第16話 ほのぼのお疲れ様会

「それでは改めて、第1回イベントでユノが2位!!サクラさんが5位!!おめでとうございま~す!!」


 ユカとリュウが拍手で2人をたたえた。

 今日はリュウの企画で、イベントのお疲れ様会だ。

 会場は宿屋の一室。


「ありがとうございます!!」

「ふふっ、2人ともありがとう」


 ユノとサクラが、笑顔でお礼を言った。


 みんな戦闘の装備を解いて、ラフな格好をしている。

 サクラは髪を下ろしているし、ユカも街で買ったお出かけ用の服を着ている。

 ユノはお気に入りのスノーラビットから作ったモフモフ服。

 唯一リュウだけは、いつもと変わらなかった。


「わぁ、すごくおいしそうね!!」


 部屋の机の上に並べられたたくさんの料理を見て、サクラが手を叩く。

 リュウがハンバーグを1口食べて、思わず声を上げた。


「うまっ!!うまいなこれ。どこかのテイクアウトか?」

「あ、それは私が作りました」


 ユノが手を挙げた。


「そっか、ユノは料理人でもあるもんな。この肉めっちゃうまいけど、どこの店で買ったんだ?」

「それ、実はスノーラビットなんですよ。私が捕ってきました」

「そっか、ユノは猟師でもあるもんな」

「中に入ってる玉ねぎも、私が育てたんですよ。ゲームだから、植えてから収穫までが異常に早いんです」

「そっか、ユノは農家でもあるもんな。ははは、本当に全能じゃねぇか」


 ちなみに、スノーラビットを冒険職が狩ると光になって消えてしまうが、猟師だけは実体を残したまま倒すことができる。

 猟師用の武器とスキルが必要になるので、ユノはイベントの賞金でそれを買った。

 それでも、まだまだ賞金は残っている。


「そういえば、大会の上位にはどんな賞品が送られたんだ?」

「あ、それ気になる!!私もまだユノに見せてもらってないんだよね~」


 興味津々のユカたちに、サクラが賞品を取り出して説明する。


「これが順位とポイント、プレイヤー名の刻まれた記念トロフィー。それでこっちは、記念武器よ。性能は大したことないから、思い出の品って感じね」


 サクラの持つ剣を見て、花音がのの花に聞いた。


「これ、ユノは何の武器もらったの?まさか全部?」

「いや~、全部はもらえなかったよ。一番ダメージを与えた武器ってことで、斧をもらった~」

「あれ?斧そんなに使ったの?」

「使用回数は少ないけど、一撃一撃が強かったみたい」

「ああ、建物斬ってたもんな……」


 リュウが、モニター越しに見たユノの戦闘を思い出して呟いた。

 もし自分が対峙したらと考えると、すごくぞっとする。


「あとは事前に出てた通りゴールドかな。それと、戦いぶりに応じて各自に称号が送られたわ。私は《流麗な美剣士》だった。美剣士って、自分で言うのは恥ずかしいんだけど」

「サクラさんきれいですもん。まさに、美剣士ですよ」

「やめてよ、もう」


 そう言いながらも、ユノに褒められたサクラはまんざらでもなさそうだ。


「そう言うユノちゃんはどんな称号をもらったの?」

「私は《運営殺し》でした」

「ああ……ぴったりね」

「ぴったりだな」

「ほんと、ユノにぴったりだわ」


 3人に「ぴったり」と言われて、ユノは「えへへ」と頭をかく。

 その様子を見ながら、リュウがサクラに耳打ちした。


「大丈夫か?ユノ、運営に目をつけられてないか?」

「どちらかというと、敗北宣言に感じるわね」

「何事もなきゃいいんだが……」


 つい先日の運営会議でのの花の垢バンが回避されたことを、リュウたちは知らない。

 気にしても仕方ないかと切り替え、リュウは1つ咳払いした。


「今日みんなを呼んだのは、お疲れ様会ってのもあるけど1つ相談があってのことなんだ」


 ユノたちは、食事の手を止めてリュウの話を聞く。


「事前に告知があった通り、近日ギルドシステムが実装される。今回のイベントには、猛者たちを有名にする目的もあったはずだ。みんな、強い奴のギルドに入りたいからな」


 リュウの読みは、大方当たっている。

 運営がこの時期にイベントを企画したのは、上級プレイヤーを有名にし、ある程度ギルドマスターになりうる存在を明確にするためだった。


「今後はギルドシステムを利用したイベントが想定される。そうなってくると、このメンバーだけでは小規模ギルドになってしまって厳しい」

「あら、私たちはもうあなたのギルドに入る想定になっているのね?」


 サクラが不思議そうな顔をする。

 リュウは慌てて聞き返した。


「もしかして誘いをどっかから受けてんのか?」

「冗談よ」

「何だよ……おどかすなよ……」


 リュウは、ほっとして大きく息を吐く。

 その様子を見て、花音が元気よく言った。


「私たちも、サクラさんやリュウさんと同じギルドがいいな。ね、ユノ?」

「もちろんだよ」


 2人の言葉を聞いて、リュウが「素直な子はいいな、誰かさんとは大違いだ」と呟く。

 本当に小さな声で呟いたのだが、サクラはしっかりと聞いていた。

 リュウを見る視線がぐっと険しくなる。

 リュウは額に大粒の汗を浮かべながら、気付かないふりをして話を続けた。


「要は、人数が足りないってことだ。俺やサクラもそこまでフレンドが多い方じゃねぇ。ギルメンを集めるには、スカウトが必要になってくる」

「スカウト……か」

「そうだ。ユカやユノは、誘えそうなフレいるか?」


 2人とも首を横に振る。

 何を隠そう2人のフレンド欄には、お互いとサクラ、リュウしかいないのだ。


「そこまで、人数を増やさなくてもいいんじゃないかしら」


 怒りを鎮めたサクラが呟いた。


「私にちょっと考えがあるの。それが上手くいけば、あと数人をスカウトするくらいで済むかも」

「それは、ぜひ聞かせてほしいもんだな」

「いいわよ。口で言うのも何だから、これを食べ終わったら実験してみましょう。キーワードは、運営殺しの全能少女ユノちゃんよ」

「わ、私?」


 自分を指差しながら、きょとんとしているのの花だった。

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