第29話 ほのぼの隠しクエストへ

 隠しクエストらしきものは、思いのほか早く見つかった。

 森の奥の方で手がかりを探していた時、のの花が木に登ってみると頂上が光っている木がが何本かあることに気が付いたのだ。

 それらをたどっていくと、複雑な迷路のようにジグザグしながら森のさらに奥へ続いていた。


 光っている木に印をつけて進んだ「おとぎの国」のメンバーは、深く濃い緑に囲まれた小さな小屋にたどり着いた。

 木製で、蔦がびっしりと張り付いている。

 マップ上にこんな小屋は表示されていないことから、隠しクエストに関係あるとみて間違いなさそうだ。


「じゃ、開けま~す」


 のの花が、みんなに声を掛けてから扉をそっと開く。

 特に音もなく、ドアはスッと開いた。

 頭だけ出して覗き込んでみるが、中に何かがいる気配はない。


「すぐに危険はなさそうです」


 そう言ってのの花が中に入ると、みんなも小屋へ入った。

 全体的に薄暗い。

 ぼろぼろの小屋には似合わない、重厚感のあるテーブルと椅子が無造作に置かれている。

 それ以外には、室内に何もない。


「また手掛かり探しか……」


 リュウがため息をついた。

 クエストを受けるまでに、ちょっとした宝探しクエストくらいの時間がかかっている。


「手掛りとはいっても、この部屋にはテーブルと椅子しかないじゃない」

「そうなると、何かを隠せるのはテーブルの下くらいですかね」


 そう言って、サクラと花音がリュウをじっと見つめる。


「な、何だよ」

「テーブル、持ち上げてみて?これ結構重そうだから」

「俺1人でか?」

「男でしょ?」

「いや、お前らの方が力あるじゃん……」

「誰がゴリラですって?」

「そこまでは言ってねえよ!!」


 いつもの夫婦漫才を繰り広げた末に、リュウは顔を真っ赤にしながらテーブルを持ち上げた。

 どうやら、本当にかなり重いらしい。


「どう……だっ……何かあるか……っ?」

「あったわ!!地下への階段がある!!」


 サクラが言うと、リュウは一旦テーブルを置いた。

 ゼェゼェと肩で息をしている。


「あったか……そりゃ……何より……」

「それじゃ、テーブルを壊して地下へ行きましょうか」


 長剣であっさりとテーブルを切断するサクラ。

 それを見て、リュウが何とも言えない顔をする。


「最初からそうすれば……」

「細かいことは気にしないの。さて、ユノちゃんどうする?」


 もちろん、ここまで来たら進むほかない。


「では、地下へ行きましょう!!」


 のの花が、先陣をきって階段を下りる。

 花音たちもその後から続いた。




 真っ暗な中、小さなランプを頼りに階段を降りること5分。

 最後の1段を降りたところで周りが明るくなり、クエスト開始を告げる声が響いた。


『クエスト《勇者たちの墓場・情報収集》が開始しました。』


 地下にあったのは、地下牢らしき建造物。

 いくつもの檻が並んでいるが、中にあるのは骸骨ばかりで人がいない。


「気味が悪い……」


 ホラー系が苦手なアイリンは、グレンの後ろにさっと隠れる。


「あ、あそこ」


 花音が奥の方の牢屋を指差した。

 その牢屋だけ、動く人影がある。


「何かあるかもね」

「ちょっと見てくる」


 のの花はいつ攻撃されてもいいように短剣を構えながら、奥の牢屋へ近づいていった。


「んんんん~!!!!んんんん~!!‼」


 もがき苦しむような声が聞こえる。

 のの花がのぞき込むと、そこに囚われていたのはかわいらしい服を着たお姫様だった。


「だ、大丈夫ですか⁉」


 のの花は慌てて檻を斬ろうとしたが、傷1つつかない。

 どうやら破壊不能なオブジェクトのようだ。


「んんんん~!!」


 のの花は取りあえず、お姫様の口に貼られていたテープをはがした。


「はぁ……はぁ……ありがとうございます……」


 お姫様はのの花にお礼を言うと、何か食料があるか尋ねた。

 ちょうどアイテムボックスにパンと牛乳があったので、それを渡す。

 手錠は破壊可能だったので斬ってあげると、お姫様は食事をとり始めた。


「なるほど……NPCね」


 いつの間にか後ろに立っていたサクラが言う。


「えぬぴーしー?」

「そう、Non Player Characterを略してNPC。実際のプレイヤーではない、まあモブキャラみたいなものかしら。村人Aみたいな感じ」

「なるほど~」


 そんな話をしていると、お姫様が食事を終えた。

 おもむろに咳払いすると、のの花に鍵を手渡す。


「それは、この檻の鍵ではありません。あそこの鍵です」


 お姫様の指さす方には、鎖と南京錠でガチガチに封じられた扉がある。


「あの奥に、私の檻の鍵があります。しかしそこには、恐ろしいモンスターもいます」


 お姫様は目を潤ませて、のの花たちに懇願する。

 何とも表情豊かなNPCだ。


「どうかモンスターを倒し、鍵を取り返してきてください。私を解放してくれたら、豪華なお礼をさせていただきます」


 どうやらこのクエストは、モンスターを倒してお姫様を解放すれば完了のようだ。

 扉の奥にいるモンスターが、リュウの言っていた「めちゃくちゃヤバい」やつなのだろう。


「任せてね。必ず取り返してくるから」


 のの花が言うと、お姫様が涙ながらに頷いた。

 そしてクエスト完了と開始が知らされる。


『クエスト《勇者たちの墓場・情報収集》が完了しました。続いて《勇者たちの墓場・扉の向こう》が開始しました。』


「あ、そうだ。モンスターってどんなのが出るの?」

「お願いします、勇者様」

「えっと、お姫様?」

「お願いします、勇者様」


 その様子を見て、サクラがのの花に教えた。


「ユノちゃん、NPCは会話できないわよ?」

「え!?そうなんですか⁉」

「そう。話す置物みたいなものだから」


 置物と言われて、のの花は信楽焼のタヌキを思い浮かべる。

 あれに話しかけていたと思うと、急に恥ずかしくなった。


「さあ、みんなのところに戻ってモンスターに挑もっか」

「そうですね」




 渡された鍵で南京錠を外して鎖を断ち斬ると、扉は勝手に開いた。

 みんなで慎重に進んでいると、突然アイリンが悲鳴を上げて部屋が明るくなる。


「どうしたの⁉」


 のの花が慌てて駆け寄ると、腿の辺りに矢が刺さっている。


「これは……初心者装備の矢……?」


 アイリンから抜いた矢を眺めるのの花。

 回復士のアイリンは、自分で自分を回復させた。

 矢の飛んできた方を見ると、初心者装備の弓矢使いがこちらを狙っている。

 いや、初心者の皮を被った運営殺しがこちらを狙っている。


「わ、私!?」

「おいおい、やべえぞ」

「これは……」


 みんな口々に驚きの声を上げる。

 全員が2人いる。

 気が付けば、「おとぎの国」は「おとぎの国」に囲まれていた。


「これが……モンスター?」

「そうみたい」


 花音の言葉に、サクラが頷いた。


「これから私たちは、ユノやグレンを含めた『おとぎの国』全員のコピーと戦わなきゃいけないみたいよ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る