#172 出会いと別れの繰り返し

 翌朝、目を覚ました時には既にメイカケイはいなかった。あなたは寝坊してしまったらしい。

 朝食には、いつもの薄い粥の他に干し肉が置いてあった。あなたはこれを餞別として受け取った。そして、干し肉のあった場所にいくらかの家賃を置いておくことにした。彼女は仰天し、怒るだろう。だがヒモリヌシとホノオカオルはこれに同意してくれることだろう。

 あなたはあばら家の戸を閉め、町の各所を訪ねてからこのドトルを去ることにした。

 まず、あなたは中央広場の会世堂に向かう。講堂の大扉を開くと、敢問らしき者達が会合のようなことをしていた。すぐに下っ端らしい敢問が駆け寄って来る。

「今は会議中ですよ、用事なら事務室でお願いします」

「ああ、すいません。センリニュウタン先生を訪ねて来たんですが」

「副堂司は会議の真っ最中です、ほら」

 そう言って彼が示そうとすると、センリがあなたに気付き、こちらへ向かって来た。

「どうした、エイカ。講義なら明朝にしてくれ」

「邪魔をして申し訳ない。急なことだが、俺は今日ここを発つことにした」

「急過ぎだ! まさか、あのトロッコの件でか? 聞いているぞ」

「それも少しはあるが、それだけじゃない。ドトルでの暮らしを終え、旅を再開する。あなたに世話になった礼を言いに来た。ありがとう、センリさん」

「いきなり過ぎて掛ける言葉も見つからないが…… 君のランタンに、無事に火が灯り続くよう、祈る。エイカ、今度こそは充実した土産話を持って来い」

「ああ、わかった」あなたは頷き、会世堂を退出した。

 続いてあなたは喫茶店・南国大通り亭に向かい、看板娘ヨウマビに声を掛ける。

「やあ、ヨウマビ。いつものセットの持ち帰りを頼む」

「いらっしゃい、エイカ。堤防工事で事故があったって聞いたわ。大丈夫?」

「俺は大丈夫。それも少し関係するが、俺は今日ここを発つことにした」

 ヨウマビは一呼吸置き、感慨深げに言う。

「様々な人達がこの店を訪れ、去っていく…… 多くの場合は、何の音沙汰もなしにね。エイカ。あなたは少し、風変わりな人だった。あなたの使命、覚えてる?」

「喫茶店巡礼の旅……」

「ええ、そうよ。まだ見ぬ数々の喫茶店が、あなたの来訪を待ってる。いつか、あなた自身が喫茶店を開くかも?」

「その時は君をスカウトしようかな」あなたは水筒を差し出す。

「いい考えね。待ってて」

 あなたは定番のホットコーヒーとアップルパイのセットを受け取り、会計を済ませる。

 出会いと別れ。旅人であるあなたにも増して、彼女はそれを繰り返しているのかもしれない。あなたは新たな一歩を踏み出す。

 #173へ進む。

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