第10話 突然の…。告白に秘められた気持ちと線香花火
黒崎くんがマッチで火をつけてくれる。
パチパチと小さい炎があがったと思ったら…ポトッと小さい火の玉が下に落ちた。
「あれ…落ちちゃった…。」
私に2本目を渡してくれて火をつけてくれた。
「よし!今度は大丈夫!」と意気込んでみたわりには1本目よりも早く落ちた…。
「あっ、なんでよ…。」
それを見ていた黒崎くんがクスっと笑った。
「ちょっと持ってみ。」
といい私が線香花火を持つと、ちがうといっていきなり手を握られ下の方に持ち替えさせてくれた。
私は一瞬、驚きで声がでなくなった…。
また胸が…変…これ…さっきのとおんなじ…。
「上をもつとふり幅が大きくなるから、できるだけ下の方をもつといい。」
「う、うん…。」
と私はそんな気持ちを隠せないほどに動揺してるのに、ポーカーフェイスの黒崎くんが火をつけてくれる。
今度はさっきよりも長くきれいに…そして華やかに燃えて火の玉が落ちた。
「ほんとだ、すごい!」といって黒崎くんのほうをみると優しい笑顔で私をみている。
なんだか恥ずかしい…。
はしゃいでる自分を見られたからなのか…それともその優しい笑顔に…なのか…。
「これ、最後な…。」
と最後の1本を手渡してくれ火をつけてくれる。
さっきとはちがって次は落ち着いて…ゆっくり眺めていられる。
パチパチと小さな音をたてて火花を散らす線香花火…。
じっと見つめていると…その火花の光の中に吸い込まれそうになる…。
「きれい…。」
私の口からはその言葉が気づかないままに自然にでていた。
「ああ、きれいだ…。」
と黒崎くんの声がすぐ横で聞こえた…。
私はこの幻想的な空間にいる私たちの時間が…少しの間、とまってくれたらいいのにって思ってた…。
「白瀬…。」
「ん?」
ふいに黒崎くんに呼ばれ振り向いた瞬間…唇へのあたたかい感触…。
しばらくその感触に包まれていた…。
黒崎くんの顔がわかるくらいにゆっくりと離れたとき…
「ごめん…いきなり…。」
そういわれて…初めて何がおこったのか理解した私…。
黒崎くんからのキス…。
私はうつむき恥ずかしさと戸惑いが交錯する中…このキスの理由を必死でさがしていた…。
「ずっと好きだった…。白瀬が花火を見つめる表情…綺麗で我慢できなかった…。もう1度言う…白瀬が好きだ。俺とつきあってほしい…。」
黒崎くんからの突然の告白に…私はすぐに言葉がでなかった…。
ふとみると線香花火はとっくに消えていた…。
「ずっとって…いつから私のことを…?」
ほんとにいつから…?
黒崎くんがなんて…そんなの考えたこともなかったのに…。
「図書室…知樹と話してたろ?あのとき俺…いたんだ。」
「うそ?」
それは私が赤井くんと初めて話をして…恋した日…。
そこに黒崎くんが…いた?
「知樹と一緒にきてて、知樹と話す白瀬のころころと変わる表情が妙に気になって…意識し始めた…。」
赤井くんとのあのやりとりを見られてた?
やだ…私、絶対へんな顔になってたのに…。
「白瀬…たぶん背が高いこと気にしてたろ?」
「えっ!なんでそれを…。」
「知樹が小柄だから余計…どこか一線をおいてるっていうか…なんとなくな…。あの時…待ち合わせの時も京也が白瀬を侮辱するようなこと言ったからむかついた…。」
「あの時って…そうだったの?私…てっきり京也くんにからかわれたから怒ったのかと…。」
「親友だぞ…そんなんしょっちゅうだし、そんなことじゃ怒んねえよ。」
そんなの…全然わからなかった…。
無表情で何考えてるかわからないし…。
黒崎くんのことはどちらかというと怖くてずっと避けてきたから…。
その彼が私を好き…?
それなのに私は赤井くんをずっと目で追ってた…黒崎くんの気持ちも知らないで…。
それって…それって…今日の私と同じ気持ちをずっとさせてたってこと…?
こんな辛い気持ちを…。
私の目からは自然に涙がぽろぽろとこぼれていた…。
「ごめん…。」
黒崎くんはそんな私をみて少しおどろいていたけど、何かを悟ったように冷静に言った。
「こっちこそごめんな…自分の気持ち…打ち明けるつもりなんてなかったし…白瀬にそんな辛い言葉いわせるつもりもなかった…ただ…白瀬の顔をみてたら体が勝手に…。」
黒崎くんの想いが痛いほどに伝わってくる…。
「俺…あいつの…知樹の気持ち…知ってたんだ…応援してやりたかった…。」
赤井くんのなっちゃんへの気持ちを…?
「知樹はこの祭りで…青野に気持ちを伝えるっていってた…だからあのとき…あいつらを2人にした…。」
ああ、そういえば…飲み物買いに行くとき、私の次に黒崎くんが真っ先に行くって言ってたっけ…。
「でもそれは同時に…白瀬の失恋を意味することにもなる…。俺は心のどこかでそれでもいいと思った…。誰にも…自分の親友にも…白瀬を渡したくないと思った…。」
そう言い終わった瞬間、黒崎くんがさっと立ち上がり夜空を見上げる。
そこには満点の星たちが…。
「そんな最低なやつだよ…俺は…。だから断ってくれてじつはほっとしてる…。一緒に花火したのが…知樹ならよかったのにな…。」
「えっ?何…それ?」
「昔からの言い伝え…この神社の境内で一緒に花火をみた男女は必ず結ばれるってな。」
「なんでそんなこと黒崎くんが知ってるの?」
私は思わず立ち上がった!
そんなロマンチックな話とは無縁そうな黒崎くんが知ってたことにほんとにおどろいた!
「なんでって…うちの両親、思い出話が好きで恥ずかしげもなくよくその話聞かされた…。2人も昔…ここでみたって花火…。それ…白瀬の両親からなんか聞いてない?」
「えっ、その話は母さんから今日、聞いただけだけど…。」
黒崎くんのご両親もここで…?
「ふーん、じゃあ、俺の父さんと白瀬の父さんが親友でそれぞれの彼女をつれてここで花火見ようってなったことは…知らない?」
「知らない!!そんなこと今、初めて聞いた!!」
母さんそんなこと一言も…。
帰ったらいっぱい聞かなきゃ!
「とにかく…そのチャンスはおれが潰した…軽蔑してくれていい…。」
いつもそうやって…まわりのことを考えて…苦しんで…それで自分の気持ちを抑えつけてきたの?
そんなの…こうやって言ってくれなきゃ…絶対にわかんないよ…。
「私は納得のうえで失恋したんだよ…黒崎くんのせいじゃない…。そりゃあ、今日1日いろんなことがあったけど…それも無駄じゃなかった…だって黒崎くんの本当の気持ちが知れたんだもん…これって…ちょっとすごいことじゃない?」
私は満面の笑みでそういった。
うそじゃない…本当のこと…。
「そうだな…。」
「それでね…黒崎くんにちゃんと言わなきゃいけないことがあるの…。」
「それはもう…さっき聞いたけど…?」
黒崎くんは包み隠さず全部自分の気持ちをいってくれた…。
だから私もちゃんと伝えなきゃ…今の自分の本当の気持ちを…。
「ちがう…。さっきのごめんは…今まで苦しい気持ちをずっとさせてきた黒崎くんへの申し訳ないことへのごめんなさい…。」
「白瀬…何いってんだ?」
黒崎くんが聞いたけど、私はそのまま続けた…。
「私ね…今日1日…黒崎くんにずっとドキドキしっぱなしだった…。自分でも正直なんで?って戸惑ってばかりで…。でも今やっとわかった!これが…恋なんだって!だから…」
私が最後の言葉を言おうとした瞬間…彼に…黒崎くんに抱きしめられていた…。
私はまた…彼の胸に顔うずめる形になった…。
顔をゆっくり横にむけると黒崎くんの心臓の鼓動が…早い…。
それに合わせて私の胸の鼓動も高鳴るのを感じた…。
「黒崎…くん…。」
「同情なんかすんな…俺は白瀬の失恋を望んだ男だぞ?」
口からでる言葉とは裏腹に…私を抱きしめる黒崎くんの手に…腕に…力がこもる。
「でもそれは…私のことが好きな裏返しなんでしょ?私もちょっとはわかるよ…好きな人の…赤井くんの恋の成就を願うなんてかっこいいこと思った自分がいたけど…本当にそうなのかなって…。行かないで…なんで私じゃないの?って思ってるから…心にぽっかり穴があいたようになってるんじゃないかって…自分って嫌なやつかもって…。」
「白瀬…。」
「そんな気持ち…私だけじゃなかったんだね…。その人が好きだからこそ…そうなっちゃう当たり前の気持ち…。黒崎くんは全然悪くないんだよ…。」
もう迷いなんかない…私は黒崎くんが好きなんだ!
私は目に浮かぶ涙がこぼれないよう必死でこらえながら彼を見上げた。
「だから…こんな私でよかったら…つきあってください…。」
黒崎くんは一瞬、目を見開きおどろいてはいたけど…すぐに優しく微笑んだ…。
そして…しばらくの間…私の頭をそっと優しくなでた…。
「小さいな…。」
「えっ?」
「俺の中では白瀬は小さくて可愛いよ…ずっと前からな…。」
私は初めて言われた言葉に戸惑いつつも…自分の中でずっと抱えてきたコンプレックスが音をたてて崩れていくのを感じた…。
「ありがとう…。」
「おい…それ俺が言うセリフだろ?ありがとな…。白瀬…好きだ…。」
彼に優しく見つめられ…強く抱きしめられたままの私は…降りてくる彼の唇に瞳を閉じすべてをゆだねた…。
どれくらいたっただろう…。
彼のあたたかな唇が離れたと同時に瞳をあけた…。
「そろそろ帰るか…?」
「うん…。」
私は気持ちがいっぱいいっぱいでそれ以上の言葉が見つからなかった…。
たぶん…黒崎くんも…。
「あっ、そうだ…1本だけ線香花火余ったけどやるか?」
「なんで?全部やったんじゃなかったの?」
「あー、俺、最後してなかったから…白瀬に見とれてて…。」
と少し照れてうつむく彼…。
「えっ…あ…。」
あの時…黒崎くんからの突然のキスの時…。
「はい…白瀬がやれよ。」
私はその最後の1本をうけとり、さっき言われたとおり下の方をもった。
黒崎くんがその線香花火に火をつけてくれる。
ぽっとついて徐々に燃え上がる小さな炎…。
「黒崎くんも上の方持ってくれる?一緒にしてほしい…。」
大きな花火は見ることができなかったけど…この小さくても力強く最後まで燃え尽きるこの線香花火を…私は黒崎くんと一緒にしたかったんだ…。
その気持ちを悟ったのか…黒崎くんは黙って1番上の羽の部分をそっと持ってくれた。
「きれいだね…。これって一緒に花火を見たってことになるのかなぁ…?」
「あたりまえだろ…大きくても小さくても…花火は花火だ!」
「うん!」
そう…断言してくれた黒崎くんの優しい笑顔に見とれている間に、最後の線香花火は落ちて消えていた…。
でも私の心にはもう…切なさも…悲しさもない…。
だって…私のそばにはもう…彼がいてくれるから…。
苦手だった…あの彼が…。
「行くぞ!」と手早くかたずけた黒崎くんがいう。
「うん!」といいながら私は彼のあとについていく…来るときとは違う軽い足取りで…。
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