第9話 飽和の少女と出会った
私は、急に思い立って、瓦解が重度の患者がどうなるか先輩に尋ねた。
九回、十回と転生に使われた躰は寝たきりになってしまうという。
それほど転生を繰り返せば瓦解の進行は急速に早まり、そんな躰に宿った転生者は一生を病棟の中で過ごす。
それを示す単語は『飽和』のような意味合いだった。
飽和には辛うじて救いがあった。
魂の入れ替えではなく、躰が死を迎えれば、その時に宿っていた最後の魂は別の世界へと転生できるのだ。
――ちなみに自殺後の魂がどうなるかは誰も知らない――。
故に、病棟での看取りの際、魂の解放と旅立ちに対する祝福の言葉が、患者へと贈られた。
私が初めて顔を合わせた飽和の患者は、外見が十五歳くらいの少女だった。
私が介護の仕事を始めて約三か月が経っていた。
俺は、先輩介護士に随伴し、少女の病室に立ち入った。
先輩が「躰、拭きましょうねぇ」と声を掛けながら、カーテン代わりの暗幕を引っ張った。
先輩は、外見が男性の俺が居る前で、少女の前開きの入院服を開いた。
少女の裸が見えた。
私の心は女性なので、裸が見えたところで少々の気まずさがある程度だ。
第一、介護を必要とする患者としてしか見ていない。
だが、少女は違った。
俺を見て、怯えてか細い悲鳴を上げたのだ。
勿論、躰は既に瓦解が重度であるため動かせない。
けれど少女の意識はそこに在るのだ。
先輩は少女の反応を意に介さず、躰をテキパキ拭いている。
私は思わず少女をバスタオルで覆い、「俺、続き、します」とバスタオルの下の躰を見ないように、直接は触れないように拭いた。
少女の目元が穏やかに細まり、安堵の色が滲んだ。
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