第32話 ほのぼの次のステージに向けて

 全員の偽物を倒し終えると、部屋の中央に宝箱が出現した。

 中を開けると、ゴールドや装備ではなく鍵が入っている。


「これが、あのお姫様の牢屋の鍵だね」


 のの花たちは鍵を持ってお姫様の下へ戻り、鍵を使って解放する。


「ありがとうございます!!」


 お姫様は檻から出て、のの花たちに頭を下げた。


「お約束通り、お礼をさせていただきます」


 のの花たちに渡されたのは、金色に光る指輪だ。

 お姫様に促され、それぞれ好きな指に指輪をはめる。


「それは《時遡の指輪》といいます。装備しておくと、3回に1回スキルのクールタイムをリセットします。割合ではないので注意してください」

「まじかよ、強いじゃんか」

「こんだけ大変だったんだもの。これくらいはないとね」


 割合ではないということは、3回に1回必ずクールタイムをリセットするということだ。

 連続することはないし、3回以上の間隔が空くこともない。


「本当にありがとうございました。どうぞ、あちらの転移門からお帰りください」


 お姫様が指差した転移門をくぐると、そこは地上だった。

 クエスト完了を知らせる音声が響く。


『クエスト《勇者たちの墓場・扉の向こう》が完了しました。』


「クリアです!!」


 のの花が万歳をする。

 みんなでハイタッチを交わして、高難易度クエストのクリアとレアアイテムの獲得を喜んだ。

 リュウが言う。


「そりゃ、クリアできない訳だ。相手が自分じゃあな」

「まあ、僕は負けると思ってなかったけどね」


 まだナルシモードのグレンが髪をかき上げる。


「ねえ、グレンさんはどうしたの?」

「ああ、それはかくかくしかじかで……」


 戸惑う花音たちに、アイリンがグレンの習性を説明した。

 何だそれと思いつつも、やっぱり「おとぎの国」は個性が強いなと感じるメンバーたち。


「取りあえず、ギルドホームに帰りましょうか!!頑張ったので、パーティーしましょう!!」


 のの花の一声で、全員ギルドホームに向け歩き始めた。




「隠しクエストクリアを祝して乾杯!!」

「「「「「乾杯!!」」」」」


 例によってのの花が料理を作り、祝勝会&ギルドホーム建設お疲れ様会が始まった。


「それにしても、ユノ&グレンさんの戦いはすごかったですね~」


 乾杯のコップを置き、花音が言った。

 サクラの偽物を倒した後、のの花たちの戦いを見守っていたのだ。


「あれは、私たちが手出しできる次元じゃなかったですよ」

「ありがとう~。なんか照れるなぁ」

「ありがとう……ございます……」


 のの花の料理中に30分が経ったので、グレンは3点リーダー症候群ならぬ6点リーダー症候群状態に戻っている。


「イベント1位と2位の共闘とか、ガチでアツすぎるんだよなぁ。それに相手は自分たちのコピーだし、実質SSO頂上決戦だっただろ」


 リュウの言う通り、現在確認されている全モンスターと全プレイヤーを総合的に見た時、TOP2はのの花とグレンだ。

 どちらが上かは、非常に甲乙つけがたい。


「グレンさんの【曲芸演武】って、ユニークスキルですか?」

「そう……です……」


 のの花の質問に、グレンは食事の手を止めて答えた。


「【曲芸演武】は……複数のスキルが……セットになった……ものです。今回使った【空中散歩】【火喰い】の他にもいくつか……あとは【五流剣】も……ユニークスキルです……」

「ユニークスキルって、そんなにたくさん持てるものなの?」

「最速で……一定レベルに到達した……報酬とか……特殊な方法で……クエストを攻略した……報酬とか……ですね……」

「じゃあ、私の《初心者の皮を被った化け物》と同じですね!!」

「ユノさんの……装備も……かなり特殊ですもんね……」


 実際、《初心者の皮を被った化け物》は装備のユニークセットなので、ユニークスキルに近いものがある。


「いいな~。私も何か特殊なもの欲しいな~。アイリンちゃんもシロクマ呼べるし」


 花音がうらやましそうに足をぶらぶらさせた。

 のの花とグレンが異常枠、サクラも猛者でアイリンはシロという特異性を持つ。

 普通にプレイしている花音とリュウの方が、「おとぎの国」では少数派だ。


「ユカちゃんも、射撃の腕が上がってるじゃない」

「そうなんですけど……」


 サクラが慰めるが、花音は腕を組んで何やら考え始めた。

 しかし、いい案が思いつかない。

 グレンやサクラにはプレイ歴で勝てないし、のの花には運で勝てる気がしない。

 とはいえ、運任せより努力する方が現実的だ。

 そして努力の方が、花音の性格にもあっていた。


「周回……するか」

「ダンジョンの周回?」

「うん」

「手伝う?」


 のの花に手伝ってもらえば、周回は楽になる。

 ただそれでは意味がない。


「自分でやってみるよ。もっと強くなって、このギルドに貢献したいから」

「分かった。でも、無理はしないでね?」

「もちろん。適度にほのぼのしながらやるよ」


 花音がやる気を見せると、みんな自分も何かしようと思い始める。


「俺は、新しい武器を研究するかな」

「私はレベル上げよね」

「シロともっと仲良くなるっ!!」

「私も……もっとレベルを……上げます」

「私はスキルだけじゃなくてプレイヤースキルを上げないと!!」


 それぞれ、次のステージへ目標を新たにした。



 その頃。


「では、実装は2週間後にゃ」

「第二層、『和風』をテーマにした日本人好みのステージゲコ」

「楽しみだわん。建物やモンスターも、かなり作りこんだわん」


 運営も、第二層の実装に向けて準備を進めていた。

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