#175 大愚かしい口上

 あなたはハライソの裁定に異議を申し立てるべく、立ち上がって言う。

「ハライソ様、お心遣いありがとうございます。しかし、私にはその裁定を承服することはできません」

「な、何言ってんだ、エイカ!」メイカケイがあなたに目を剥く。

「順を追って説明しましょう。先ほどの揉め事の際、ナミタツホノウミは私達に言いました。御領主様が私達の振舞いを心配されている、と。ホノウミは、ハライソ様またはホウリシットの意向を推し量って、私達に謝罪をさせたのでしょう」

「旦那方は関係ねえ、俺はそう言っただろうが!」

 ホノウミが反論する。だがあなたは発言を続ける。

「続いてシットが、ハライソ様に先行してあの場へ来ました。彼は説明を聞くまでもなく、そこで起こっていた状況を把握し、すぐにハライソ様も来られると言いました。しかしシットは、ハライソ様の意図がわからないとも言いました。これは本当のことでしょう」

「お前……!」

 シットが言いかけるのを、ハライソが止める。あなたは続ける。

「これらから見えてくること、それは、農頭ホノウミが今日の夕方、皆を引き連れて私達を私刑にかけるということを、執事シットが想定または教唆したであろうということです。この時点までのシットの目的は、ホノウミと同様、私達を制裁することにあった。先ほどハライソ様が、私達には害意がなかったと認めてくださった際も、シットとホノウミの二人はちらりと不満を口にしようとしました。

 しかし、ハライソ様は揉め事が起こったのを知ると――誰かから知らされたのでしょうか、それとも館の窓からそれをご覧になったのでしょうか――自ら出向いて場を治めようとされた。その瞬間、シットは考え直す。二人の火の器に制裁を加えるという自分の目論見は、ハライソ様の意思に反するらしい、と。ハライソ様の執事たるシットの本来の目的は、ハライソ様の意思を忠実に実施することにある。そのために余計なことが起こってはならない。そこでシットは急ぎ先行して現場に乗り込み、状況を確認し、状況がそれ以上進むことを止めて、ハライソ様の到着を待った。結果、ハライソ様の裁定により、私刑は阻止されました」

「馬鹿馬鹿しい」シットが言う。「一体何を言いたいのだ、お前は!?」

 あなたは顔色を変えぬよう努めるが、このときばかりは深呼吸してから、言う。

「この猿芝居の原作者は、ハライソ様だということです」

「無礼者!!」

 シットが立ち上がって叫ぶ。さすがのハライソも眉間をしかめた。

「エイカァ! この愚か者が!」

 メイカケイが手加減なくあなたを平手打ちする。あなたは避けずにそれを受け入れる。

「穏やかではないね」ハライソが穏やかに言う。「これが火の器の流儀なのかい」

「では申し上げましょう」あなたはなおも続けようとする。

 #176へ進む。

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