#009 火を伝える儀式

 邸宅に戻る途上、あなたはこれまでの旅の身の上を簡単に話した。ヒモリヌシ親子は、どの程度社交辞令的だったかは定かではないが、最後までその話を聞いてくれた。

 邸宅に戻ると、カオルは朝食の準備に向かった。あなたとヒモリは荷車や荷物を片付けた後、屋内に入る。

 ヒモリヌシがあなたに言う。

「では、君にエイカゲンニセイとしての最初の実践をしてもらおう。まずは君のランタンに火を灯したまえ」

 あなたはランタンを取り出し、火を灯す。するとヒモリはあなたを書斎へと連れ、棚の上にある小さな祭壇のようなものを指さした。火の消えたランプがある。

「さあ、君の火をあれに伝えるんだ」

 あなたは言われるままに、自分のランタンの火をそれに移した。あなたは問いかける。

「これにはどういった意味があるんですか」

「先にも言った通り、火は言葉や命でもある。君が生きていくなかで、君はそのようなものとしての火を伝えられつつ伝える。そのことをあらためて自覚するために、今のようにして、儀礼的に火を伝えるのだよ」

「では、私はこの火をずっと灯したままにすべきなんですか? つまり、私は自分のランタンの火を、私の命そのものであるかのように扱うべきなんですか?」

「そのランタンの火は君ではないし、それを灯し続ける必要もない。もっと言うなら、その火を灯すことに執着してはならない」

「それはどういうことですか」

「私達は、火のありさまを見ながら物事を考え、行ない、伝え合い、生きる。だが私達にとって重要なことは、言葉としての、行ないとしての、あるいは生命としての火であって、そのランタンの火ではない。ランタンの火を灯し続けることに執着するあまり、君の本当の火がおろそかにされるのは本末転倒なことだ」

「なるほど」

「ただし、これから同胞の家々を訪ねるときは、あらかじめ火を灯しておきたまえ。中には本当に年中無休で火を灯し続ける輩もいるのでね」

「わかりました」

「さて、それでは朝食をとりながら君がこれから向かうべき土地について話そう。君、カオルを呼んできてくれ。食堂にいると思う。朝食をこちらへ持ってきてくれ」

 あなたは食堂へ向かう。

 #012へ進む。

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