第13話 ほのぼの有名になる
「なあリュウさん、このイベントだれが勝つと思います?」
広場のモニターに映し出されるイベントの中継を見ながら、リュウの隣で座っていた男が聞いた。
彼はリュウの店の近くでアイテムショップをやっている、エドという商人だ。
「お前はどう思うんだ?」
リュウに質問で返され、エドは腕を組んで考える素振りを見せる。
少しののち、エドは3人のプレイヤーを挙げた。
「順当にいって優勝はグレンさんっすよね。ちょっとあの人はレベルが違うっす。あとはミカゲさん、ゲンカ―さんでTOP3っすかね~」
今エドが挙げたのは、SSOユーザーのほとんどが知るトッププレイヤーたちだ。
「まあ、普通に考えりゃそうなるよな」
「って言うと、リュウさんの予想は違うんすか?」
「まあな」
「え?どんな予想立ててるんすか?」
エドに聞かれて、リュウは自慢げに答えた。
「まあ、優勝がグレンってのは同意だ。それは間違いねぇ。ただTOP3となると、もう1人候補がいるぜ。お前、ユノって知ってるか?」
「ユノ……女性プレイヤーっすか?聞いたことないっすね」
「まあだろうな」
「何すか、ダークホース的な感じっすか?」
「そんなとこだ。お、ちょうどユノが映ってるぜ」
リュウが指差すモニターには、大量のプレイヤーに包囲された神殿が映っている。
彼らの標的になっているのが、中央にニコニコしながら立っているユノだ。
「え?あれっすか?」
「あれだ」
「どう見ても初心者装備じゃないっすか。この人数に囲まれたら、あの子詰んでるっすよ?」
「まあ見てろって」
神殿を北側から攻めているのは、弓矢使いの1隊だ。
彼らが息を揃えて、一斉に矢を放つ。
しかし、それを見ながらのの花は避けようとしない。
「あああ、終わっ……ってねぇ⁉え、なんであの子立ってるんすか⁉」
「な、俺も最初見た時はガチでビビったぜ」
リュウが痛快そうにユノの戦闘を眺める。
広場も段々ザワザワし始めた。
「おい、あの子ヤバくね?」
「なんだあれ。初心者装備で何で耐えられんだ?」
「明らか装備に秘密なさそうだし、ステータスが異常に高いのか?」
「てか、盾すら使ってないじゃんかよ。どうやってんだ?」
弓矢部隊が呆然としている間に、特殊攻撃の部隊が攻撃を仕掛ける。
特殊攻撃とは、毒・電撃・爆弾などの物理ではない攻撃のことだ。
【驚異的な回避術】では、特殊攻撃を避けることができない。
のの花に向けて炎や氷、水の特殊攻撃が一度に発射され、雷と爆弾が投下された。
「おいおい、かわいい子に容赦ねぇな」
「避けようがない。さすがに死んだね」
「まともに食らって生きてられんの、グレンくらいだろ」
観戦者たちにあきらめムードが漂う。
……が。
「おい、生きてんぞ!!」
「は?何でだよ?間違いなく当たってたはずだぜ?」
「え、まさかチーターか?」
「もうすごいを通り越して怖いんだが」
堂々と元の位置に立っているのの花に、驚愕の声が上がる。
ただ1人、のの花が何をしたか分かっているリュウはニヤけるのをこらえきれなかった。
実はのの花が着ている服は、ただの服ではないのだ。
見た目はログインしたての初心者が着ている服だが、これもまた《初心者の皮を被った熟練戦士》の装備。
回復士用の特殊な鎧なのだ。
武器スキルは【非常識な生命体】で、効果は『特殊攻撃を受けるたびにHPを5%回復する』というまさに非常識なもの。
つまり今のの花は、攻撃を受けたようでHPを回復していたのだ。
―そりゃ、チート疑われるよな。
心の中で呟いて、隣で唖然としているエドに言った。
「な、えぐいだろ」
「……」
エドは黙って頷いた。
もはや広場中の人が、のの花に釘付けである。
「どういう原理か知らないが防御が固いのは分かった。問題はどうやって攻撃するかだな」
「きっと攻撃もえぐいんでしょ?」
「どんな攻撃方法なんだ……?」
モニターの中で、のの花が弓を構えた。
「おお、弓使いだったのか!!」
「弓使いで一斉射撃を耐えるって……どゆこと?」
「てかあれ、初心者用弓矢じゃね?」
のの花は弓矢部隊に向けて、連射で2本の矢を放った。
目標までの距離は70mちょいぐらい。
2本の矢が分身して分身して分身して分身して分身して分身して分身して計14本。
そしてその矢たちが、2秒間透明になる。
ちょうど14人いた弓矢部隊のうち、誰1人として避けられなかった。
「なんだよあれ……」
「あの弓矢は何なの?初心者装備であんなこと出来んの?」
「今、一瞬矢が消えたよね?」
続いてのの花は、やはり初心者の電撃使い用装備にそっくりな杖を持ち出した。
もちろん、そっくりなだけで超強力装備。
雷が無数に落下し、特殊攻撃部隊を殲滅した。
「弓矢使いじゃねぇの?」
「なんで電撃使えてるのよ……」
「あ~……」
さすがにシャレにならないと判断したのか、各方位の続々とプレイヤーが撤退し始める。
しかしポイントになる彼らを、のの花が見逃すはずがなかった。
今度は武器を斧に持ち替え、ぐるりと1回転、地面と水平に振る。
目に見えない斬撃が飛んでいき、神殿の建物をど真ん中で上下に切り分けた。
支えを失った上の部分が、逃げようとするプレイヤーを下敷きにして落下する。
この一撃で、ざっと400ポイントを稼ぎ出した。
「なんだあれ……」
「なんだあれ……」
「なんだあれ……」
「なんだあれ……」
圧倒され語彙力を失う観戦者たちであった。
そしてその頃。
「何だよあれ!!あんなスキル実装した覚えはないわん!!」
「でも、チートの痕跡はないぴょん!!」
「おい、イベントと同時進行でシステムチェックするにゃ!!」
SSOの運営さんたちが大慌てしていた。
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