第15話 ほのぼの運営会議

「ふう、何とかイベントが終わったわん」

「グレンが勝ってくれて本当に良かったにゃ」

「ひやひやしたぴょん」


 ここは仮想空間内にあるSSOの運営部。

 動物の形をしたアバターたちが会議を開いているが、中身はちゃんと人間である。


「今回のイベントはかなり盛り上がったし、成功としていいわん。問題は、あのユノというプレイヤーだわん」

「彼女のステータスはカエルが調べてたにゃ。カエル、よろしく頼むにゃ」

「了解ゲコ。これがユノのステータスの詳細ゲコ」


 カエルが、壁に取り付けられたモニターに画像を映し出す。

 イベント終了時点での、のの花のステータスだ。



 ユノ

 Lv20


 ATA:40(+33)

 DEF:40(+33)

 AGI:55(+18)

 DEX:30(+27)

 LUC:30(+6)


 HP:135

 SP:115


 《使用可能装備》

 ユニークセット:《初心者の皮を被った熟練戦士》

 剣士(長剣)セット・剣士(短剣)セット・盾使いセット・弓矢使いセット・槍使いセット・斧使いセット・ハンマー使いセット・トラッパーセット・電撃使いセット・火炎使いセット・氷使いセット・水使いセット・回復士セット


 《スキル》

 SR【回復・中】・SR【半像分身】・SR【斬り刻み】・SR【大盾中級】・UR【全能】・SSR【戦略的撤退】・HR【驚異的な回避術】・HR【鋼の肉体】・HR【不動の心】



「……」

「……」

「……」

「……」


 運営部がし~んと静まり返る。

 最初に口を開いたのはイヌだった。


「いろいろおかしすぎて、どこからツッコめばいいか分からないわん……。カエル、説明をお願いするわん」

「分かったゲコ。実は、注目すべきはただ1点なのゲコ。これゲコ」


 そう言ってカエルは、【全能】の文字にレーザーポインターを当てる。


「この【全能】によって、ユノは冒険職・市民職を問わず全ジョブの適正を獲得しているゲコ。ジョブ補正の数値が異常なのも、装備の数が多いのも、そういう理由ゲコ。特に不正の痕跡はないゲコ」

「意外と、問題は【全能】だけってことにゃ」

「そうゲコ」


 だがしかし、その【全能】が大大大大問題なのである。

 運営たちは必死に検証したが、【全能】をSSOに組み込んだ記録がどこにもない。

 かといって、のの花にチートの痕跡もない。


「ここにいるメンバーは、【全能】について何も知らないゲコ。となると、可能性はただ1人ゲコ」


 全員の視線が、一斉に1つだけある空席に向かう。

 そこは、馬のアバターを使っているベテランプログラマーの席だ。


「ウマじい、だにゃ?」

「そうゲコ。ウマじい以外、考えられないゲコ」

「ウマじいは何してるわん?」

「遅れてくると連絡があったにゃ」


 十数分後、空席に突然ウマのアバターが現われた。


「遅れて申し訳なかったヒヒン。今日の議題は何だヒヒン?」

「じい、このスキルは知ってるにゃ?」


 ネコが【全能】の文字を指差す。

 ウマじいの顔色が悪くなった。


「し、知ってるヒヒン。じゃが、そのスキルがどうしたヒヒン?」

「このスキルはじいが組み込んだわん?」

「まあ、そうじゃヒヒン」

「このスキルのせいで、やばいプレイヤーが現われたゲコ!!じい、何でこんなスキル入れたゲコ!!」


 カエルがウマじいを問い詰める。

 ちなみにウマじいはご老体ゆえ、昼寝をしていてイベントを生観戦していない。


「やばいプレイヤー?ありえないヒヒン。このスキルは排出確率0.00000000334%の【雑用】というスキルを、所持者より総獲得経験値が334多いプレイヤーの獲得した進化コインを使って進化させなければならないヒヒン」


 ウマじいが必死にまくしたてる。


「しかもキャラメイクが3月3日の午後4時に始まり、ATA:DEF:AGIが3:3:4の割合でステを振らなければそもそも排出されないヒヒン。そこからの0.00000000334%ヒヒン?ありえないヒヒン」

「何だわん、その334へのこだわりは……」

「なんでや、阪神関係にゃいやろ!!」

「これを見るゲコ!!」


 カエルが画面を切り替え、のの花の戦闘シーンを映す。

 じいのウマ面に大粒の汗が浮かんだ。

 そして黙って席を立つと、床に膝をつく。


「申し訳なかったヒヒン……」


 一番のベテランが、みんなの前で土下座をかました。


「「「「じじいぃぃぃぃ!!!!」」」」


 みんなの剣幕に押されたウマじいが、慌てて弁解する。


「じゃ、じゃが、わしが勝手に組み込んだ訳ではないのだヒヒン。ライオン社長の提案に、わしが答えたのじゃヒヒン……」

「ライオン社長がOKを出したわん?」

「というより、ライオン社長の案だヒヒン……」

「それなら、まあ仕方ないにゃ。何か考えがあるはずにゃ」


 ライオン社長、の名にみんなのウマじいを見る目が優しくなる。

 ライオン社長はSSO運営会社の社長で、いつも突拍子もないことを言い出す。

 しかし何だかんだで、それが上手くいってしまうのだ。


「じゃあ取りあえず、ユノはこのまま見守るという方向でいいわん?」


 イヌが言うと、みんな渋々頷いた。


「じいも、今度からはちゃんと相談するにゃ」


 ネコに言われ、ウマじいは再び頭を下げる。


「ふう、もしじいも知らんぷりをしたら、最悪ユノの垢バンもありえたわん」


 運が良すぎるあまり、結構危ないところにいたのの花であった。

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