#171 愛すべき我らがあばら家

 あなたとメイカは酒屋で酒を買い求めてからあばら家へ帰り、宴会を開いた。メイカは終始機嫌を良くしている。今日の出来事をマイナスがゼロに戻っただけのこととは思っていないらしい。

 あなたはメイカケイの笑い顔を見ながら、彼女が過去、これと似たような揉め事を何度も繰り返しており、また今後も繰り返すであろうことを、想像する。

「よう、婆さんよ」

「なんじゃい、半人前」

「俺は明日、ここを出るよ。世話になったな」

「そうかえ、清々すらあ」

 彼女はどうやら、言外にこう言っている――別れは寂しいが、お前を引き留めはしない、お互い達者でいよう、と。

 あなたは戸口の寝床に寝転がった。

「へっ! 好き勝手に飲み散らかして、好き勝手に去っていくのかえ」

 あなたは手を振り、眠りにつく。

 その夜更け、あなたは夢うつつの状態でメイカケイの言葉を聞いたような気がした。

「ありがとうな、エイカゲンニセイ。俺の息子よ」

 #172へ進む。

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