第4話 やがて瓦解する

 そこが異世界である事は疑いようもなかった。


 その世界では『転生』は当たり前にある現象であり、難病だった。

 それ以外の病気は――例えば、風邪すら――存在しなかった。


 世界のほぼ全ての住人が転生を経験する。


 転生とは正確には、何処か別の世界で命を落とした者がこの世界の誰かの躰に魂を宿らせる事を指した。

 その時、元々躰に居た誰かの魂は消失してしまう。


 私の感覚では『憑依』と呼ぶ方が正しそうだが、転生者から見れば死して再び生まれるため『転生』なのだとか。


 その世界の住人に、転生を止める術はない。


 例えば、転生してきた魂がこの世界に一生留まりたいと思えど、その意思を汲んでくれる神様は居ない。


 早ければ数年で、何処か別の世界で死んだ誰かに前触れもなく肉体を明け渡す事となる。


 更に、家族、恋人、友人がある日突然全く違う誰かの魂を宿らせてしまい、親しいその人は二度と帰らないという悲劇すら珍しくはない。


 無慈悲な世界だ。


 また、転生は魂の器となる躰に非常に負荷をかける。


 肉体が違う魂を受け入れられる限界はおよそ十回。


 ただし、多くの人は六回前後魂の入れ替えを行った時点で身体機能の著しい低下が始まる。

 その状態は現地の言葉で『瓦解』といったニュアンスで呼ばれる。


 私の転生したその国は、瓦解の進行した患者を受け入れていた。

 国全体が医療施設の集合体と言っても過言ではない。


 私が働く事となったこの病棟は、瓦解により生活に支障をきたすようになった患者の収容施設。


 瓦解の治療法は存在しないため『看取り』を中心とした終末期医療だ。

 どこの医療施設もそうだった。




 私も他の転生者と同じく、医師としての功績を積み上げてきた青年の魂を押し退け、ここに意識を持った。


 言葉が通じずとも、以前の青年が周囲の医療関係者や患者から惜しまれているのを感じた。


 この躰につい先日まで宿っていた青年は「ピヴルィ」と言う名らしい。


 この躰を借りているという感覚が強かった私は、そう呼ばれたらちゃんと振り向くこうと決めた。

 そして、なるべくは以前の彼のように振る舞おう。





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