第12話 ほのぼの【一網打尽】

「さて、SPポーションは作れるだけ作ったしちょっと動いてみよっかなぁ」


 20分が経ち、のの花は被ダメ0のまま10人の敵を倒した。

 しかしこのペースでは、上位10人など夢のまた夢。


「場所変更っと」


 のの花は森を抜け、適当な場所を探して歩いてみる。

 すぐに、崩れかけた神殿のような建造物を見つけた。

 マップ上では森の中央に位置しており、なかなかに目立つ。


「ここなら、プレイヤーもたくさん来るかも」


 のの花が神殿に足を踏み入れた瞬間―


「かかったな」


 低くこもった声がした。

 振り返ると、真っ黒な仮面をかぶったプレイヤーが立っている。

 ジョブは槍使いのようだ。


「ここは俺たち【暗黒軍】の拠点。お前はもう逃げられない」


 その声に合わせて、神殿や周りの茂みから同じ仮面をかぶったプレイヤーがぞろぞろ出てくる。

 ざっと20人というところか。


「か、囲まれたっ」

「その通りだ。逃げ場はない。初心者装備の女性プレイヤーを叩きのめすのはいささかかわいそうだが、これはそういうゲームなのでね」


 のの花は瞬時に、自分を囲むプレイヤーたちの装備を確認した。

 ほとんどが何らかの武器を手にしている。

 つまり、基本的に物理系の攻撃だ。


「初心者のレディだ。袋叩きはやめてやろう。俺が一瞬で終わらせてやる」


 黒仮面が槍を構えて突進してくる。

 のの花は無駄のない動きで大盾を構え、攻撃を防いだ。

 ノックバックが発生し、黒仮面が尻もちをつく。


「何⁉」


 驚くプレイヤーたち。

 のの花にとっては、今日何度も見た光景だ。


「くそっ、もういい!!お前たち、かかれ!!」


 20人の黒仮面が一斉に突っ込んでくる。

 のの花は落ち着いて、組み立てた作戦通りに動いた。


「【驚異的な回避術】‼【不動の心】!!」


 20人が一斉に攻撃するが、ただその場にいるだけの少女に全く当たらない。

 のの花は頭の中できっちり1分を数えると、《初心者の皮を被った熟練戦士》のハンマーを手にした。

 ちなみにこのハンマー、武器スキルは『地面に打ち付けると、その場所から半径10m以内にいる敵に攻撃力の200%のダメージを与え、50%の確率で気絶状態にする』という【一網打尽】。

 かなりのぶっ壊れである。


「おい‼こいつおかしいぞ‼」

「どうして攻撃が当たらないんだ⁉」

「初心者装備のくせに何なんだ⁉」


 戸惑う黒仮面たちを尻目に、のの花はハンマーを振り上げる。


「おい、攻撃してくるぞ!!」

「馬鹿野郎!!初心者用ハンマーだぞ?何をビビってんだ!!」


 怒号の飛び交う中で、のの花はニコッと笑って言った。


「それが意外と強かったりして……?」

「「「は?」」」

「【一網打尽】!!」


 のの花は思いっきり、地面にハンマーを叩き付けた。


「「「うわぁぁぁぁ!!」」」


 プレイヤーたちが吹っ飛びながら消えてゆく。

 何人か盾使いが残ったが、彼らも気絶状態。

 あえなくハンマーの餌食となった。


「おいおい……何なんだよお前……」


 槍使いの黒仮面が震える。

 1人だけ【一網打尽】の範囲外にいたため、何とか生き延びたのだ。


「バイバイ!!あんこ軍さん!!」

「俺たちは暗黒軍だぁぁぁぁ!!」


 絶叫とともに、最後の1人が消えた。

 一気に21ポイントもゲットである。


「あんこ軍さんがここで待ち伏せしてたってことは、やっぱりプレイヤーが集まるっぽいね。ここを新しく拠点にしようっと」


 ポーションを使い、減ったSPを回復する。

 するとのの花のお腹が「ぐぅぅ」と鳴った。


「ありゃ、こっちも減っちゃったか。終わったら大福でも作って食べようかな。どら焼きもいいなぁ」


 あくまでもチーム名を「あんこ軍」と覚えられてしまった黒仮面さんたちであった。

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