#178 唾を吐き捨てて去る男

 その朝、一人の老人が日課の散歩をしていると、ボロボロの服を着た男が倒れているのを見かけた。老人は杖で男の身体を何度か小突く。男が目を覚ました。

「お前さん、大丈夫か」

 男はかすかに上体を起こし、辺りを見回す。既に陽は高い。

「お前、メイカのところの居候かえ?」

 男は老人を見る。しかし何も答えない。彼は老人の杖を払いのけると、よろよろと立ち上がり、荷物を背負って歩き始めた。その様子が異様に映ったのだろう。老人は、好奇心に駆られて男の後を付いていく。彼は広場を避けるかのように、裏の小道を歩いていった。

 男は町の北外れに差し掛かった。ちらりと振り返った男は、苦虫を噛み潰したような形相で唾を吐き捨てて、去っていった。

 #300へ進む。

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