第11話 ほのぼのイベント開始!!

 イベント当日。

 街の中央にある広場に続々と集まってくるプレイヤーの中に、のの花と花音もいた。


「いよいよだね」

「だね。楽しみだけど、緊張してきた~」


 のの花はさっきから何度も深呼吸している。

 胸に手を当ててみると、心臓がバクバク鳴っているのがよく分かった。


「だけど、ユノはやばい装備手に入れたんでしょ?【全能】もあるし、本当に10位以内も夢じゃないね」

「うん、頑張ってみる。ユカもだいぶレベルあがったもんね」

「まあでも、今の私じゃきついかなぁ。できる限り頑張るけど」


 今回のイベントはバトルロワイヤル。

 制限時間は3時間で、プレイヤーを1人倒すごとにポイントが与えられる。

 逆に倒されると、デスペナルティとして減点。

 3時間経過時に一番多くのポイントを持っていた人が優勝だ。

 もしポイントで並んだ場合は、与ダメージから被ダメージを引いた値の大きい方が上位となる。

 サッカーなどの得失点差と同じようなルールだ。


「ふふ、2人とも出会った時はお手柔らかにね」


 いつの間にか、のの花たちの後ろにサクラが立っていた。


「あ、サクラさんおはようございます!!」

「おはようございます」

「おはよ~。お互い頑張ろうね」

「「はい!!」」


 サクラは「じゃ、またね」と手を振って人ごみの中へ消えていった。


「ど、ど、ど、ど、どうしよう⁉サクラさんと戦わなきゃダメなのかな⁉」

「ぶつかる可能性はあるよね、バトロワだし。というか落ち着け、ユノ」


 「はわわわ」状態になっているのの花に深呼吸させて、花音が言う。


「ま、いざとなったら本気でぶつかろうよ」

「うん、そうだよね。でも、やっぱり戦いたくないなぁ」

「まあね。あ、始まるみたいだよ」


 広場の上空がぱっと光り、その光がかわいらしい妖精の形に変化する。

 SSOの公式キャラクター、「美少女妖精アイリスちゃん」だ。


「は~いみんな~、第1回SSO大規模イベント!!『3時間ポイント制バトルロワイヤル』へようこそ~!!」

「うおおおお‼アイリスちゃ~ん!!」

「アイリス様ぁぁぁぁ!!尊い!!」


 一気にプレイヤーたちが沸き立った。

 アイリスちゃんはプレイヤー間でものすごく人気がある。

 バーチャル美少女配信者としても活動中だが、つい先日チャンネル登録者が100万人を超えたらしい。


 広場の熱気がどんどん高まっていく。

 上位を目指すガチ勢、そこそこでいいというエンジョイ勢など思惑は様々だが、みんな共通しているのは「このイベントを楽しんでやる!!」という気持ちだ。


「ルールブックを事前に配布してあるから、分からないことがあったらそれを読んでね!!じゃあ待ちきれない人たちもいるようだし、イベントを始めよう!!カウントダウンの準備はいい~⁉」

「「「「「おおおおおおお!!!!!」」」」」

「じゃあいくよ~‼10、9、8……」


 のの花と花音は向かい合って、ハイタッチを交わした。


「じゃあ、頑張ろう」

「うん!!頑張ろう!!」


 広場の熱気が最高潮に達する。


「「「「「3、2、1、0!!!!!」」」」」


 プレイヤーが光に包まれ、イベント用のフィールドへ送り込まれた。




「ここが、イベント用のフィールドかぁ」


 のの花が飛ばされたのは、森の中のやや開けた場所。

 すぐ近くにプレイヤーはいないようだ。


「あ、このお花!!SPポーションになるやつじゃん!!」


 周りに生えていたのは、ポーションの材料になる花だった。

 早速摘んで、ポーションを作り始める。

 無駄に動き回るより、体力を温存してやってきた敵を迎え撃つというスタンスだ。


「いや~、ラッキーラッキー。SPポーションはいくらあってもいいからね」


 のの花がせっせとポーションを作っていると、後ろから足音がした。

 続いて男の声。


「おいおい、ポーション作ってる嬢ちゃんがいるぜ。見たところ初心者装備だし、市民職はバトルイベント向きじゃねぇぞ」


 のの花が振り返ると、男性プレイヤーが3人立っている。

 長剣、大盾、弓矢とバランスの良い組み合わせだ。

 パーティーは組めないためお互いにバフを掛けたり回復したりはできないが、それでも数がいれば倒せる敵も多くなる。

 知り合い同士で一緒に行動しているのだろう。


「っしゃ、まずは1ポイント頂きだぜ!!」


 長剣の男が、勝利を確信してのの花に斬りかかる。

 彼はのの花のことを、薬剤師か何かの市民職だと思っているのだろう。

 ただ残念なことに、のの花は全能だった。


「おりゃ!!」

「えいっ!!」


 男の長剣を、のの花が大盾で防ぐ。

 圧倒的にパワーのありそうな男の方が、よろけて尻もちをついた。


「は?何で俺の攻撃が初期装備の盾に防がれるんだ……?」


 のの花が使っているのはもちろん初期装備ではなく、ユニークセット《初心者の皮を被った熟練戦士》の『初心者装備のような大盾』。

 武器スキル【攻撃的盾使い】は、『攻撃を防ぐと20秒に1度の割合でノックバックを発生させる』だ。


「ふっふっふ~。こっちの番ですよ!!」


 のの花は不敵に笑うと、長剣を取り出した。

 もちろんこれも《初心者の皮を被った熟練戦士》の装備である。


「おいおい、盾使いは短剣以外の武器は使えないはずだろ……?てかお前、市民職じゃないのかよ……?」


 のの花と関わる人は、みんな何がなんだか分からないという顔をする。

 この男性プレイヤーも、例外ではなかった。


「えいっ!!」


 尻もちをついたまま混乱しているところに、のの花が長剣を振り下ろす。


「おかしいだろぉぉぉぉ!!」


 悲痛な声を上げながら、男性プレイヤーは光となって消えた。

 後ろにいた2人は「ひっ」と声を上げて逃げようとする。


「逃がさないよ!!」


 のの花は長剣を弓矢に持ち帰ると、走り去ろうとする2人の背中に向けて放つ。

 矢が2本になり、一瞬消え……


「はぁぁぁぁ⁉」

「何で弓矢も使えるんだ⁉」


 スキルをバリバリに発動させながら、驚く男たちを射抜いた。

 彼らもまた、光となって消えていく。


「やったぁ!!3ポイント!!よし、ポーション作り再開っと」


 のの花は再び、周りの花を摘み始めた。

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