71.ピザ

 新居の据え付けの魔道コンロはよく見たら下にオーブンがあることを発見した。


「オーブン、あるじゃん!」

「そうねぇ」


 メルンさんもおっとり答える。


 これは重要だ。

 パンも焼ける。


 よく白パンを作ってちやほやされるという話を見聞きするが、この世界には最初から高級パンは白パンだ。


 白パンってなんか白いパンツみたいだよね。

 じゃあ黒パンって黒いパンツかって、そりゃそうだ。


 前にも話題になったがこの世界では女の子は白い紐パンだ。

 男子はトランクス。


 それはともかく。


 パンもクロワッサンもクッキーもそれからピザも作れるじゃないですか。

 ちなみに喫茶店のクッキーはフライパンで焼いている。

 ピザ食べたい。


 ピッツァ、食べたい。


 あ、チーズがない。


 そそくさと冒険者ギルドへ。

 なぜか野菜以外ほとんど揃う冒険者ギルドで聞いてみる。


「ありますよ、ミーニャ様。チーズ。ただギルドで扱っているのは業務用なのでホール売りでひとつで金貨一枚です」


 ホールってあの巨大なチーズな。


 現物を見せてもらったら、ああでかいわ。


「金貨一枚か。しょうがない買います」

「買うんですか。すごいですね。では丁度、いただきます」


 どうでもいい話といえば、値段が丁度だったときに「丁度からお預かりします」という返答に違和感があるって話あったと思う。

 預かるという表現はお釣りを返すからそう言うんであって、丁度だとおかしい、という主張だ。

 俺? 正直どっちでもいいや。気持ちがこもっていて丁寧な返事であれば。


 日本と言語は違い大陸共通語だけどやってることは同じなので、同じ問題にも直面する。


「あ、ごめん。もうひとついい? お酢が欲しい」

「あ、はい。お酢ですね。ございますよ」


 お酢は銀貨だった。

 物の中ではちょっと高い。


 お酒に準ずる扱いを受けているらしい。


 お酢ようはビネガーだけど結構使うんだよね。


 酢の物はそうだけど、まずマヨネーズでしょ、それからしっかりしたケチャップ。


 以前、自家製ケチャップ、トマトソースもどきと表現したと思う。

 そうなのだ。ケチャップにはお酢も入れないと味がなんか違うんだ。

 それからこの前かった砂糖も少し入れると味が良くなる。

 今度のものは砂糖とコショウも使ってある。


「じゃじゃーん。ということで改良ケチャップです」

「「「おおぉ」」」


「味見! 味見!」


 しつこく要求するので、俺が指先でとったケチャップをミーニャに差し出す。


 ぱくっ。


 俺の人差し指をしゃぶるミーニャ。


 ちゅぱちゅぱ。


 ぺろぺろぺろ。


 んっ、なんか指しゃぶりしてるの見てると何かに目覚めそう。


「わわ、私も欲しい、みゃ」


 シエルまでぴょんぴょん跳ねて主張してくる。


「お代わり! もうちょっと!」


 というので右手と左手人差し指にケチャップをつけてダブル指しゃぶりにしてみた。


 なんだか牧場主になって子牛を飼っているような気分になってきた。

 俺の左右の指を少女たちがちゅぱちゅぱしゃぶっている。

 やはりなんかイケない気分になってくる。


 指をちょっと上から垂らす感じにするとなお、それっぽい。

 上を向いて必死にしゃぶっている。


 っておい。

 なぜかもうケチャップを舐め切ったのにまだぺろぺろ、ぺろぺろ、ちゅぱちゅぱしている。


「俺の指そんなにおいしい?」

「うんっ、なんか癖になりそう」

「なんか、やめられなくてみゃう」

「お、おう」


 二人は自分の行動を思い出したのか顔を赤くした。

 なんだかかわいい。


 ラニア? ラニアちゃんならあっちで先に顔赤くして目を背けてるよ。


 手を洗って仕切り直ししよう。


 ケチャップができたので、今度は生地だ。


 小麦粉と水を合わせて団子にして、それを広げていく。

 俺はプロではないので空中浮遊みたいなことはしない。


 地道に麺棒もどきの拾ってきた枝で伸ばしていく。


「わ、わ、すごい、おおきくなった!」


 なんか誤解されるような言い方しないでくれ。

 ピザ生地がどんどん丸く大きくなっていった。


 30センチくらいになったので、まずはトマトケチャップを薄く塗る。

 それに豚肉という名のイノシシ肉の薄切り、トマト、ホレン草、タンポポ草、バジルを乗せる。野菜は採取品だ。

 そして高級チーズをもったいないけど泣く泣く切って、スライスして乗せる。


「ほい、これでピザの準備完了」

「すごい。美味しそう」

「美味しそうですみゃう」


「まだ、このまま食べるんじゃないぞ」

「そうなの?」

「うん」


「オーブンで焼くんだ」


 あ、予熱とか忘れていた。

 魔道オーブンなのであまり必要ないけど数分くらいは予熱しよう。


 スイッチを入れて少し待つ。


 よし、予熱完了。

 ピザをオーブンに入れる。

 鉄製のトレイに乗せて中へ。


 このオーブンはガラス張りではないので、中が見えない。

 左右に火が並んでいて、奥に排気口がある。


 後は時間との勝負だ。


 どれくらいで焼けるだろうか。


 数分経過、どうかな。


 一度取り出してみる。


「もうちょっとかな」


 まだ焦げてはいない。

 チーズは半分溶けたくらい。


 さらに追加で数分。


「よーしよしよし」

「わわ、いい匂い、美味しそうっ」


 うん。チーズが溶け、周りも焦げる直前くらいになっていて非常にいい匂いがする。


「よし、できた」


 今日はミーニャ、ラニア、シエルみんないる。


「「「ラファリエール様に感謝して、いただきます」」」


「あちっ、あちち」

「うまうま、おいち」

「美味しい、です」

「うまいみゃう」


 熱いピザをはふはふしながら食べた。

 うん、これだよこれ。

 思った以上にうまくいって、俺もほくほくだ。


 うまいピザが食べられてうれしい。


 店で出したいのだけど、トマトは取ってきた採取品だ。

 出すとなると市販のトマトにならざるを得ないが、そうするとチーズの値段と合わせて高級品になってしまう。

 うちの低価格ティーショップとのコンセプト違いが痛い。


 今回は保留となった。


 とりあえず家ではたまに食べよう。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る