10 顛末と安堵
※
奇跡の日からすでに、丸々ふた月が過ぎようとしている。あの日の出来事についてヴァンと共謀していたワルターは、すぐさま事前に練っていた計略どおり、策を進めた。
まずは大々的にエレナに起こった奇跡を公表し、彼が嫌悪していた大衆新聞社まで利用して、北方オウレアス王国まで情報を広める。
それと時を同じくして、処刑場で炎に焼かれても傷一つなく生還した王太女を見た民衆らは、口々にその噂を知人に広め、それは瞬く間に国中の民が知るところとなった。
エレナの神性は周知のこととなり、彼女の命はひとまず保証されることになる。
その後は国内の反乱分子のあぶり出しと処罰である。暫定
ワルターとしては、リュアンとイッダという諸悪の根源を生きて国外に出すことを危ぶみはしたが、世論が神の奇跡に湧く中で、その加護を受ける聖サシャ王国に仇なすことを謀る者がどれほどの数いるだろうかと熟思し、脅威にはならぬとの判断の上、渋々ながら受け入れたのである。
しかし、そのような配慮を受け入れなかったのは当のリュアンであった。あの忠実な騎士は、
アリアがイッダを連れて北へ戻る際、
両国間には、
さて、神官王は晴れて
岩の宮としても、突然のことに動揺を隠せない。あの奇跡の日、イアンがヴァンに頼まれた物を手にして戻ると、控室にはその姿はなく、ただ甘い芳香が室内に満ちていただけだった。報せを受けて現場にやって来たアリアがその香りを嗅ぎ、柳眉を顰めてなにやら思案をしていたが、当時はそれを追求する暇もない。
簒奪王の失踪はかえって神官王の利に働くかと思いきや、当の王は王位を甥に譲る考えだったようで、復位後もその消息を追っているらしい。
サシャの民には理解し難いが神官王は、秩序を乱し、異母兄を殺害した簒奪王こそを、正統な後継者として認識しているらしかった。ただしそんなことは、岩の宮の面々にとってはどちらでも良い。
この日、岩の宮は安堵と歓喜で騒然としていた。
処刑場での奇跡の直後、ワルターの腕の中で再び意識を失ったエレナは、深い眠りについたまま目を覚まさなかった。そんな彼女がやっと今日、瞼を上げたのである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます