第9話 縁起物と8の意味
黒崎くんは付属のマッチを取り出し準備をする。
「ねえ、線香花火って全部で何本?」
「8本だけど…何?」
「ううん、2人で4回ずつできるね。」
「俺はべつにいいから白瀬が全部やれよ。」
「べつにそんな意味で言ったんじゃ…。」
「・・・」
「一緒にしてくれる?1人じゃ寂しくなるから…。あっ、でも男の子は線香花火より華やかな花火のほうがいいよね…きっと…。」
「そんなことねえけど…大丈夫か?」
黒崎くんがそんなこというなんて…なんか意外…。
「なんで…そんなこと…。」
「いや…さっきも泣いてたし…。」
心のどこかで気丈にしとかなくちゃって…思ってたんだけどな…。
そっか…やっぱり変に思われてたよね…。
心の中を悟られた恥ずかしさと同時に、それまで必死に抑えていた切なさと悲しみがどっとこみあげてくる。
私はそっとうつむいた…。
と目にうつるのは…この白いビーチサンダル…青いアサガオの飾りがついた…。
自分の抑えている感情がいっぱいいっぱいまで追い込まれている気がした…。
目にうつっているはずの白いビーチサンダルがぼやけてゆがんでいくのがわかった…。
そして一粒…また一粒と涙がこぼれる。
「おい…。」
と黒崎くんが少し動揺した声で私に言った。
「私ね…この白いビーチサンダルを初めてみたとき、これを履いたら背が低くなるし、赤井くん…ちょっとはかわいいねってほめてくれるかなって思ったんだぁ…。そんな不純な動機…。でも失恋して…必要なくなったはずだったんだけど、最後に気持ちをリセットできるかなって思ってやってみたら…見事に外れ…。あたりまえに見れると思ってた花火だって…結局見れなかった…ほんと笑っちゃうでしょ?」
黒崎くんは黙って私の話に耳を傾け聞いてくれている。
「せっかく黒崎くんがとってくれたこのサンダルを私はもう…むなしいものだって思っちゃったんだ…。最低だよね?」
「今も…そう思うのか?」と黒崎くんが言う。
あらためてそう聞かれても私はすぐに答えが見つからない…。
「わかんない…。でもこれを見るたびに…今日の悲しい1日がよみがえる…縁起の悪いものに思えるようで嫌かも…。」
黒崎くんがあきれた表情でため息をつき私をみる。
「縁起が悪いってなんだよ。俺からすりゃ…そのサンダルは縁起のいいものでしかねえけどな。」
「えっ?どうして?」
私は黒崎くんが言ってる意味が本当にわからなかった。
今のこの状況でなんでそんなことがいえるの?
「8…。」
「えっ?」
「数字の8だ。」
「8がどうしたの?」
「あのな…分かってねぇから言っとくが8って数字はな、昔っから末広がりで縁起がいいとされてる数字なんだよ。達成とか成功って意味合いもある。8を横にしてみ?」
私は頭の中で8を横にしてイメージしてみた…。
「ループかな?」
「そう。無限に…とか永遠に…とかの意味になる。分かるか?」
「うん…恋愛とか結婚だったらうれしいよね、永遠に…って言葉!」
はっ!私…何言ってんだろ…さっき失恋したばかりなのに…もう…。
でもなぜか…自然に出てきた言葉…。
「まあ、そうだな…あとそのサンダルな。それも8が関係してるの…気づいてない?」
「えっ?」
「やっぱり気づいてなかったか…。景品の番号は?射的でとれた回数は?」
そう言われて考えてみた。
景品の番号も…黒崎くんが射的でとってくれたのを含めた回数も…
「全部…8!」
「この線香花火の本数もな。」
黒崎くんが優しく微笑む。
「それだけじゃない。このサンダルがとれたのも…今、白瀬がそれを履いてここにいるこの状況も…俺にとってはすべてが縁起のいいことなんだよ…。」
私は黒崎くんの熱のこもったその話に聞き入っていた!
「すごいね…黒崎くん!物知りな上に…ただむなしくなるはずだったこのサンダルのイメージまでいいものに変えてくれた!ちょっとうれしい…ありがとう…。」
そう笑って黒崎くんの顔を見上げると、少し困った…複雑な表情をしている黒崎くんがそこにいた。
「どうしたの?」
「いや…なんでも。線香花火するか?」
「うん!」
そのときの私の心は…すっかり晴れやかになっていた!
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