31.川エビ漁

 火曜日昼過ぎ。


 冒険者ギルドから戻ってきて家にいる。


「なにしようか、考えたところ、川で漁をします」

「ほーん」

「漁といっても、簡単な仕掛けを用意するだけだよ」


 日本ではザリガニが取れる河川が多いけど、異世界ではエビも多く生息している。

 と思うよたぶん。


 街では川エビも数は少ないが、食べられている。


 家にあるつたで編んだかごを2つ拝借する。


「籠を使うの?」

「うん」


 ラニアとミーニャに見られつつ、それを持って道の南側、川というか支流の沢みたいになっている場所に向かう。


 目の前には沢がある。

 覗き込むと、小魚なのか何かが動いてる気配は感じる。


 でかいタモ網とかあれば、掬うだけで魚やカニ、エビが取れそうだけど、そんな便利なものはない。


 まずは重り。

 石を拾って籠の底に置く。


 餌はウサギの肉の切れ端。

 まだ残っているので、ちょっと失敬する。

 エビで鯛を釣るというけど、昔の日本の海岸か干潟付近ではエビは大量に取れたらしい。

 籠の中の石の横に肉をそっと置く。


 途中で拾ってきた枝を籠に投入する。


 籠には取っ手があるので、蔦で縛って棒で吊り下げる。


「これを沈めます」


 同じものをもう一か所設置する。


 コンクリートもなく、自然なままなので、環境問題はそれほど深刻ではない。

 トイレとかの汚染もスライムトイレの普及で大丈夫。

 ビバ異世界。自然が豊かなのは、素晴らしいところだ。


「夕方まで放置だね」

「ええぇ」


 ミーニャが抗議するけど、しょうがないじゃないか。

 釣り針とかではないので、30分ぐらいでもいいかもしれないけど。


「じゃあ時間を分けて2回やってみよう」

「うんっ」


 しばらくその辺で仕掛けが見えるところで、木のスプーン作りを進める。


 この辺は長閑のどかだ。

 この見通しのいい平原部分はゴブリンなどもまず出てこない。


「そうだ。ミーニャ、ラニア」

「なんですか?」

つたを集めてきてほしい。今すぐ必要ってわけじゃないから、ゆっくりでいいよ。なるべくたくさん」

「わかりましたー」


 ミーニャとラニアが周りに散る。

 この平原地帯には、くずのような蔦がたくさん生えている。

 葉っぱの識別とかするまでもなく、長く伸びてうねっている茎が特徴だった。


 豆、朝顔、ウリ科に多いつるは巻き付くタイプ。

 葛、ブドウなどの蔦は「伝う」の意味で、地面や壁に這うタイプ。

 よく混同されたりするけど、一応違う。


 さてスプーンの量産はぼちぼちだ。

 この世界にはもちろんフォークもあるけれど、手掴みの人もいるので、スプーンよりは必要性が低い。

 スプーンはスープや豆、お粥、ミールなどを食べるのに必須だ。


 日本男児としては、お箸がいいんだけど、自粛している。


「取ってきたよぉ」

「いっぱい集めました」


 二人のバッグはパンパンだった。

 最近はよく採取をするので、いつもバッグを背負っている。


「二人とも、でかした」

「やったぁ」

「えへへ、うれしいです」


 ミーニャが上目遣いで見上げてくる。

 そうだったな。


「はい~なでなで~」

「はわわぁ」


 頭を撫でられるのが大好きなのだ。犬みたいに。

 サラサラの金髪はすごいな、これ。


「ラニアは?」

「私は、いいです」


 ちょっと恥ずかしそうに返事した。

 ラニアのほうは精神的にちょっとお姉さんなので、羨ましそうにしつつ、撫でてほしいとまでは言ってこない。

 微妙な乙女のお年頃なのね。


「さて、そろそろ仕掛け見てみるか」

「「はい」」


 川エビの籠に接近する。


 籠には蔦で棒がついているので、棒を持ち一気に引き上げて陸上へ置く。


「わわっわ」


 ぴちぴち。


 エビが跳ねているのが、すでに見える。

 逃げられる前に回収だ。


 袋に入れていく。


 かなりの数だ。十匹くらいか。


「やりました」

「やったにゃあ」

「やったな」


 エビだよエビ。


 体長は8センチぐらい。

 透き通った体に黒いスジが入っている。


 川が綺麗だったので、泥臭くもない。


【カワエビ 生物 食用可】


 もうこのまま、生でツルッと醤油で食べてみたい。

 しかし川の魚、エビ、カニは寄生虫の可能性がそこそこある。

 異世界では魔法以外の医療、科学が発達していないため、寄生虫がいるかどうか、話題になったことがない。

 だから寄生虫はいないかもしれない。

 でもやっぱりやめたほうが無難だろう。


 ぐっと我慢して、持ち帰る。


 アイテムボックスにしまう。

 あ、生きてるけど、収納できた。その辺は謎だ。調べていない。


「なあ、エビを生きたまま収納できたんだけど」

「え、あうん」

「ミーニャも収納されてみたいか? 出したときまで生きてるかはわかんないけど」

「ひゃああ、絶対に、やだあ。怖い」

「まあ、そうだよな」


 収納空間は謎であるので、結構怖い。

 自分で入るわけにはいかないので、誰かを犠牲にするしかないが、保留。


「もうひとつの籠を見に行こう」

「「はい」」


 もうひとつも十匹前後のエビちゃんが入っていた。


 餌のウサギのお肉の切れ端を補充。

 また仕掛けを入れなおして、沈めておく。


 俺はまた内職だ。スプーン作りは簡単なようで奥が深い。

 形のバランスを突き詰めると、どれくらいが美しいか、使いやすいか、とか考えることはある。


 2回目。


 エビが約二十匹。ほぼ同量、採取できた。

 それから。


「わわ、カニ、カニだにゃ」


 モクズガニに似ているけど、毛がない。

 茶色い10センチくらいの四角いカニが取れた。


【コイシガニ 生物 食用可】


 エビやカニという生き物がいることは知っているけど、本格的に自分たちの食事の確保の一部にしようとまで考える人は少ない。


 食料の確保のために仕事をしているんだから、逆に自分で食糧確保すれば、あまり働かなくていい、と考える人はあまりいないようだ。


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