第17話 ほのぼのユノ艦隊

 お疲れ様会を終え、のの花たちは人気の少ない平原にやってきた。

 サクラの考えが上手くいくか、実験するためだ。

 のの花にサクラが指示を送り、リュウと花音は少し離れた所から見守っている。


「まずはユノちゃん、これを」


 サクラがのの花にコインを渡す。

 銀色で500円玉くらいの大きさ。《スキル進化コイン・銀》だ。

 これはR・SRのスキルを進化させるのに使える。


「これで、【半像分身】を進化させて。【半像分身】は進化の時に【連鎖分身】か【広範分身】を選べるけど、選択するのは【連鎖分身】よ」


 ちなみに【連鎖分身】は、最大6人まで自分の分身を増やすことができる。

 ただし、【半像分身】と同じくステータスは半分になる。

 対して【広範分身】は、100mだった分身との距離を200mまで取れるようになるものだ。

 ステータスは0.75倍になる。

 実際のところは、【連鎖分身】を選ぶプレイヤーがほとんどだ。


「いいんですか?貴重なアイテムですよね?」

「いいのよ。私は今進化させたいスキルないし、もう1個持ってるから」

「分かりました。ありがとうございます」


 のの花はサクラからコインを受け取り、【半像分身】を進化させて【連鎖分身】を獲得した。


「次は何をすればいいですか?」

「早速【連鎖分身】を使って、7人に分かれて」


 サクラの指示通り、のの花が本体1人+分身6人の計7人になる。

 7人もいると、どれが本体でどれが分身なのか見分けがつかない。


「本体のユノちゃんはどれ?」


 サクラが聞くと、真ん中ののの花が手を挙げた。


「じゃあ、本体のユノちゃんは斧を装備して。あとは右から、大盾、大盾、短剣、火炎使い、電撃使い、回復士の装備をお願い」


 のの花が言われたとおりに装備を身に着け、前2人が大盾・真ん中2人が斧と短剣・後ろ3人が電撃使いと回復士と火炎使いというように隊列を組むと、立派なパーティーが出来上がった。

 斧のの花以外はステータスが半減しているが、ぱっと見でそれは分からない。

 この光景は、のの花の強さを知るプレイヤーが見たら一目散に逃げだすレベルの破壊力だ。


「うんうん。なかなかいいわね。バランスもとれてるし、《初心者の皮を被った熟練戦士》の固有スキルはバッファーが1人いるようなもんだし…」


 サクラは満足げに頷くと、離れて立っていたリュウたちに声を掛ける。


「どうかしら~!!これなら、防衛も攻撃も完璧よ~!!」

「だな!!防衛と攻撃のどちらかをユノに任られる!!そうなると、あまり人数は必要ねぇ!!」


 リュウは両手で大きく丸を作りながら答えた。

 内心ユノ艦隊を見て、味方で本当によかったと安堵している。


「かっこいいよ~!!ユノ!!」


 花音もグーサインを掲げた。


「たとえば防衛をユノに任せるとして、攻撃部隊にサクラとユカか。そう考えると、冒険職のプレイヤーを何人かスカウトするって感じだな。掲示板への書き込みと、街での勧誘で集めるか」

「そうですね」


 リュウの言葉に花音が頷いた。


「あ、あれ」


 ユカがユノ艦隊を指差す。

 ちょうど本体の斧のの花が、自分よりもはるかに大きなバッファロー型モンスターを瞬殺したところだった。

 そして一言。


「しまった!!猟師で倒せばステーキになったのに!!」


 光となって消えていくバッファロー。

 リュウの頬を冷たい汗が流れる。


「あれ、この辺りでトップクラスにHPの高ぇモンスターだぞ」

「まあ、私は今更驚かないですけど…」


 のの花の後ろから、もう1体バッファローが突っ込んでくる。


「【次元転換の弓】!!【分身する矢】!!」

「【雷帝の怒り】!!」

「【太陽砲】!!」


 すぐさま弓矢のの花と電撃のの花、火炎のの花が攻撃を放った。

 バッファローが焼け焦げの実質ステーキ状態で消えていく。


「あれ、ステ半分になってんだよな?」

「でも3人なんで、本体より強いかと……」

「ってことは、あの艦隊にはユノが4人いるってことか…」


 リュウと花音の間を静寂が流れる。

 そして両者とも、同時に口を開いた。


「スカウトいるか?」

「スカウトいりますかね?」


 リュウも花音も、あきれてため息をつく。

 実際のところ、【連鎖分身】の効果範囲100mという制限がなければ、スカウトはいらなかったかもしれない。


 そんなリュウと花音の様子に気付いていないのの花は、ドロップしたバッファローの角を「とったど~」と掲げていた。

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