第22話 ほのぼのギルメン勧誘

「まずいにゃ……海王ダコがやられたにゃ……」

「何⁉誰が倒したわん⁉」

「そんなの、ユノしかいないにゃ。『ポセイドンの三叉槍』が持っていかれたにゃ。しかも撒き餌なんか使いやがって、スキル【海の王】も取られたにゃ」

「え……。ユノがまた暴走するゲコ……」

「「「はぁ~」」」


 ため息をつく運営たちであった。




 花音たちが死んで街へリスポーンしたため、のの花も街へ戻った。


「ただいま~」

「お、ユノおかえり~」


 ドラゴンアーモリーに戻ると、花音が手を振って迎えてくれる。


「あれ?サクラさんとリュウさんは?」

「新しい武器の相談とか言って、作業場の方行っちゃった。多分、すぐ戻ってくるよ」

「おっけー」


 花音が身を乗り出してのの花に聞く。


「その様子だと、あのダンジョンクリアしたの?」

「うん。でも大変だったよ……。危なく、溺れ死ぬところだった」

「さすがユノ……。私たちは瞬殺だったよ」

「サクラさんも?」

「うん。ってその聞き方、私とリュウさんは死んで当然みたく聞こえるなぁ~?」


 花音が少し意地悪な口調で言った。

 でも本心ではないので、その顔は慌てるのの花をちょっといじるようにニヤついている。


「そ、そんなことないよ!!」

「分かってるって。まあ実際、私じゃ戦いようなかったし。でもサクラさんまでやられた時はびっくりしたけど」

「ね、びっくりだよ」

「でもね、ユノならワンチャンってみんなで言ってたんだ。倒せるなら、ユノかグレンさんしかいないって。やっぱさすがだよ」

「グレンさんって、第1回イベント1位の人だよね?」


 のの花の頭の中に、優しい笑顔で手を振るイケメンの映像が再生される。


「そう。その人がSSOの現状最強プレイヤーらしいよ。ユノとの直接対決がないから、本当のところは分からないけど」

「きっと、すごいスキルとか武器とかもってるんだろうなぁ」

「ね。でも、のの花も十分異常だからね?」

「いや~、運が良いまでで」

「良すぎるんだよ」


 そんな会話をしていると、サクラとリュウが戻ってきた。


「帰ってきたか。で?あのダンジョンはクリアしたのか?」

「はい、何とか」

「おいおいマジかよ~」


 大げさに驚いて見せるリュウ。

 ちらっと横目でサクラを見ると、のの花にコソコソと言った。


「サクラなんてよ、斬りかかった途端にタコの足でがっちり固められて溺れ死んだんだぜ……」

「あなたは攻撃しようとすらしてないでしょうが!!」


 サクラがリュウの後頭部をパカンと叩く。


「いってぇ!!俺は市民職なんだからいいんだよ!!」

「市民職でも戦えるわ!!」

「横暴だ!!俺はユノじゃねえんだぞ!!」


 そんな2人の様子を、「やっぱ仲良いなぁ」と眺めるのの花と花音。

 リュウは両手を挙げてサクラに降参すると、咳ばらいを1つして話を続けた。


「まあでも、あれは上級者でも倒せないレベルのダンジョンだった。運営は、そもそも攻略させる気がなかったんじゃねえか?」

「それをクリアしちゃうんだから、さすがユノちゃんは《運営殺し》ね」

「いや~、ありがとうございます~」


 サクラに褒められ、のの花は嬉しそうだ。


「さてさて、鬼畜ダンジョンの話はまたあとで聞くとして……。ギルドホームの建設も決まった。こうなってくると、いよいよメンバーを勧誘していきたい」


 リュウが手をポンポンと叩いて、話を切り替えた。

 メンバーの勧誘には、主に3つの方法がある。

 1つは、すでにフレンドであるプレイヤーを誘うこと。

 しかしこれは、友達の少ない4人には向いていない方法だ。

 2つ目が、掲示板を通して見知らぬプレイヤーを誘うこと。

 これはリュウが既に掲示板へ誘いを投稿しているが、ユノとサクラという強プレイヤーの前に恐れをなしたのか、加入希望者が集まらない。

 最後に3つ目が、ゲリラ的に街ゆく人へ声を掛ける作戦。

 ただこれも、成功率が圧倒的に低い。


「この店の常連さんとかはどうなの?」


 サクラが聞くと、リュウは首を横に振った。


「ダメだ。もうみんな、どっかしらのギルドに入っちまってるからな」

「そうなると、ゲリラしかなさそうですね」


 花音の言葉に、リュウは「まあな」と肩をすくめた。


「ただこれも、成功率は低いぞ」

「やってみるしかないんじゃないかしら」


 ということで、次のミッションはギルドメンバーの勧誘である。




「ふう、入ってくれる人なかなかいないなぁ」


 街に分散して30分ほど勧誘を行ったが、ギルドに入ってくれる人が見つからない。

 のの花はちょっと疲れたので、日陰のベンチで休憩することにした。

 何も考えずにぼーっと座っていると、急に声を掛けられた。


「あの……隣……座ってもいいですか……?」


 ぼそぼそとした女性の声に顔を上げると、真っ黒なローブを羽織りフードで顔を隠したプレイヤーがうつむきながら立っていた。


「いいですよ~」

「あ、ありがとうございます……」


 完全に顔が隠れていて、性別も何も分からない。

 声からして、おそらく女性だろうが。

 これも何かの縁と、のの花はギルドに誘ってみることにした。


「あの!!」

「はっ、はいっ」


 突然喋りかけられて、相手がびくっと体を震わせる。

 どうやら、人と話すのがあまり得意ではないようだ。


「今、私たちのギルドに入ってくれるメンバーを探してるんです。掲示板とかだとあまり反応がなくて……。もしよければ、ちょっと見学に来ませんか?」

「け、見学……?」

「はい!!ギルドメンバーと、ギルドホームの建設予定地を紹介します。どうですか⁉」

「え、えっと……」


 のの花の圧に押され、人付き合いが苦手な相手は上手く断ることができない。

 困っていると、ハッとしたようにのの花が言った。


「もしかして、もうどこかに入ってたりします?もしそうだったらごめんなさい。急に声を掛けちゃって」

「あ、いえ、その……ギルドには入ってないです……。ちょうど……探してたところではあったんですけど……」


 その言葉にのの花が食いついた。

 千載一遇のチャンス。逃す訳にはいかない。


「じゃあぜひ、うちに来てください!!初心者さんからベテランさんまで、どのジョブでも大歓迎なので!!」

「は、はぁ……。じゃあ……見学に……」

「来てくれますか⁉ありがとうございます!!」


 結局、黒ローブさんは断れないのであった。

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