第5話 ほのぼの【雑用】進化
「お、いらっしゃい」
サクラに連れられてやってきたのは、喫茶店のすぐ近くにある武器屋「ドラゴンアーモリー」だった。
カウンターで大柄な男が剣を磨いている。
「どうも、リュウ。調子はどう?」
「おかげさまで商売繁盛だ。ん?その2人は?」
リュウの視線が、のの花と花音に向けられる。
「さっき喫茶店で相席になって知り合ったのよ。初心者さんみたいだから、一応有能なショップを紹介しておこうと思って」
「へへ、そりゃありがたい。うちのお得意様がまた増えるって訳だ。2人とも、名前は?」
「私はユカっていいます」
「私はユノです」
2人とも、自分の名前を言って「よろしくお願いします」と頭を下げた。
リュウが軽く手を挙げて、「よろしくな」と答える。
「2人とも、見たところ初心者装備のようだな。最初はそれでもいいが、すぐに限界が来る。ゴールドが溜まったら、まず武器を買うことをおすすめするぜ。俺は鍛冶屋だから、素材を持ち込んでくれればオーダーメイドもできる」
「リュウの腕前は一級品よ。私の剣も、リュウにオーダーメイドで作ってもらったの」
そう言われてみると、サクラの持っている剣はなかなか独特なデザインだ。
リュウは磨いていた剣を片付けると、「まあ、もうちょい先の話だろうけどな」と笑った。
「そういえば、進化コインの金ってどんくらいの値段になるの?」
サクラが聞くと、リュウは意外そうな顔をした。
「何だ、進化コインが欲しいのか?さすがにそれは、うちでも扱ってねえな。ありゃ、超激レアアイテムだ。もし買えるとしても、最低で50万ゴールドは必要だろう」
「5、50万ゴールド⁉」
のの花が驚きの声を上げた。
さっき食べたケーキセットが500ゴールドだから、ケーキセット1000個分だ。
「まあ、そもそも手に入んねえよ。進化コインを売るやつなんざまずいねえ。手に入れたら、みんな自分で使っちまうからな」
「やっぱり、自分で使うべきよね」
「間違いねえ」
リュウの話を聞いて、サクラは「だそうよ」と2人に言った。
2人とも「ありがとうございます」と頷く。
「やっぱり、自分たちで使うのがいいみたい。どうする?ユノ」
「でも、SSRスキルなんて今のところアレしかないよ?あれに使うのは、もったいなくない?」
アレ、もちろん外れスキル【雑用】のことである。
「でもさ、よくアニメとかであるじゃん。外れだと思ったスキルが、覚醒するみたいなこと」
「それって、現実でやろうとしたら大失敗するやつだよ~。もうフラグ立ってるもん」
「「う~ん」」
2人はサクラとリュウのことも忘れて、真剣に考えこんだ。
リュウが、何が何だかよく分からないという顔をするので、サクラがことの経緯を説明する。
初心者2人が初日で、それも雑魚モンスターから《スキル進化コイン・金》を手に入れたと聞き驚くリュウ。
そんなことなど気にもせず、議論に没頭するのの花と花音。
花音は、【雑用】に使ってみても面白いんじゃない?それで失敗しても、逆にネタになるじゃん、という意見。
のの花は、やっぱりもったいないという意見。
5分後に勝利したのは、面白さを求める姉の方だった。
「大失敗のフラグ立ってるって……」
まだブツブツ言っているのの花に、花音がビシッと言い切る。
「いいの!!これは私が倒したウサギから落ちたんだから!!」
こう言われてしまうと、のの花には言い返す余地はない。
まあしょうがないかと頷いた。
「じゃあ、のの花にこれを渡して……」
アイテムの所有者になったのの花が、金色のコインをタップする。
出現したウィンドウから『使用する』を選択し、使用先として【雑用】を選んだ。
最終確認として、『本当に使用しますか?』と表示される。
のの花はまだちょっと迷いながらも、『はい』を押した。
押してから、ふと気付く。
「【雑用】って最高レアのHRだよね?これ以上進化すんの?」
「あ……」
花音ものの花に言われて確かにと思ったが、時すでに遅し。
ウィンドウに、『HRスキル【雑用】が進化しました。』という文字が浮かんだ。
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