4.採取、香味野草

 木曜日。転生、三日目。

 俺にくっついて寝ぼけているミーニャを見ながら目を覚ます。


 今日も草原で野草を採ろうと思う。

 いろいろな種類を見出して、食生活を豊かにするのだ。


 ゴーン、ゴーン、ゴーン、朝六時、三の刻が来た。


「あ、おはよう、エド、むにゃむにゃ」

「おはよう、ミーニャ」


 朝から笑顔がかわいい。癒される。

 前世では高校生で普通だったけど、極めて目立たない存在で、友達と呼べる人は一人もいなかった。

 親も朝早くて夜遅く、一緒に食事をとることも稀だった。


 そして俺んちは田舎で、小さい頃は休耕田とか耕作放棄地とか空き地がたくさんあり、草原で遊んだ。

 それも幼馴染の女の子とだ。それでも中学に上がる前には疎遠だった。

 今では甘酸っぱい思い出だけど、今はミーニャもいる。


「ミーニャ、今日も草原に行こっか?」

「うん。エドが行きたいっていうなら、マドルドでもラトアニアでも、どこへでもついてくよ」


 それは怖い。

 マドルドは隣の国の名前だ。

 ラトアニアに至っては、魔族の治める暗黒大陸の名前だった。

 ちなみに、この国はメルリア王国という名前だったと思う。

 公用語は大陸共通語と呼ばれている、特に言語そのものの名前はない。しいて言えば「人間語」だろう。

 言語はわかるけど、文字は知らない。

 数字くらいは読める。人間が十本指だからか十進数だったから転生知識で、計算は余裕だ。


 俺は冒険しに行きたいわけではなく、うまいもの食べて、平和に生活がしたい。

 それともミーニャには遠くへ出かけたい願望でもあるのか。


「何かいい匂いとか特徴がある草を見つけたら、教えてくれ」

「わかったっ!」


 ニコッと笑顔を向けてくるミーニャ。天使ちゃんは相変わらずかわいい。


 俺もそれらしい草を探す。


 まず目を付けたのは、深緑で幅広の15センチはある葉っぱが、根元から放射状に延びる草だ。


『鑑定』


【ホレン草 植物 食用可】


 これはホウレンソウみたいな草、ホレンソウ。ただし野生種だ。

 一口生でかじってみる。ちょっとだけ青臭いけれど、苦かったりめちゃくちゃ青臭いほどではない。

 これなら食べられそう。


 とりあえず、これを人数分は確保しよう。


「ミーニャ、この草わかる?」

「うん、見分けはつくよ」

「じゃあ、これも少し確保しておいて」

「わかったっ!」


 次に見つけたのは、単子葉類の草だ。

 細い筒状になった葉がまっすぐ長く伸びている。

 それがまとまって生えて株を作っていた。


『鑑定』


【ノビル 植物 食用可】


 ノビルだ。

 河川敷とか空き地によく生えている、ネギの仲間だと思う。


 こいつは焼いて味噌をつけて食べるとうまい。

 香味野菜の一種だと思う。


 前世で幼馴染とおままごとしたときも、よく採って遊んだ。


「いっしっし」


 太い葉を選んで、慎重に木の小枝で周りを掘り、根っこごと取る。

 葉の根元には1、2センチの球根がある。

 葉も食べられるが、この球根も食べると美味しい。


 ちなみに細い葉は球根も比例して小さいので、そのままにしておく。

 なんでもかんでもただ採ればいいというものではない。


 ネギ臭い。だがそれがいい。

 今までの豆だけの食事と比べれば、好ましい刺激臭だ。


 気分は上々だ。


 どうでもいいかもしれないが、ネギ類はヒガンバナ科らしい。

 ネギ、タマネギも犬や猫には猛毒なので、それらしいというか。

 もしかしたら、この独特な臭いは毒かもしれない、と思うのは自然だと思う。



 さて、次に見つけたのは、じゃじゃーん。

 やはり単子葉類、ネギより葉は厚め、色は濃い。

 チューリップまではいかないけど、ノビルが細いのと比べると太い。


『鑑定』


【ノニンニク 植物 食用可】


 ニンニクの野生種だった。

 これは素晴らしい。

 塩味だけだったのが、トウガラシがあればペペロンチーノとかできる。

 豚肉のニンニク炒めとかも美味しい。


 ニンニクは香味野菜というよりも香辛料に入るのかな。

 これがあるだけでも料理の強い味方だ。


「やったー、ほらよっと、ほらさっさ」


 変な踊りをして、ニンニクの発見を大よろこびする。

 それくらいうれしい。


 欠点はノビルもノニンニクも、タマネギも臭いということだ。

 慣れていないと、きついかもしれない。


「ほら、ミーニャ、こっちがノビル、こっちがニンニク」

「なんかくちゃい」

「まあね、でも美味しいんだよ」

「ふーん。私、こんなの食べたことないよ」

「まあ、騙されたと思って、味は保証する」

「そこまでいうなら……」




 次は何があるかな。

 狙って探すのは難しい。

 目についたものを、知識の中から、探り出す。


 あ、これは。見たことがある葉っぱだ。

 異世界では同じとは限らないが、今のところ、植生は非常に似ている。


『鑑定』


【スペアミント 植物 食用可】


 日本語でいえば薄荷はっかの仲間だ。

 スペアミント、ペパーミント、アップルミントとかあるけれど、違いはよくわからない。

 とにかくこれは、スペアミント風ということだろう。


 紫蘇しその葉にも似ている。

 一本の茎があり、そこから双方向に葉っぱが生える。

 丸いギザギザした葉っぱで、葉脈が目立ってデコボコしているのが特徴だろうか。


 スラム街では、お茶を飲む習慣がない。

 井戸が少なく、水を汲んでくるのが比較的面倒というのもある。

 家には大きめの水瓶みずがめがあって、そこに水を溜めて使っている。

 魔道コンロがない家なら、なおさらお湯を沸かすのも面倒だ。


 メルンさんが近所のおばさんとお茶会とかしたいなら、いいかもしれない。

 試しに採っていってみよう。


 ミーニャと俺でそれなりに採って歩いた。



 今日も結構探し回ったので、それなりに疲れた。

 早めに切り上げて戻ろう。

 俺は疲れてもいいが、ミーニャが心配だ。


 別にミーニャは体が弱いわけではないけど、俺より小さい。

 なんとなく弱そうな気がする。HPも少なかったし。

 その代わりなのかエルフの血がなせるのかMPは多かった。

 あと名前。ミーニャ名前長すぎ。エルフ族は謎い。

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