第2話 男性になっていた

 目を覚ますと、草原が広がっていた。おそらく日本ではない。


 折り重なった雲が地平線の端から端まで覆っていなければ、どんなに開放感溢れる光景だったろう。


 草原に見とれていると、濁声だみごえで怒鳴られた。

 反射的に肩を竦める。


 私は、何故か馬車を押していた。


 雨で泥濘ぬかるんだ舗装されていない道が草原の右と左を分断していた。急に大地と雨上がりの匂いが鼻を衝いた。


 馬車の車輪が泥道にまり、それを数人がかりで抜け出させようとしているらしかった。私もその一人だ。


 私を怒鳴り付けた男性が、怪訝そうに何かを問い掛けてくるが理解できない。


 日本語ではない知らない言語。

 それは法則に従って組み立てられた人語の気がしなかった。


 異国を通り越して、異世界に来たような心地だった。

 発音の仕方があまりに違うためそう思うのか。

 ……後日、私はそこが本当に異世界であることを知った。


 先程はこの男性から「手を止めるな」とか「サボるな」といったようなことで注意されたと推測された。


 それならばと、これ以上不信に思われないために疑問や混乱は脇に置いて、今自分が取り組むべきなのだろう作業に集中した。


 ようやく馬車が動き出し、後ろの車輪が勢い良く回ると、私たち馬車を押す係は頭から盛大に泥を被った。


 馬車を押して汗だくになった男たちは腹を抱えて笑った。

 私も一仕事終えた達成感に酔って笑みを浮かべた。


 馬車に乗り込んでやっと自分の姿を顧みた。


 ああ、やっぱり。

 私の躰は、男性だった。


 嫌な気持ちはしなかった。

 現実感がなく、頭にもやが掛かっていたため、事態をそう深刻に受け取れなかったのかもしれない。


 何もかもが鈍かった。





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