伝える。


 神殿の人たちがくれる食べ物は本当に必要最低限の物だったからレイゼルさんと畑をつくって作物を育てたり、お花を育てたりして、今まで知らなかった事、魔法とかいっぱい学んだ。


『【錬成】の魔法?』


 魔法を唱えてケフラの実とフデルの実を組み合わせていたレイゼルさんに尋ねたらかえってきた答えがそれだった。

 レイゼルさんは凄いの、木の実だけじゃなくて、ポーションとポーションを組み合わせて魔法で新種のポーションを作っちゃう。

 そして私の火傷によくなるようにって塗ってくれるんだ。

 神殿で魔法を習っていた時だってそんな事出来るなんて教わらなかった。

 だからレイゼルさんにいろいろ教わるのは楽しいんだ。


「はい。例えばこのケフラの実はとても甘い大きな実がなります。

 ですがその分【聖気】が必要です。

 こちらのフデルの実は小さくとても苦いですが、少ない【聖気】で大量に育ちます」


 そう言って私にケフラの実とフデルの実を渡してくれる。


「それを魔法で組み合わせたものがこれです」


 と、今度はケフラの実に似たレイゼルさんの作った実を渡してくれた。

 形はケフラに似ているけれど、実の色はフデルの実みたい。


「これは芽の段階でケフラとフデルを【錬成】で組み合わせ育てたものです。

 ケフラの実の美味しさを残しつつ、フデルの実のようにたくさん実ように、それぞれのもつ特性を魔法で組み合わせました。食べてみてください」


 そう言われて私は頷いて、食べてみるととても甘くて美味しい。

 すごいよ、レイゼルさんって、レイゼルさんの顔を見ると、にっこり笑ってくれた。


 きっと神殿でこの魔法が使えるってばれたら、レイゼルさんは薬や作物だけを作らされる生活になっちゃうくらい凄い事だって私にもわかる。

 神殿のお勉強では聖女だってこんなことできないもの。


 だからこの魔法のやり方はほかの人は内緒ですよって私に教えてくれた。


 私はうんって頷いて、やり方を教えてもらうんだ。


 毎日がとても楽しい。でもまだわからない事がある。

 あの館で焼かれた後、何でレイゼルさんと私は二人で暮らしているのか。

 レイゼルさんにずっと聞けないでいる。


 きっと、聞くのが怖いのだと思う。


 私の予想が正しければ、たぶんレイゼルさんは私のお父さま。

 お母さまのお世話係の一人ということはたぶんそういう事なんだと思う。

 リザイア家の女子は結婚しなくても子供はもたなくてはいけないの。

 血を絶やさないために、リザイア家の女性は必ず一人は女の子を生まなければならない。

 それはリザイア家の血筋のお母さまの例外じゃなかったはず。

 そして結婚を嫌がったお母さまが子供をもつのに選んだのが、複数の世話係だと、メイドの人たちが話していたのを聞いた事があった。


 私もデイジアも自分のお父さまが誰かは知らない。

 お世話係が子をなしても父親と名乗る事を許されないはずだから。


 これはお母さまの嫌がらせ。

 私には火傷による一生の痛みと苦しみを。

 そしてお父さまには火傷の酷い娘の世話をさせ、罪悪感にさいなまれて暮らすように仕組んだ事。

 私にもお父さまにも嫌がらせをするのがすごくお母さまらしいと思う。


 でも、まだこれは私の予想。

 怖くて聞くことができない。

 だってこの関係を崩したくないから、ずっとレイゼルさんと一緒に居たい。


 お父さまかと聞いてしまったなら、なぜかわからないけれどレイゼルさんが遠くに行ってしまう気がしたの。


 だから私は気づかないふりをする。


 本当のお父さまだったとしても、そうじゃなくてもレイゼルさんはとっても大事な人だから。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る