第21話 ほのぼのタコも撃破
「さて、どうやってタコを倒すか…」
のの花は真剣に考えていた。
水中戦は不利になるため、できれば遠隔攻撃で倒したい。
「火炎使いの【太陽砲】はダメだったし、水中で水のスキル使っても仕方ないから水使いもなし。弓矢じゃ、HP削り切る前にこっちが溺れちゃうし、そもそもタコまで届かない。【雷帝の怒り】がよさそうだけど、これも射程がなぁ」
タコはボス部屋の下の方へ潜っていってしまった。
下を覗き込むと黒い影がうごめいているのが分かるが、なかなか遠い場所にいる。
そして最悪なことに、こうしている間も水かさは増し続けているのだった。
「【戦略的撤退】でAGI上げてから水に飛び込んで近づく……。いや、水中で武器弾かれたりしたら終わりだもんね……」
水がとうとう、のの花の首辺りまできた。
溺れ死ぬのも時間の問題。焦りが大きくなっていく。
「ああもう!!この水さえなければ、落ち着いて考えられるのに……。さっきのがミスだったぁ……」
のの花の言う「ミス」とは、タコの触手に襲われた時のことである。
せっかく向こうが姿を現してくれたのに、完全にテンパってしまった。
あそこで斧ではなくハンマーを使っていれば、気絶状態にして滅多打ちにできたはずなのに……。
「何か使えるものは……」
のの花は冷静さを欠いたことを後悔しながら、アイテムボックスに有能なものがないか探し始めた。
「あ、これは……」
のの花が所持アイテムをチェックすると、都合のいいことに「撒き餌」なるものがあった。
市民職のジョブである漁師の専用アイテムだ。
これを使えば、タコをおびき寄せることができるかもしれない。
しかしこれだけでは、タコが餌だけ食ってまた潜ってしまう可能性もある。
何せのの花は、まだボス部屋に入っていないのだから。
「そうだ、どうせなら……」
のの花は撒き餌に小細工を仕込むと、入れ物ごとボス部屋へ投げ入れた。
水中で蓋が開き、撒き餌が散らばる。
するとタコが、すごい勢いで上へ泳いできた。
のの花の思惑、大成功だ。
タコは散乱する撒き餌を吸い込んだのち、ボス部屋の外で顔だけ自ら出しているのの花に気が付いた。
勢いよく、2本同時に触手を伸ばしてくる。
しかしのの花は、慌てることなく秒数を数えていた。
「30!!」
撒き餌を放り投げてからきっかり30秒。
目の前まで迫っていたタコの触手が、ぴたりと止まる。
「ふふ~。効くでしょ、毒蛇から作った神経毒」
のの花は、撒き餌に毒を仕込んでタコに食べさせたのだ。
「よし、これで動きは止められた。でも多分、毒だけでHPは削れないから……」
次の手はしっかり考えてある。
「【戦略的撤退】!!」
AGIを上昇する。
そして、これはボス戦。
艦隊の使いどころはここしかない。
「【連鎖分身】!!」
7人に分かれたのの花は、覚悟を決めて水中へ飛び込んでいく。
毒で動きを止められるのは長くて1分半。
しかしタコは体が大きいため、もっと短いかもしれない。
―その前に倒せなかったら、私が死ぬ。
そんな思いでタコに近づくのの花たち。
しかし、のの花は分かっていない。
出現すぐに落下ダメージを食らわせられ、道が二手に分かれている挙句にシャッターで退路を塞がれ、ボス部屋を開ければ水が噴き出して溺れそうになり、水中という圧倒的な利を得た巨大ダコに攻撃される。
そんな鬼畜ダンジョンを作った運営ですら、全ジョブの適正を獲得してステータスに補正を掛けまくり、ぶっこわれユニークセットを全ジョブ用入手するようなプレイヤーが現われるとは想定していないのだ。
―【雷帝の怒り】!!!!!!!
のの花たちによって同時に雷撃が放たれ、ボス部屋が激しい光で満たされる。
必死に目をぎゅっと閉じて耐え、追加の一撃を放とうとした時、タコはもう光となって消えていくところだった。
同時にどんどん水位が下がっていく。
のの花は溺れ死ぬことなく、無事にこの鬼畜隠しダンジョンをクリアした。
「やったー!!」
1人に戻り、高々と拳を突き上げる。
そんなのの花に、新規スキルを獲得した通知が来た。
「おおっ!!新しいスキルだ!!えっと、【海の王】。効果は『1日1回限定で、生息域が水中のモンスターをテイムできる』……か。また新しいタイプのスキルだなぁ。水辺だったらめっちゃ強そう!!」
ちなみに取得条件は「漁師の力を使ってボスモンスターを倒す」こと。
そもそも市民職がここまでたどり着けるはずがないのだが、本来は「漁師、もしくは漁師を含むパーティーでボスモンスターを倒す」というものだった。
しかしそれだと、のの花がただ冒険職としていつも通り戦うだけでこのスキルを獲得できてしまう。
運営はわざわざ条件に修正を入れて、漁師のスキルやアイテムが使われなければならないとしたのだが、まさか撒き餌でタコをおびき寄せるとは思ってもいなかったのだろう。
そんな運営の「ユノ対策」など知らないのの花は、部屋の中央にある宝箱に手をかける。
「これだけ強い敵を倒したんだから、きっとすごい装備がもらえるよね?」
わくわくしながら宝箱を開けると、中には先が3つに枝分かれしている金ぴかの武器が入っていた。
名前は『ポセイドンの三叉槍』。
確かに神話に出てくる海の神、ポセイドンが持つ武器にそっくりだ。
どうやらこの宝箱、槍使いが開けると特別にこの武器が、それ以外だとその他の高レアリティ装備が出るらしい。
「新しい武器、金色でかっこいいなぁ。あとで早速使ってみようっと。あ、そうだ。ユカたちはもうクリアしたのかな……?」
花音、サクラ、リュウの3人が右の道で大量に湧いたモンスターと戦った挙句、巨大ダコに瞬殺されたことなど知る由もないのの花だった。
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