第20話 ほのぼのしてる場合じゃない
隠しダンジョンは、何か特定の条件を満たしたときに出現する特別なダンジョンだ。
通常のダンジョンに比べて、モンスターが強く報酬が豪華なのが特徴である。
「おっと、分かれ道か」
ダンジョンを少し進んだところで、道が2つに分かれている。
どちらの道も先は暗くなっていて、何があるのかは見えない。
「どちらかが正解で、どちらかが行き止まりってのが可能性高いか?」
「あるいは、先の方で繋がってるっていう可能性もあるわね」
こういう時に頼りになるのは、ベテランゲーマーのサクラとリュウだ。
のの花と花音は、どうしたらいいのか見当がつかない。
結局、二手に分かれて進むことになった。
右の通路に花音・サクラ・リュウ。左側がのの花だ。
人数的には差があるが、戦力的にはバランスが取れている。
のの花には【連鎖分身】があるため、艦隊と化した時はのの花の方が強いくらいだ。
「【連鎖分身】は時間制限とクールタイムがあるから、使いどころを気を付けてね」
「分かりました」
サクラに最後のアドバイスをもらって、のの花は1人左の道へ踏み出した。
するとガシャンという音とともに、シャッターが下りてくる。
左側の道がふさがれた。
慌てて花音が駆け寄り、シャッターを叩く。
「だめだ…硬い。ユノ、大丈夫⁉」
「大丈夫だよ~」
思いのほか、のんきな声が返ってきた。
「びっくりしたけど、シャッターが落ちてから明るくなったし近くに危険はなさそう~」
「そう、なら良かった。じゃ、あとでね」
「は~い」
シャッターの中には、今まで歩いてきたのと変わらず道が続いている。
のの花は大盾を構えながら、のんびりと歩いていた。
「モンスター出てこないなぁ」
出現した時にものすごい落下ダメージを受けた割に、ダンジョン内にはモンスターが少ない。
花音たちと別れてからは、1体も目にしていなかった。
「まあ、気持ち悪いのが出てくるのよりはいいけど」
てくてく進んでいくと、気付けば目の前に石の扉がある。
ゴブリンのいたダンジョンと同じ扉だ。
どうやら、この先がボス部屋らしい。
「ええ?分かれ道からモンスターを1体も倒さないうちに、もうボスなの?」
のの花は驚きながらも、石の扉を力いっぱい押す。
しかし、どれだけ力を入れても扉が開かない。
「おかしいな…って、ここに取手あるじゃん」
PUSHではなくPULLだったことに気付き、のの花が取手をつかんで力いっぱい引く。
ギギギと音を立てて、石の扉が開く。
そして…
「うわああああ!!」
勢いよく水が流れ込んできた。
尋常じゃない量。
どうやら、ボス部屋全体が水で満たされているようだ。
「やばいやばい!!」
水に触れることが直接ダメージになるわけではないが、溺れればもちろん死ぬ。
のの花は必死に扉を閉めようとするが、水の勢いに押されて全く動かせない。
「こうなったら…」
のの花は、扉を閉めるのではなく水を何とか処理する方向に考えを切り替えた。
「【太陽砲】!!」
試しに大きな火の玉を撃ってみるが、水の量が多すぎて一部が蒸発するだけにとどまった。
「【氷柱の雨】!!」
水を凍らせてボス部屋への入口を固めてみるも、勢いに押されてあっという間に決壊する。
水はどんどんあふれ出して、とうとうのの花の腰の高さまで来た。
シャッターのせいで、水が逃げていかないのだ。
「このままじゃ溺れ死んじゃうよ…」
焦るのの花。
すると入口から、触手がにゅっと伸びてきた。
かなり大きい。びっしりと並んでいる吸盤が、のの花の顔より一回り大きいくらいだ。
「これは、タコ…?」
のの花の顔がさあっと青ざめた。
のの花の嫌いなものBEST5に間違いなく入るのが、タコという生物なのだ。
小さい頃に顔面へ張り付かれて以来、ずっとトラウマなのである。
「【戦略的撤退】ぃぃぃぃ!!」
即座に逃げるという判断をしたのの花だったが、水かさが増していく中で思うように動けない。
タコの触手に足をからめとられ、バランスを崩した。
「んぶっ…ごぼっ…ごぼべぼ…」
突然水の中に叩き付けられ、息ができない。
のの花は苦しみながら斧を取り出すと、必死に振りまわした。
何とかタコの触手を切断する。
もう少し遅れていたら、ボス部屋まで引きずり込まれていた。
「危ない…」
のの花が息を整えていると、タコの触手がにょきにょきと再生した。
「ええ⁉再生するの…」
つまり、触手を斬るだけではダメージを与えられない。
おそらくは頭の方に攻撃しなければいけないのだろう。
「でも…水中じゃ戦えないし…。このままじゃどのみち溺れちゃうし…」
水かさはあばらの辺りまで高まっている。
のの花、キングゴブリン戦以来のピンチを迎えた。
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