第10話 ほのぼのボス撃破

 のの花が持っている弓は、もともと花音が使っていたもの。

 花音が新しい弓を買って初心者装備はいらなくなったため、一応もらっておいたのだ。


「サクラさん!!このゴブリンってどうやったら止まるんですか⁉」

「ちょっとでもダメージを与えれば、行動パターンが変わるわよ!!」


 サクラに情報をもらい、クレーターの中で矢を取り出す。

 すぐそこにあるキングゴブリンの足に向かって、「えいっ」という掛け声とともに放った。

 矢がしっかりと刺さり、ほんの少しのダメージを与える。

 回り続けていたキングゴブリンが、ぴたりと動きを止めた。


「よし、これで動ける!!」


 のの花はクレーターを脱出すると、再び矢を放った。

 本当にわずかながら、キングゴブリンのHPゲージが減少する。


「初心者装備で倒したら隠しスキルもらえるとかないかな……。ちょっとやってみよ!!」


 そんな思い付きから、のの花は短剣ではなく弓矢で戦うことに決めた。


「まずは、【驚異的な回避術】!!」


 早速、習得したばかりのスキルを発動する。

 これで、キングゴブリンがいくらこん棒を振り回そうとダメージは受けない。


「【不動の心】!!」


【驚異的な回避術】の効果があるうちに【不動の心】を発動しても大丈夫か不安だったが、どうやら効果がちゃんとあるようだ。

【不動の心】発動後に何らかのアクションを起こさなければいいのだろう。


「よし、1分待機だね。1、2、3……」


 のの花はじっとその場にとどまって、カウントダウンを始めた。


「……58、59、60!!」


 1分経過。これでのの花のステータスは、基本の数値から60%上昇している。

 しかもあと4分間は、【驚異的な回避術】の効果が継続する。


「最後に【半像分身】!!」


【半像分身】は、スキルガチャから出てきた【虚像分身】を進化させたスキル。

 ステータスが半分になった自分の分身を生み出すことができる。


「いっくよ~!!」


 のの花2人が、キングゴブリンに向けてひたすら矢を放ちまくる。

【不動の心】と【半像分身】のおかげで、HPを多めに削れるようになった。

 的が大きい分、正確性はそこまで必要としない。

 もちろん目などの弱点はあるのだが、のの花は「質より量」と割り切って矢を乱射した。


「何でわざわざ弓矢を使うのかしら……。あとなんでキングゴブリンの攻撃が当たらないの?」


 見守るサクラは首をかしげているが、手出しはしない。

 のの花との間でそういう約束になっているからだ。


【驚異的な回避術】を発動してから、5分が経った。

 ここまでは攻撃に集中していたが、ここからは防御や回避にも気を遣わなければならない。


「【驚異的な回避術】はまだクールタイムだしSPが足りないから……。【戦略的撤退】ならギリ使えるか」


【戦略的撤退】を使ってしまうとSPはすっからかん。

 回復には時間経過を待つかポーションを使うしかないが、あいにく今回はポーションを持ち合わせていない。


「まあ、狙撃系のスキル持ってないしいいよね。【戦略的撤退】!!」


 AGIが2倍になり、より素早く動けるようになる。

 回避を優先しつつ、隙を見て矢を放ち続けた。


 のの花の現在のATAは基礎値の40にジョブ補正の33を加えた73。

 それが【全能】の効果で20%プラスされて87になる。 

 さらに【不動の心】による60%上昇が加わって139になり、【半減分身】の効果で実質1.5倍だから208。

 初心者用弓矢でも十分な火力が出せる数値だ。


「やばい、弓矢使うの楽しくなってきちゃった!!」


 のの花はとびっきりの笑顔で矢を放ち続ける。

 だいぶキングゴブリンのHPも削れてきた。

 あと一歩というところだ。


「最後くらい、ちゃんと狙ってみようかな」


 のの花はキングゴブリンが振り下ろしたこん棒が地面にめり込んだところで、上方向に弓矢を構える。

 狙うのは、弱点である目だ。


「いっけぇ~!!」


 相手との距離を考えて少し高めに放った矢は、きれいな放物線を描いてクリティカルヒットした。

 ……眉間のど真ん中に。

 しかしクリティカルダメージのおかげで、無事HPを0にすることができた。


「まあ、結果オーライ!!」


 のの花は「うんうん」と頷くと、キングゴブリンが光となって消えていくのを見守った。

 キングゴブリンが完全に消え、代わりに宝箱が出現する。

 目の前に現れた光景に、のの花はきょとんとしてしまった。


「宝箱が1、2、3……。すごい数ある⁉」


 本来は1つしか出ないはずの宝箱が、何個も出現している。

 サクラの方を振り返ると、彼女もあっけにとられていた。


「取りあえず、これ開けてみよっかな」


 のの花が一番真ん中の宝箱を開けると、そこに入っていたのはさっきまで使っていたのと同じような弓矢だった。


「ユニークセットって書いてある!!でも見た目は普通だなぁ……」


 ユニークセットは、URスキルと同じく一点物の装備セットだ。



 ユニークセット《初心者の皮を被った熟練戦士》

 固有スキル:【剥がれ落ちていく初心者の皮】

 効果:10秒以内の間隔で攻撃が当たる度に全ステータス+10%、上限なし。

 10秒が経過した場合、効果は消滅する。

 取得条件:ダンジョンのボスモンスターに初心者用装備のみでダメージを与えて勝利。


『初心者装備のような弓』

 装備効果:戦闘相手に対する最初の攻撃がクリティカルヒット確定。

 武器スキル:【次元転換の弓】

 効果:この弓から放った矢は戦闘相手から20mの時点で2秒間透明化する。


『初心者装備のような矢』

 装備効果:ATA、DEX、LUCが10%上昇する。

 武器スキル:【分身する矢】

 効果:放たれた矢が何にも当たらず10m進むごとに1本増加、最大7本(70m)まで。



「ユノちゃんどう?その武器、見た目はあまり強くなさそうだけど……」

「いえ、これめっちゃ強いです」

「本当?」


 サクラはあまり信じられないという様子だ。

 それもそのはず。固有スキルや武器スキルは強力だが、見た目は何の変哲もない初心者装備なのだから。


「この量の宝箱ってことは……」


 のの花はハッとして、次々に宝箱を開けていく。

 思った通り、それぞれの宝箱には各冒険職に応じた《初心者の皮を被った熟練戦士》の装備セットが入っていた。

 長剣、大盾、槍などなど。もちろん短剣も。


「やった!!これで装備を買わなくて済む!!」


 テンションが爆上がりしたのの花と、やはり首を傾げているサクラ。

 強力な装備を手に入れ、いよいよバトルロワイヤルの大規模イベントへ―。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る