第13話 悪戯の名人

 彼女は悪戯好きだった。


 ある日、彼女と同室の患者の訴えに一切取り合わない医師がいた。


 彼女は医師が目を逸らした隙を見計らって、奇声を上げた。


「キミャヴヌー!」


 医師は椅子から飛び立って、慌てた。


「何だ! 一体何の音だ!?」


 忍び腰で右に左に視線を動かす医師。

 彼女は如何いかにも無関係を装って、きょとんとした。


 私は呆れるしかない。一先ず場を収めるため、彼女に代わってとぼけてみせる。


「さあ。“とり”でもいるとするんです?」


 実際、先程の奇声は鳥の鳴き声に聞こえなくもない。きっと怪鳥の類いだ。


 それにしても、ほとんど動けない華奢な少女の躰から、どうやったらあんな、横笛のように甲高く深い響きが発せられるのだろう。


「“鳥”なんて、伝説上の生き物がそうそういるかね」


 医師はそう否定しながらも、窓に映る曇り空に、数秒だけ真剣に目を向けた。

 空想に胸踊らせる少年探検家の面持ちで。


 この異世界に鳥類はいない。それどころか人間以外の生き物は存在しない。

 鳥を見た事がない者にとっては、私の感覚での宇宙人と同等の空想なのだ。


 医師が退室した後、悪戯に見事成功した少女は悪い顔で笑った。





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